真理亜は微笑む
彩花の微笑みとは違う
妖しく美しい
吸い寄せられるような微笑み
「首の動脈を切れば一秒もせずあの世に行けますよ」
「・・・・・」
「怖いでしょう?」
「怖いよ」
「なら帰って、私はここにいたいんです」
「帰らない」
「・・・帰って」
「帰らない!」
「帰れと行っているでしょ!」
「・・・5秒先が分かるなら俺が何を言うか分かるんだろ?」
「・・・・・・」
真理亜は黙った
刀身は俺に向けたまま
「・・・・お兄様、隠れててください」
「え?」
「できれば逃げて」
真理亜が背中を向けた
刀を構える先に
熊・・・熊だ
ものすごく大きな熊
「え・・・・」
俺はビビってその場に座り込んだ
真理亜は苦笑した
「まるで二人の化身のようね・・・」
熊が雄叫びをあげる
熊って臆病な生き物だよな
なんであんなに襲う気満々なんだ
真理亜がゆっくりと歩みだす
「憑かれたの?熊さん?」
微笑む
怖い・・・
熊より真理亜が
怖い
なぜああも動じないのだ・・・
熊が走り出す
真理亜との距離が縮まる
「おいで、綺麗に逝かせてあげる」
食われる・・・いくらなんでも・・・無理だ
もう・・・おしまいだ
ぐわぉおおおお!
叫び声がして
目を閉じた
しばらくして
音がない
なにも音がしない
目を開ける
ゆっくりと
見えたものは
地面に倒れた熊と・・・
やさしく熊の頭を撫でる真理亜・・・
「ごめんね・・・」
そう囁きながら涙を流した
怖くて立ち上がれない
真理亜は血のついた刀を雪の積もった地面に突き刺した
引き抜くと血は綺麗に無くなっていた
真理亜は振り返り
墓標に刀を向ける
「私は刃向かえなかった」
そう言う彼女
誰の墓なのか
分からない
「・・・・ここから、離れる勇気が無かった・・・でも」
真理亜が刀を構えて
振り下ろす
墓標は真っ二つ
「・・・・今は違う」
真理亜はくるりと器用に刀を回して鞘に納めた
「真理亜・・・」
「お兄様・・・」
「真理亜、怪我は?大丈夫か?おいで・・・おいで・・・」
真理亜が近寄る
膝から落ちるように座りこんだ
俺はかけよって抱き締めた
きつく、きつく・・・ぎゅーっと、力の限り
真理亜が痛いって思うくらい・・・
「普通なら・・・俺が熊を倒すんだよな?」
「ふふ、そうですよ。・・・・貧弱なお兄様」
「う・・・」
「あったかぃ・・」
真理亜が嬉しそうに微笑んだ
俺はさらに強く抱き締めた
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