それから田口君は自分から悩みを俺に相談してくれるようになってきた
恋愛ができない事、母親が頻繁に連絡をしてくる事
仕事は相変わらずよくできている
俺はなるべく相談に乗るようにした
そしてまたある日飲み屋で話した時
「息抜き・・・カラオケが楽しいかなって思ってまして」
「おぉ、いいな!俺もカラオケ好きだぞ?」
「あ、あの・・・一緒に行ってくださいませんか?」
「いいに決まってるだろが!二人で喉を枯らそうぜ!」
二人でカラオケに行ってみたら
彼はかなり歌が上手いようだ
そして、なんとも楽しそうに笑って歌う
彼がこんなに楽しそうにしているのは初めて見た
「う、うめぇ・・・」
「部長もお上手ですよ!」
それから・・・またしばらくして
田口君にまた相談された
「俺、ネットでカラオケ仲間がたくさんできて・・・な、仲良くなった女の子の事好きになりました!こ、告白するにはどうしたら」
「おう、素直に気持ちをぶつけてみな!フラれたら酔いつぶれるまで飲もうぜ!」
「はいっ!」
よく笑うようになってくれた
職場でも他の部下と仲良くなって仕事の連携もうまくいくようになった
アメリカでは職場は金を稼ぐ場であるし
こうやって部下と親密になる事はあまり無いと聞いた
資本主義ではそちらのほうがいいのかもしれない
だが俺はこういう職場が好きだ
ただの馴れ合いかもしれないが
俺は情のある暖かい職場を作るよう勤めている
・・・・・・しばらくして
田口君が亡くなった
自ら命を絶った・・・・
急だった
俺は職場を代表して葬儀に参加した
彼の両親に会って少し話をしてみたかった
父親は特に何も言わず泣かず、俺に対する感謝の言葉を一礼して言った
母親は俺を睨み付ける
なんなんだろうか
「あなたね、ウチの息子をおかしくさせたのは」
「はい?」
「息子はカラオケを趣味にしたんですって!?あなたが息抜きしろなんて言うからそんな無駄な事始めてしまったんです!」
母親は口を動かすのをやめない
「電話で毎日毎晩そんな事やめなさいって!サークルで知り合った女と付き合う?冗談じゃないわよ!言ったのに・・・言ったのに」
母親は泣きくずれた
俺は必要な言葉をのべて立ち去った
あの母親に何を言っても無駄だとすぐに分かった
立ち去る前に父親に封筒を渡された
俺宛の手紙らしい
父親はため息をついて俺にこう言った
「家族なんてうんざりです」
俺は感情を圧し殺して葬儀場から立ち去った
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