昔、結愛が迷子になった時があった
俺は必死に探した
そう、俺だけだ
この頃から妻はもうおかしかったのかもしれない
俺は大雨の中、びしょ濡れで町中を探してまわった
走って走って思い当たる場所をすべて見て回った
公園の遊具のトンネルの中に結愛はいた
「おとうさん」
涙目で俺に抱きついてきた結愛は小さく震えながら、でも嬉しそうな顔をしていた
二人で雨が止むまで抱き合っていた
結愛が怖がらないようにいろんなお話をしてあげた
「おとうさんはね、峠の覇王と呼ばれててな・・・」
「つまんない」
「・・・・・よし、結愛の将来の夢はなんだ?」
結愛はじっと俺の顔を見て
「おとうさんのおよめさんになる事♪」
愛しくてたまらなくなった
雨がやんで、そして俺は見知らぬ小さな洋食店を見つけた
「ここ・・・覚えてる?」
「うん・・・」
「ここで食べたオムライスが思い出になったんだろ?」
結愛は少し笑ってうなずいた
ドアを開けた
チリンチリンと鈴が鳴った
「いらっしゃいませ」
年老いた店主だ
たぶん俺たちの事は覚えていないだろうな
「オムライス二つとホットミルク二つ」
店主はかしこまりましたと言って厨房に向かった
結愛と俺で窓辺の席に向かい合うように座った
「・・・・おとうさん、ちゃんと覚えてた」
「忘れるわけないよ」
結愛がもじもじしてしゃべらなくなった
店の中は昔と変わっていないな・・・・
「おまたせしました」
オムライスとホットミルクが運ばれてきた
おいしそう・・・
あの時は味わう余裕は無かったな
結愛と俺は味わうように食べた
とってもおいしくて暖かい
「おとうさん・・・」
「ん?」
「すっごくおいしい」
あぁ、あの時と変わらない
娘の笑顔はいつまでも・・・・愛しくさせる
「雨だ・・・傘ある?」
「んと・・・無い」
「駐車場まで濡れて行く?」
「んー・・・止むまで待とう」
店先で雨が止むのを待っていると
店主が傘を一本持ってきてくれた
「傘を一本さしあげます」
「あ、あとで返します!」
「いえいえ、いいんですよ、久しぶりにいらっしゃってくれたんですから・・・あぁ、傘を差し上げるのはこれで二度目ですね」
店主はニコッと笑って店に戻った
覚えててくれたのか
あの日も傘を貸してくれたんだっけ
結愛はニコッと笑って俺にすりよってきた
「相合傘だね」
「だな・・・さ、帰ろう」
結愛と一緒に二人で
このまま二人で生きていきたいな・・・
ずっと・・・いつまでも
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