「あれ以来ご無沙汰して、すいません。」
洋子ママの姿が、喫茶室の入口に見えた。ピアノの先生だし。私は、深い敬意を表する意味で、立ち上がったまま、向こうから優雅に歩いてくる洋子ママの着席を待った。
「私の方こそ、お呼びたてしてごめんなさい。お忙しい健一さんを。本当にごめんなさい。
健一さんって、洒落たところをご存知なのね。」
洋子ママが、辺りの様子を窺うように、その大きな眼をぐるぐるさせた。
「仕事でよく使うんですよ。ここのこの席は、一番奥で、少し位込み入った話でも周囲に気を使わなくてすみますし。」
そんなことはない。由美子女史との面接で、使ったに過ぎない。リーガは、由美子女史の行き付けだ。
「でも洋子さん、すっかりイメージチェンジしましたね。凄くびっくりしましたよ。」
セミロングのウェーブがストレートになったし。上下黒っぽいジャケットにロングドレスだし。どちらかと言えば、母友枝のイメージに近いが装いだ。しかし。洋子ママの場合、所謂ジミハデというやつで、ぴか一洗練されている。
それに比べて。うちの母はどう転がってもダサイ雰囲気を払拭出来ない。田中は、そこが魅力的だと言うのだが、母のダサさは、理系国立大から教師という流れに起因してるようだ。
「最近、アメリカン・スタイルに飽きちゃっんたんで。イメチェンのつもり!健一さんは、どちらがお好みかな?」
洋子ママが、自信たっぷりな視線を投げ掛けた。
「そうですね。僕的には、両方好きというか。どんなスタイルでも、洋子さんみたく、センスが良くて似合ってればOKですし・・それに内面性が、服装のセンスを左右しますからね。」
我ながら、満点といえる切り返しだ。
「あらあ、若いのに哲学があって素敵。」
洋子ママは、まさに我が意を得たりとばかりに、満面の笑みを浮かべた。魅力的な洋子ママと相対していると、ヤハリ○ンポは、いつの間にかムクムクと勃起してくる。
「話は変わるけど、最近ブルースに、随分とのめりこんでるの。」
洋子ママは、中々本題に入らない。
「ブルースって、黒人ブルースですか?」
そう。ブルース音楽って、何だか、麻薬みたいなもので。ビートルズやカーペンターズは、お子様ランチってところかな?」
私も、ブルースには、詳しい。
「どの辺のブルースですか?例えば、三大キングプラスマディ・ウォーターズとか。BBキングアルバート・キングそしてフレディ・キング辺りですかね。」
「さすが通の健一さん、ズバリよ。今、オヤジバンドやってる人のピアノを見てあげてて、この親父の影響を諸に受けちゃったの。」
「その人、幾つ位ですか?」
「60近いんじゃないかな?」
「音楽好きのオヤジは、皆エロいですからね。要注意ですよ!」
「アハハハ!孝司も同じこと言ってたわ。」
洋子ママが、愉快そうに大笑いした。そこで、本題に私の方から、切り込んでみた。
「ところで孝司のことですが・・最近、サウナに行ったばかりで。凄く元気そうでしたけど。何か、ありましたか?」
陽気な洋子ママの眉が、一瞬曇った。
「ううん、正確には、孝司に起因した私の問題というのこづわね。」
いつもなら、あけすけで喋る洋子ママだが。周囲を用心深く見回すと、顔を近づけて来た。大きな瞳と通った鼻筋は、改めて正統派の美女だと思った。センスの良い香水の香りも漂って来る。
「いつぞやのセッションのこと覚えてるでしょ?」
「はい、覚えてるどころか、あんな凄い体験、忘れようにも、忘れられませんよね。」
私と洋子ママは、更に、顔を近づけた。
「健一さん驚かないで。実は、来るべきものが来ないのよ。」
暫くの間、意味がわからず、ぼーっとしていた。それを見かねたのか。洋子ママは、私の耳元で。囁いた。
「生理が来ないのよ。」
「マジですか?ヤバいですよ。うーん。あの時、僕も孝司も裸。そして洋子さんも・・でしたね。そう言えば、孝司のピストン運動は、異常に激しかったな。」
私は、記憶をたどっていた。一発目は、ストールに片足を乗せた洋子ママの股間に。二発目は、壁に手をつかせて、バックから。いずれも、孝司はたくさんの精液を生で放出していた。ゴムなしだから、孝司の精液が、洋子ママを妊娠させたとしても不思議ではない。
「相手は、孝司ではなく、旦那さんということはありませんか?」
「主人は、必ずゴムありだから、あり得ないの・・それで、凄く言いにくいんだけど。・・最悪の場合は、健一さんに付き合ってもらいたいの。」
洋子ママは、膝のところにキチッと両手を重ねて頭を下げた。大きな瞳が、深い憂いをたたえている。
その意味を理解して、私の顔から血の気が引いた。
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