その訪問者は、ヅカヅカと亮一と加奈子のいる居間に入るなり「おうっ?加奈かぁ?」
と大きな声を放った。その顔を見るなり加奈子はあ然とした。そして父親とその者を何度も
見比べた。「…健次…叔父ちゃん…?」加奈子はつぶやくように言った。
それは、亮一の双子の弟の健次だった。一卵性双生児の中でも二人は特に似ている。
「おっ、覚えててくれたか。よぉ、兄貴」健次は亮一にも声をかけた。
健次が亮一達に会うのは久しぶりだった。麻衣子が死んだ頃、健次は私生活がゴタゴタし、
葬儀にも来なかった。とは言ってもその前から、めったに顔を合わせることはなかった。
決して不仲な訳ではない。双子ではあるが、性格が違いすぎるのだ。
亮一は真面目で寡黙な程だが、健次は社交的で少し女にだらしないところがあった。
健次には離婚歴がある。子持ちの女性と結婚したのだが、その連れ子に手を出してしまい
すったもんだのあげくに離婚した。その後も懲りずに女性遍歴を繰り返している。
今日は仕事で近くに来たから寄ったと言い、仏壇の父母に手を合わせた後、久しぶりの生家で
くつろいだ。そしてあらためて加奈子のそばに座ると、舐め回すような無遠慮な目つきで、
姪をジロジロと見た。
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