暗闇の中を泣きながら走りつづけた。
女の足だから、それほどの速さはない。
おまけに逃げるのを邪魔するように密生した葦が、前に進めようとする足に絡みつく。
何度も転びそうになり、萎えそうになる足を叱咤しながら、八重は走りつづけた。
次から次へと涙が溢れだして止まらなかった。
恐怖が、唇を震わせる。
さっきまで一緒にいたのは確かに京介だった。
でも、あれは京介じゃない。
凶々しい化け物だ。
八重には、なぜかそう思えてならなかった。
怖くて何度も振り返った。
何度目かに、はるか後ろに立っていたはずの京介の姿が消えていた。
くる・・・。
もう、後ろを振り返ることはできなかった。
振り返ったが最後、化け物に変わった京介がたちまち襲いかかってくるような気がしてならない。
「やだぁ・・・もう、やだぁ・・・・」
八重は走りながら、声を出して泣いた。
可愛らしい女性だった。
小顔の丸顔は、まったくと言っていいほど年齢を感じさせず、彼女の実年齢を聞いて驚く者は多い。
背丈はそこそこあったが、身体は細く、しなやかに伸びた足は綺麗にまっすぐと上へと伸びていた。
痩せてはいるが、胸やお尻はそれなりにボリュームもあり、前から見ても、後ろから見ても飽きない体をした八重だった。
キュートと言うより、コケティッシュといった印象が強いが、化粧をすれば、見事に化けて熟した女の顔にも変わる。
しかし、普段はどちらかと言えば子供っぽい表情をすることが多かった。
京介が大人になってからは、いつも子供扱いされてきた。
それを喜んでしまったのは、たくましく育った息子が傍にいてくれることが嬉しくてならなかったからだ。
嬉しすぎて、京介に許してしまった。
傍にいて欲しいあまりに、許しつづけて性奴隷にまで墜とされた。
今は、闇に染められた河川敷をその息子に泣きながら走らされている。
「怖いよ・・京ちゃん、怖いよぉ・・・」
泣きながら京介に訴えた。
誰に言うともなく、口をついていた。
最後に頼るべきは、やはり京介しかいなかった。
八重の根底には、ずっとそれだけがある。
耳に聞こえるのは、緩やかな河の流れと、かすめていく風を切る音、そして、咽び泣く自分の声だけだった。
「ひぃっ!!」
ガサリと、すぐ横で何かが動き、八重は悲鳴を上げて咄嗟に走る方向を変えた。
その瞬間、何かが自分の脇を走り抜けた。
不意に、その人影は立ちはだかるように目の前に現れた。
「きゃ!・・・うぅぅ・・・・」
悲鳴を上げるよりも早く、その人影に口を塞がれた。
もの凄い力だった。
あっという間に背中に回り込まれ、背後から羽交い締めにされて八重は身動きが取れなくなった。
必死に藻掻きながら、足をばたつかせようとしたところで身体が宙に浮いた。
両足が浮いたと思ったら、そのまま地面に叩きつけられた。
母親の本能がそうさせたのか、咄嗟にお腹をかばっていた。
両手でお腹を抱え込むようにしたから、八重は顔から地面に叩きつけられてしまった。
額に鋭い痛みを覚えて、意識が混濁した。
朦朧としているところを仰向けにされ、お腹をかばう両手の上に影が乗ってきた。
お腹に馬乗りになった影は、おもむろに髪を鷲掴みにしてきた。
月はなかったが、夜空は明るかった。
その明るい夜空を背景にした影の表情は、闇の中に溶けてまったくわからなかった。
「きょ、京・・ちゃん?・・・」
八重を見おろしながら、ぎらつく瞳を向けているのだけは確かだった。
しかし、その影が何者であるかは、まだ朦朧とした意識の中では判然としなかった。
影は、八重の問いかけに応えなかった。
引っこ抜こうかとするように、鷲掴みにした豊かな髪を乱暴に揺さぶった。
「い、痛い・・」
頭頂部の鈍い痛みに呻いたときだった。
不意に頬に激しい衝撃を受け、八重はまた意識が飛びそうになった。
憐憫の情など欠片もない、容赦のない力だった。
影の振り上げた手が、立て続けに八重の頬に向かって打ち下ろされた。
「あぎっ!・・・ひっ!・・・やっ!!・・・」
抗おうとしたが無駄だった。
影の腕は何をしたところで止まらず、自分の頬を打つ音を幾度も聞かされながら、それは八重から抵抗する気力がなくなるまでつづけられた。
ぐったりとなって声も出せなくなると、ようやく振り上げた手は止まった。
涙に視界が歪んで、影の姿さえもはっきりとはわからなかった。
ぼんやりとした意識は、自分がどこにいるのかさえもわからせない。
死んだように横たわっていると、おもむろにシャツを引き裂かれた。
これから陵辱が始まるのだった。
あっという間に八重のシャツはボロ切れになった。
ブラも引き千切られ、胸を露わにされた。
待ちきれないように影が掴んできた。
握り潰さんばかりにきつく乳房を掴んだまま、スカートの中に手を入れてきた。
ショーツも呆気なく引き裂かれて奪われた。
そのまま、ぐっ、と秘部に指を差し込まれ、八重は咄嗟に足を閉じようとした。
「い、いや・・・」
震える声で懸命にそれだけを言った。
影の動きが止まった。
また頬を打たれる。
瞬間的にそう思った。
影は打たなかった。
代わりに八重の目の前で、手にしていたものを開いていった。
ナイフだった。
影は、いつの間にか手にナイフを握っていた。
開いた刃先を見せつけた。
打たれて熱を持った頬にゆっくりと冷たい刃先を押しつけた。
歯がカチカチと震えた。
どうしてナイフなんか・・・。
理解できなかった。
影がゆっくりと身を乗り出してきて、顔を近づける。
まだ闇に溶けたままの影の顔は、はっきりとわからない。
「死にたくなければ、おとなしくしてろ・・・」
冷たい声で影が言った。
いたぶるように冷たい刃先を八重の頬に滑らせた。
八重は、はっ、となった。
声が違う・・・。
滑舌の悪い、くぐもった声だった。
背筋に冷たいものが走り抜けた。
正体はわからない。
しかし、八重に跨っているのは京介ではない。
ここには、八重と京介しかいないはずだった。
でも、目の前にいる男は京介じゃない。
恐怖にたちまち肌が泡だった。
身体中が震えて、叫び出しそうになっていた。
喉の奥から飛び出そうとするものを必死になって堪えた。
叫んだ瞬間に、あのナイフは八重の肌に突き立てられる。
その恐怖が八重を黙らせた。
「叫んだら、殺すぞ・・・」
八重は目をむきながら、何度も頷いた。
男はナイフを持たないほうの手で、八重の細い首を握ってきた。
五本の指が、両側から首を徐々に圧迫していく。
恐怖に声も出せなかった。
わずかに力を込めた手で細首を握ったまま、男は上半身を振り返らせると、今度はナイフでスカートを切り裂いていった。
縦に何度も裂かれて、スカートはのれんのような長いだけの布きれに変わり果てた。
河原を吹き抜ける風に、わずかに残っている性毛が頼りなげにそよいだ。
何も隠す物がなくなったそこに、男は面白がるようにナイフを押し当てた。
「や、やめ・・・」
震える声を出した途端、首を握った手に力が込められた。
どうすることもできなかった。
八重の性器にナイフを押し当てたまま、影は器用に片手でズボンのベルトを緩めると、「動いたら殺すぞ・・」と脅してから、立ち上がった。
八重を跨ぎながら急くようにズボンを脱いでいき、下半身だけ裸になってしまうと、足の間に身体を入れた。
両足が肩に担ぎ上げられた。
熱を孕んだ肉塊を自分で握りながら、八重の秘裂に擦りつけた。
そのまま先が潜り込んできて、それは止まることなく胎内の奥深くまで一気に入ってきた。
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