「お母さん、眼鏡はずすと何にも見えないのよ。。」既に8時過ぎているので、地下の喫茶店から地上に出ると、街は真っ暗だった。「母さん近眼だからね。暗くなると見えないでしょ。さあ、僕の手を握って。」目的のビルは、一回目抜通りに出て、オフィス街の一画にある。歩くと、大分かかってしまう。「さあ、母さん、ゆっくり歩きながら行こうか。」街は、土曜日だからか、この時間帯になっても、大勢の人並みで混雑していた。他のアベックに刺激されたのか、セーラー服の母が、私の手をぎゅっと握りしめ、体を寄せて来た。「母さんね。何だか、凄く幸せな気分。。本当に、学生時代に戻ったみたい。」「母さんの学生時代って、やっぱり勉強ばっかりだったの?」と私。この時間になると、若い社会人と自称女子高生のカップルは、さすがに人目につくのか。カップルで歩く女性の方が、母をチラチラ見ている。
この時点では、私より母の方が大胆になってしまっていた。意に介さず、目的のビル迄の道すがら、会話も途切れなく続いた。「そう、母さん勉強が好きだったの。特に数学ばっかりお勉強してたわ。だから、男の人とのお付き合いはなかったわ。。」懐かしそうな母友枝。
「そうすると、親父と結婚して、初めてってわけだね。。」
「そう。ずっと、あんなことするのが、いやだったのよ。」
「今は、大好きなんだ?」「ううん。アレというより健ちゃんが、大好きなのよ。自分産んだ息子なのに、変だよね。貴方とこうなりたいと思ってたの。」母が、ぐっと体を密着させて来た。他人の目は、一切気にならない世界に没頭している。私は、知り合いに会わないか。周囲に気を配りながら、歩いた。
「僕も友枝のこと、大好きなんだから!」いつしかエロいムードが、高まり過ぎて、目抜通りから暗がりの路地に入って、かなり激しく唇を吸いあった。近くの開店前のスナックから、ママらしき女の人が出て来て、「あらまあ。」と驚きの声をあげた。
「さあ、このビルだよ。」管理人室は、管理人が帰ってしまい電気が消えている。ドキッとしたのは、エレベーターで二階からテナントの社員が一人乗り込んで来た時だ。エレベーター内は、近距離だし明るいし、はっきりと母の老け顔を見られた。幸い、五階で降りてくれたが、降りる際に頻りに首をひねっていた。母が、クスクス笑いだした。
「あの人、私の顔見てびっくりしてたわよ。超オバサンの女子高生だから。。」 「あいつ、後から覗きに来るかも。」私も笑いが、止まらなかった。
6階はテナントがいないので、廊下は薄明かりだ。キッチンの奥に、男女のトイレが微かに見えた。
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