義母の帰宅は予告通りで正午前でした。
尤もらしい深刻そうな御託を並べて、三人の女性たちとの行く末を
あれこれと思い悩む割りには、根が自堕落で楽天的な性分なのか、僕
は義母の心地よい残り香の漂う布団の中で、いつの間にか微睡んでし
まっていたようでした。
「浩二さん…」
まだ夢見心地の僕の耳許あたりで優しく呼びかける義母の声に起こ
されるまで、彼女の帰宅の気配すら知らずにいました。
義母はすでに僕の寝ている布団の真横に座っていて、細い銀縁の眼
鏡の奥の切れ長の目に、子を見る母のような優しげな情感を漂わせ、
仄明るい笑みを浮かべて、僕を覗き込んできていました。
「大丈夫?…疲れてるの?」
白い歯を見せて優しく気遣うような声で聞いてくる義母の顔との距
離の近さに、僕は少しばかり狼狽えながら、
「あ、あぁ、おかえり…」
と言葉を返すのがやっとでした。
「旅行の疲れがまだとれてないのかしら?」
何気ない義母の気遣いの言葉でしたが、僕はまた少し動揺してしま
い、
「い、いや…亜紀子の布団、寝心地よかったんでつい…」
とまるで弁明口調のように応えていました。
新潟で加奈子と会っていたことを伏せているという、脛に傷持つ身
には、少し面映い義母の問いかけでした。
「お昼はおうどんにするけど、いい?」
そういって義母は立ち上がり襖戸のほうに歩きかけてから、
「ダイニングは寒いから、出来たらここに持ってきてあげるわね。
だからもう少し休んでて」
と優しい言葉を補足して、室を出て行きました。
義母の心底からの優しい心配りと気遣いには、いつもながら胸を打
たれるばかりでしたが、逆にそうされればされるほど、何故か僕の心
の奥底のほうから、この優しく美しい義母を虐め辱めたいという嗜虐
的な発想が、時として唐突に湧き上がってくる時があります。
今の僕の気持ちがそうでした。
濃いグレーのスーツを清楚に着こなした義母が、去っていく後姿を
漫然と見送った時、僕の心の中に不意にというか、そんな淫靡な思い
が浮かんだのです。
僕の新潟行きとかもあって、義母との間近な接触は久しぶりのこと
です。
その新潟では義母にはいえないことですが、加奈子との少しばかり
ほろ苦い夜を過ごしてしまい、男として微妙な鬱屈のようなものを残
して帰ったという思いが、僕のほうにはありました。
温泉宿の家族風呂で激しく絡み合った、加奈子の若く瑞々しい肢体
が、ふと僕の頭の中を過ぎりました。
そして今、義母が帰宅するまでに読み耽った、彼女と僕との行為を
生々しく綴った日記。
布団に沁みた義母の艶かしい女の残り香。
そういえば妻の由美とも、何故かこの一週間ほどは身体を交えてい
ない。
それらの思いが全て集約されるかのように、脈々とした血流となっ
て、今、僕の身体の下腹部のあたりを激しく淫靡にざわめかせてきて
いました。
何か形容し難い妖しい熱を帯びた風が、身体の中から吹き上げてき
ているような感覚に僕はなっていました。
間もなくそんな僕の淫欲な好餌となることなど知る由もなく、義母
は食事の用意のために、ダイニングと寝室を甲斐甲斐しく何度も往復
してくれました。
義母の机の上に、うどんと漬物の入った小鉢が置かれました。
「着替えるから、後ろ見ないで食べてね…」
頬と細い首のあたりを仄赤く染めながら、義母は気恥ずかしげに小
さな声でいって、椅子に座った僕の背後に廻っていました。
温かい湯気の立つうどんを啜りながら、
「着替えるって何に?」
と僕は意地の悪い問いかけを、義母に投げつけました。
「えっ?…」
と訝しげに背後から応える義母に、
「今から一緒に寝るんだから、裸になって布団に入ればいいじゃん」
と僕はわざと乱暴な口調で言葉を返し、不意に椅子を後ろに廻しま
した。
驚きの表情を露わにして、義母が洋箪笥の前で立ち竦んでいるのが
見えました。
グレーのパンツを脱ぎ下ろして、スカートに穿き替えようとしてい
たところらしく、義母の下半身の黒のパンティストッキングと薄水色
のガードルが露わになっていました。
「いやっ…見ないで…」
そういって義母は慌てた素振りで、僕に背中を向けていました。
「室、暖かくしておいたから、そこで全部脱いで見せて」
この時の僕の心はもう半分以上、目には見えぬ淫欲の悪魔に取り憑
かれていました。
「いや、そんな…恥ずかしいわ」
顔を僕に背けたまま、義母は上着を脱いだセーターの細い両肩を強
く揺らせながら、少し怒ったような口調で拒んできました。
「どうせ裸になって、僕に抱かれるんじゃないか…」
「そ、そんな乱暴ないいかたする浩二さんって、嫌いっ」
「亜紀子の綺麗な裸が見たい、というのが僕の本心だよ」
「…でも、そういういいかた…」
「言葉が悪かったら謝るよ。ごめん」
僕はそこでしおらしくそういって、義母に素直に頭を下げた後、
「亜紀子のことが好きだから…つい」
と言葉を付け足して、身体の向きをまた机のほうに戻しました。
僕がうどんを啜る音だけが聞こえる、微妙な沈黙の時が流れました。
声を出すこともなく背中を窄めるようにして、うどんを食べること
だけに没頭していた僕の背後で、布地のようなものが擦れ合う
かすかな物音がしていました。
僕の姑息で狡猾な魂胆の通り、義母が黙ったまま背後で衣服を脱い
でいるのが、沈黙の中の気配でわかりました。
やがて椅子のすぐ真後ろの上布団がふわりと揺れ動き、義母が布団
の中に潜り込む気配を僕は察知しました。
まるで子供が親の前で拗ねて甘えるような素振りを、僕は寸分違わ
ずに演じていたのです。
一体、自分のどこにこれほどの狡猾さが潜んでいたのか、少し愕然
とさせられる思いが胸を過ぎりました。
うどんを食べ終わって、僕は何気な振りをして布団のほうに目を向
けました。
頭まですっぽりと上布団を被った、義母の小さな身体の膨らみが見
えました。
そのまま僕も倒れ込むように身を落として、布団の中に潜り込みま
した。
潜り込んだ布団の中で、小さな身体をさらに小さく窄めるようにし
て、全裸になった義母が身を横たえていました。
剥き出しの肩に手をそっと添え当ててやると、義母の色白の裸身が
まるで小魚が跳ねるように、びくんと震え動くのがわかりました。
「亜紀子…」
次に続ける言葉が思い浮かばないまま、僕は義母の眼鏡を外した目
に焦点を合わせて彼女の名を呼びました。
「私…あなたに怒られるのが、一番嫌なの…」
澄んだ切れ長の目の端に、泣き出す前の子供のような哀しげな表情
を見せて、義母が僕の目を見返すようにしていってきました。
「怒ってなんかいないよ」
そういって手を添え当てていた義母のか細い肩を優しく揺すってや
ると、
「…ほんとに怒ってない?」
と目を少し見開くようにして問い返してきました。
つい今しがた義母が、無理をいった僕に嫌いといった時、僕の
ほうが一瞬、怒ったような顔になったというのでした。
「馬鹿だなぁ…そんなことぐらいで怒ったりなんかしないよ」
慰めるようにそういって、義母の身体を優しく抱き締めてやる
と、
「よかった…哀しくなるから、もう、あんな顔しないでね
…」
と義母は本心から安堵したような顔をして、僕の首に両腕を強
く巻きつけてきました。
どちらからともなく顔と顔が近づき、お互いが求め合うかのよ
うに唇と唇が強く重なっていました。
それから一頻りの間、義母と僕は何かを確かめ合うように、布
団の中で激しく熱い抱擁を繰り返しました。
義母のほうがこれまでにないくらいに、自分のほうから僕に強
くしがみついてきたり、重ねた口の中で僕の舌を追い求めるよう
に、自らの舌を差し出したり絡めてきたりしてきました。
僕は僕で義母の全身に手を這わし、六十代という年齢を少しも
感じさせないくらいに、細やかな肌理で滑らかな肌を堪能し、小
ぶりのお椀のように丸く可愛く盛り上がった乳房を長く揉みしだ
き、柔らかな膨らみの頂点にある小さな蕾に幾度も舌を這わした
り、歯で軽く甘噛みしたりと丹念な愛撫を繰り返し続けました。
僕は意図して義母の上半身への愛撫だけに専念しました。
丹念な愛撫を繰り返しながら、僕も着ていたものを全部脱ぎ捨
てていました。
肌と肌が直接触れ合い刺激が強まったせいもあってか、義母の
喘ぐ声が瞬く間に大きくなってきていました。
「ああっ…浩二さん…好きっ」
乳房を丹念に揉みしだいている時に、義母が切なげに喘いだ声
です。
乳首を甘噛みした時には、
「ああっ…いいっ…へ、変になるっ」
と細い顎を突き上げるようにして、僕が少し驚くくらいに高い
声を上げて身悶えを繰り返しました。
「ああっ…わ、私…もう」
「もう、どうした?亜紀子」
「へ、変になりそう…ああ」
「どこが変になるの?」
「ぜ、全部が…」
義母の小さな膨らみの乳房を舌で弄びながら、彼女の背骨に指
先を当て上下になぞるように這わしてやっている時の、二人のや
り取りです。
「ね…ねぇ、こ、浩二さん」
「ん?…亜紀子、どうした?」
飽くことなく義母の上半身だけの愛撫に没頭していた僕の耳許
に、汗を滲ませた顔を近づけてきた彼女が、何かを訴えるように
目を潤ませて小さな声でいってきました。
「も、もう…浩二さんがほしいっ」
「うん?僕の何がほしいの?」
「ああ…意地悪な浩二さん」
「はっきりいってくれないと…」
「こ、浩二さんの…こ、これ」
そういって義母の手が、僕の下腹部に唐突に伸びてきました。
僕のものは当然に固く勃起していて、それをいきなり義母は掴み
取ってきたのです。
「今、亜紀子が握ったの、何?」
「お願い…ああ、早くほしいっ」
「いったらしてやる…前にも亜紀子、いってるよ」
「ああ…で、でも…恥ずかしい」
「いってごらん、亜紀子」
義母の首筋のあたりに舌を這わしていた僕は、彼女の耳朶に口を
近づけ囁くようにいうと、
「こ、浩二さんの…ち、ちんぼ…ああっ」
「どこにほしいの?」
僕はさらに意地悪く義母を追い詰めました。
「ああっ…わ、私の…お…おまんこに」
いいながら義母は僕の背中に爪を立ててきていました。
「ここだね?亜紀子のおまんこ…」
そう耳許に囁くようにいって、義母の下腹部に手を伸ばしてやる
と、ざらりとした茂みの奥は、もう指先にすぐにわかるほど激しく
濡れそぼっていました。
義母のその部分を柔らかくなぞっただけで、僕の指先に温みのあ
る乳液のようなねっとりとした湿りを与えてきていました。
そして僕は、清廉で清楚なはずの義母が、恥ずかしさもかなぐり
捨てて求めてきているものを、姿勢を変えてゆっくりと彼女の体内
深くに沈み込ませていったのです。
「ああっ…こ、浩二さんっ…いいっ」
昔の表現でいうと、義母はまるで娼婦のようなはしたない喘ぎの
声を上げて、全身に女としての悦びを晒して、愛する男のものをし
っかりと受け入れたのでした。
僕のほうも何日ぶりかに感じる、義母のその部分の心地の良過ぎ
る狭窄感に、思わず深い感嘆の声を洩らしたくらいに、気持ちを一
気に昂めてしまっていました。
大袈裟な表現ではなく、腰の律動をゆっくりとさせていないと、
自分で自分が制御できなくなるくらいの昂揚感が、僕に強く襲いか
かってきているような感じでした。
それでもどうにか僕に抑制力が働き、義母の両足を二の腕あたり
で抱え込むようにしながら、次第に律動を早めていくことができま
した。
「ああっ…こ、浩二さんっ…いいっ…いいわ」
義母のほうもすでにめくるめくような境地に陥っているのか、何
度も同じ官能の言葉を発し、汗の滲み出た顔を左右に激しくうち震
わせていました。
そうして僕はあるところで、唐突に義母の体内から僕自身を引き
抜きました。
すると義母は上品な顔に忽ち不平の表情を露わにし、無意識の内
に僕の腕や肩を、自らの手で叩いてきたりしました。
僕は身体を動かせ、義母の顔の前に、屹立したままの自分のもの
を差し出すと、彼女はまるで夢遊病者のように躊躇うことなく、そ
れを自分の口の中に誘うように含み入れたのです。
愛し合う者同士だからこそする、それは通常の行為だということ
は、僕だけでなく、おそらく義母も同じ思いのはずだという確信め
いたものが僕の心の中にありました。
僕のものへの義母の口での愛撫は丹念で、愛おしさの充分に込め
られたものだというのは、されている側の僕にもしっかりと伝わっ
てきていました。
この義母と僕はこれからも離れることなどできない、と僕は道理
も理屈もなく、本心からそう思っていました。
三十もの年齢差も、義理の母と婿という立場も関係なく、間違い
なく自分は義母のことを愛している、ということを、彼女の口での
ひたすらで入念な愛撫を受けながら、僕はそう思っていたのです。
そしてその思いを義母に思い知らせるかのように、僕は再び彼女
の体内深くに自身のもを深く突き刺し、また長く腰を律動させ、最
後には大きな咆哮を上げて、熱く燃え滾った迸りを放出させたので
した。
僕の激しい迸りを受け、それまでも必死に官能の昂まりに堪え忍
んでいたに義母は声すらも出さず、すぐに意識を喪失させていまし
た。
僕のほうの意識が遠のいたのは、それからもう少ししてからのこ
とでした…。
続く
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