前にも書いた通りで、結局は義母との特殊な関係を
断ち切れないまま、僕は年を越してしまいました。
大晦日は家族三人揃って、温かい鍋をつついてのど
こにでもあるような団欒を楽しみ、正月の三が日も、
実家にも帰ることがなかった僕は、何することもなく
のんびりと過ごしました。
僕の実家は九州の熊本なので、おいそれと里帰りな
どもしておれず、それに両親も早くに他界していて、
実家は長男夫婦が跡を継いでいました。
義母と由美の女同士の親子らしく、正月の二日から
あちこちのデパート巡りをしたりして、買い物袋を幾
つもぶら下げて帰ってきたりしていました。
その買い物袋の一つに、義母が僕のために選んで買
ってくれたという、胸に鰐のロゴ入りの濃紺のブルゾ
ンがありました。
「結構高かったのよ。心して着ないとね、浩二さん」
と僕たちのことを何も知らない由美は、屈託なく笑
っていうのが、僕の心を少し傷めました。
今年は四日が日曜日だったので、その日だけは僕も
午後から義母と由美の運転手役を委嘱され、郊外にあ
るアウトレットモールやユニクロ、外国の大型家具店
のイケヤなどを走り回らされ、ご褒美として去年のク
リスマスに由美といった駅前の高層レストランでの、
豪華なフランス料理をご馳走に預かりました。
そういうわけで年末年始は、義母との二人きりの接
触の時間というのは、ほとんど皆無に近い状態でした。
さりとて僕は妻の由美がいることを、疎ましく思った
ことは一度もありませんでした。
多分、それは賢い義母のほうも同じ思いだったと思い
ます。
そして正月休みが過ぎた月曜日の夕刻でした。
車で帰路についている時、年末に会って以来、連絡の
ないままだった小村武から携帯が入りました。
積もる話もあったので、近くのコンビニの駐車場に車
を止めて、着信ボタンを押すと、のっけから元気そうな
明るい声が飛び込んできました。
年始の挨拶をいう彼の声のひょうきんさに、僕は先ず
安心し、例の野村加奈子の件で大過なくことは済んだの
か、と安堵の気持ちになりました。
「小村、あれから大丈夫だったのか?…連絡もしなくて
悪かったけど」
それでも一応念を押して聞いてみると、
「ああ、俺、あそこ辞めたよ」
と彼はまた明るく気軽そうな声で返してきました。
「何だかんだあったのはあったけどな、向こうもあまり
表沙汰に騒げることじゃなかったみたいでな。…あ、あの
二百万円はきっちりと事務所に返しておいたからな。ネコ
ババなんかしてないぞ」
と彼はさらに軽いいい回しで続けてきました。
「それはよかった。心配はしてたんだ。でも、君は職を
失って大丈夫なのか?」
「俺はお前と違って、変わり身は早いから。…それより
電話したのはな、野村加奈子が帰ってる場所がわかったん
だよ。それをお前に教えてやりたくて…」
「そうか、調べてくれてたのか?」
その時僕は勝手な言い草ですが、持つべきものは友達と
思っていました。
「それで、どこなんだ?」
あまりこちらから慌てふためいて聞くのも少し気が引け
て、僕はつとめて普通の声で尋ねました。
「読み上げるから、お前、メモしてくれよ。いいか?」
小村武が辿々しく読み上げるようにいったのは、新潟県
阿賀野市でした。
「阿賀野市?…ああ、五頭山連邦のあるところだ…」
小村武が阿賀野市といった時に、僕にはすぐ閃くものが
ありました。
「何だい?ゴズサンって?」
と問い返す小村武に、
「五つの頭の山って書いて、ごずさんって読むんだ。ず
っと前に、その山に登ったことあるんだ」
と僕は少し興奮気味に言葉を返していました。
「へぇ、行ったことあるんだ?阿賀野市…」
「うん、僕は山登りが趣味でね。同じ大学に新潟の奴が
いて、何年か前にそいつに連れてってもらったことがある。
そんな高い山じゃないんだけど…千メートルもなかったか
な?…確か弘法大師かに縁があるとか…」
妙な懐かしさに、自然に大きくなり出していた僕の声を
遮るように、
「それでな、阿賀野市の次郎丸とかいう田舎らしいよ。
彼女のおばあちゃんがそこに一人で住んでるんだってよ。
…それにしてもお前、お前が知ってるところに彼女がいるな
んて…やっぱり彼女と何か縁があるのかもな…?」
小村武の言葉の最後のいい回しには少しどきりとしました
が、それでもこうして野村加奈子の居所がわかっただけでも、
僕はひどく気持ちの安まる思いになりました。
小村武の携帯はいうだけのことをいうと、あっさりと切れ
ました。
携帯電話を僕から入れたら、もしかしたら野村加奈子はす
ぐに出てくれるかも知れない、という穿った思いは僕の胸の
中にありましたが、こうして思いがけない友の助力で彼女の
居所を知ることができたことに、僕は内心で小さな感動を覚
えていました。
直接的に僕のせいではないにしても、野村加奈子の看護師
としての平穏な人生を変遷させてしまったことは、やはり携
帯もしにくいという一因の大きな要素でした。
帰宅すると、珍しく由美も早く帰っていて、三人の穏やか
な夕食の過ごせましたが、僕の心の中には小村武から聞いた
『新潟県阿賀野市』という地名がこびりついていて、食事を
済ませると、
「あっ、そうだっ」
と急に何かを思い出したような素振りをして、
「ネットで調べることがあった。忘れないうちにやっとこ
う…ごちそうさま」
とそういって席を立ち、一人で二階へ上がりました。
僕の一人芝居でした。
パソコンのインターネットで『新潟県阿賀野市』と急くよ
うにキィボードを叩きました。
僕が新潟県出身の大学の同級生と、阿賀野市の北部にある
五頭山に登ったのは、五、六年前ほど前のことでした。
交通の便もどこをどうして行ったのか、記憶にはまるでな
く、ただ五頭山という五つの峰の連なる山に登ったというだ
けの記憶しかありませんでした。
それも確か生憎の小雨日和で、登った頂上からの風光明媚
さも何も見えないまま、友達と下山したという残念な思い出
しかありませんでした。
またいつか捲土重来を期して、とその友達と約束して以来、
それはまだ叶っていない山でした。
阿賀野市次郎丸というところについても、ネット上の地図
には五頭山温泉郷の近くに小さく載っていましたが、僕には
初めて聞く地名でした。
いずれにしても野村加奈子がその地にいるという確認がとれ
ただけでも、僕の心の収穫は大きく、安堵の度合いも計り知れ
ないくらいに嬉しいものでした。
気持ちが何故か落ち着いたようになった僕は、コーヒーが急
に飲みたくなり階下に降りると、義母と由美がまだ親子の会話
に一生懸命なようでした。
「「あら、急いで二階に上がっていったけど、何かあったの?」
と由美が視線を僕に向けて尋ねてきたので、
「うん、ちょっと仕事の関係で調べたいことって…それよりコ
ーヒー飲みたいんだけど?」
そういって椅子に座ると、代わりに由美が椅子から立って…調
理台のほうに向かいました。
「あのね、お母さん、日光に旅行に行くんだって…」
やかんに水を入れ、ガス台に載せながら、由美がいってきました。
「へぇ、いいなぁ。冬の日光って…いつ行かれるんですか?」
僕はそのことは前に義母から聞いていたことでしたが、僕は義母
のほうに顔を向けて、知らぬ素振りで尋ねました。
「え、えぇ、二十三日の金曜日から一泊二日で…パック旅行だけ
ど」
「町内会のお仲間ですか?」
「そうなの。…去年の十一月の末に行く予定してたんだけど、私
が足のほうがまだだったでしょ。皆さんに待ってもらった手前、参
加しないと悪いから…」
と、そこへ由美が割り込んできて、
「私たちも行きたいわよねぇ、浩二さん?」
と僕に話を振ってきたので、
「そうだねぇ、旅行かぁ…」
とそれなりの相槌をうって返しました。
由美の淹れてくれた熱いコーヒーを啜りながら、ふと義母のほう
に目をやると、それまで僕を見ていたのか、彼女の眼鏡の奥の目と
瞬間的に視線が合いました。
由美は流し台で洗い物をしていて、背中を向けていました。
僕のほうが意識的に強い視線を義母に投げつけてやると、彼女の
細くて白い首筋のあたりが、かすかに朱色に染まったように見え、
そのまま視線を僕から逸らしていきました。
年が変わってから二度目の土曜日、由美はバレーボール部の遠征
試合があるとかで、朝の七時前には出かけていました。
義母のほうも十時から、今度の日光旅行の打ち合わせが集会所で
あるということでした。
九時前に寝惚け眼で階下に降りると、義母が調理台の付近を忙し
なげに動き回っていました。
僕の朝食の用意でした。
「おはよう…顔洗ったの?」
僕のほうを見ないまま、義母が声をかけてきました。
「まだ…」
「四十分頃にお仲間が迎えに来てくれるの。早く顔を洗ってらっ
しゃい」
その声に促され、僕はまだ寝惚け眼のまま踵を返して洗面所に向
かいました。
ダイニングに戻ると僕の席の前には、もう朝食の用意が出来上が
っていました。
湯気の立った味噌汁とご飯があって、焼き鮭の載った細長い皿の
横にいつもの卵焼きと野菜サラダが盛られた丸い皿、漬物の入った
小鉢が整然と置き並べられていました。
僕の正面の椅子に座った義母は、襟の大きな白いブラウスとVネッ
クのセーター姿でした。
化粧も綺麗に整えられていて、相変わらず白い顔の中の、赤いル
ージュの唇が際立って見え、箸を手にしたまま、僕はしばらくうっ
とりと見惚れていました。
「何?…何かついてる?」
という義母の声に、僕は我に返って、
「綺麗だね…」
と正直な気持ちをいいました。
「そんなに見ないで…恥ずかしいわ」
とそういって目を伏せる義母の顔が、もう仄赤くそりだしているの
がわかりました。
「浩二さん、今日はどこにも…?」
昨日の夕食時に、学校の部活で多忙な由美が、明日の土曜日は何も
予定がないといった僕に、
「いいわねぇ、ゆっくりと寝れて」
と羨ましげにぼやかれたのを聞いているはずの義母が、僕の目を恥
ずかしげに窺うように尋ねてきました。
「何もないよ」
「それならお願いがあるんだけど…?」
「何…?」
「旅行の打ち合わせの後、お仲間の人たちからお食事を誘われてい
るの」
「ふぅん…」
「でね、昨日の内にいっておいたんだけど、家の用事があるってお
断わりしてあるの。…だからお迎え頼めるかしら?」
普段、どんな小さな嘘でもつくことのない義母が、多分、僕との時
間がほしくてついた些細で可愛い嘘でした。
「かまわないけどお付き合いしなくていいの?」
と僕が少し意地悪げに言葉を返すと、義母は可愛く剥れたような表
情を一瞬見せて、
「だから、あなたのお昼の用意もしてないの」
と返してきました。
その時に、僕の頭の中に、ある考えが浮かんでいました。
集会所での会合は一時間ほどで済むはずだから、十一時頃に駐車場
に来てほしいとのことでした。
義母が出かけた後、僕は室に戻りパソコンを開き、インターネット
でまた『新潟県阿賀野市』を調べに入りました。
僕の大学時代の友達は新潟市内の出身で、阿賀野市という街は、五、
六年前に登るために通過しただけのようで、どんなところなのかは全
く記憶も印象もありませんでした。
阿賀野市は県庁所在地の新潟市から南東へ二十キロほどの平野に位
置し、人口は四万五千人という街のようでした。
主産業は農業で、米どころで有名な新潟の水稲産業の一翼を担って
いるようで、自然もまだ多く残されているような感じでした。
僕らが登頂した五頭山は、市内から東側にあるようでした。
五頭山はその昔、かの弘法大師が開山したという標高九百十二メート
ルという山で、同じような峰が五つ連なっているのが名前の語源のよう
でした。
野村加奈子がいるという次郎丸というのは字名のようで、五頭温泉郷
というところに近い集落のようでした。
都会から逃げるように、遠い新潟の山間の集落に身を隠した野村加奈
子の愛くるしく、笑顔のとても無邪気な顔を、僕は何気に思い起こして
いました。
理不尽で可哀想な幼少を過ごし、それでも苦学して看護師の資格を取
って都会に近い病院で一生懸命働いていた野村加奈子は、その都会の毒
牙にかかり、自分の意思でないにも関わらず、身を隠す羽目になってし
まったのでした。
彼女がそうなった一因に、図らずものことでしたが、自分の名前が使
われたことは、忸怩たる思い以上のやるせなさとやりきれなさを、僕は
心の中でひどく感じていました。
そして僕はそう遠くない間に、野村加奈子に会いに行こうという気持
ちになっていました。
何ともやりきれないような気持ちで、パソコン画面に出ているコスモ
スが市の花という阿賀野市のホームページを見るともなしに見ていると、
唐突に携帯のメール音が鳴り、画面を開くと義母からでした。
(早く終わりそうです。もう来てもらっても…)
野村加奈子へのやるせなくやりきれない思いに包み込まれていた僕は、
義母のそのメールを見て、自ら何かを払拭するかのように頭を二、三度
強く振って、パソコンをオフにして立ち上がり室を出ました。
義母のメールを見て急いで来たつもりでしたが、集会所の駐車場には
車はほとんどなく、黒のコート姿の義母が一人ぽつねんと立っているだ
けでした。
僕の車に小走りに寄ってきて、ドアを開け助手席に乗ると、
「ごめんなさいね、思ったより早く終わっちゃって。迷惑じゃなかっ
た?」
顔を僕のほうに向けて白い歯を見せながら、義母は早口で喋ってきま
した。
エアコンが効き出した車内に、義母のあの心地のいい匂いが柔らかく
漂いました。
「今日は旅行会社の人が来て、スケジュール表をもらって、簡単な説
明を聞いただけなの。お年寄りが多いから、あまり早くにせっめいして
もすぐに忘れてしまうでしょうって…若そうだったけど、明るそうな感
じの人だったわ」
「そうなんだ、他の人は?」
「それが…何か隣りの市までお食事に行くらしくて。三台の車に分乗
して皆さん先に出て行ったわ。美味しい懐石料理店があるんだって」
と僕に話してきている義母の顔が、この年末年始の間中には見たこと
ないくらいに、嬉しそうで楽しげな感じでした。
「僕らもどこかへ食べに行こうか?…そうだ、そうしよう」
僕は義母の返事を待つことなく、自分勝手にそう決めました。
義母のほうも特に嫌な顔もせず、僕に任せたように背中を座席のシート
に深く埋めました。
「懐石料理は無理だけど、また廻る寿司でいい?」
と冗談めいていうと、
「あなたが好きなものでいい」
といって笑い返してきました。
「郊外にまた新しい回転寿司店ができたみたいだから、そこでいい?」
「どこでもいいわよ」
僕は車を郊外に向けて走らせました。
市街地から出て十分ほどの国道と広い県道が交差するところに、大き
な瓦屋根の新しい建物が見えてきました。
広い駐車場は十一時を少し過ぎたばかりの刻限のせいもあって、六割
くらいの混みようでした。
店内も広く僕と義母は待つことなくテーブル席に座れました。
「まだ新しいのね」
義母は周囲を見回しながらいって、甲斐甲斐しくお茶と小皿を用意し
ていました。
「久しぶりだね、亜紀子と二人になるの」
寿司を摘みながら僕が義母の顔を見ていうと、
「ほんと…いつもの年末年始と違って、何か長かったような気がする
わ」
「どうして?」
「どうしてって…一年前のお正月はこんなじゃなかったから」
「ああ、そうか。僕はまだ普通のお婿さんだった。亜紀子も普通の義
理のお母さんだったね」
「大きな声でいわないの」
「時間って…何か残酷なとこあるね」
「えっ…?」
「時間さえ止まったら人は年もとらないし…幸せな時のままで時間が
止まってくれたらいいのにね」
「そうね…」
「時間が動くからいいことも悪いことも起きる。亜紀子も去年と同じ
正月を過ごせたかも知れない…」
「………」
「僕はでも、後悔なんか一つもしてないよ。時間が動いたから、亜紀
子とこうなれた。…幸せだよ、今は」
「…いつまで続くのかしら?」
「いつまでも…さ。こんな話、もう止めよう。…この海老美味しい」
「浩二さん、お魚あまり食べないから、鮪や鰤もしっかり食べて」
食事を済ませ駐車場を出るとすぐに信号があり、右折すると自宅の方
向でした。
僕は車を左折させていました。
そのことに気づいた義母が、
「まだどこかへ行くの?」
と聞いてきました。
「亜紀子を抱きたい…」
前を向いたまま僕がそういうと、
「お、お家じゃ…」
義母の顔から、寿司店を出た時の明るい表情が、まるで潮が引いたよ
うに消えていました。
ほどなく走ったところに信号が見えてきました。
左前方の広がった田園地帯の中に、大きな看板のある二階建ての建物
が見えていました。
以前に義母を無理矢理に連れ込んだラブホテルでした。
義母もそれに気づいたようでしたが、僕の車はすでに信号を左折して
その建物に向かっていました。
重い沈黙の空気が車内を包みました。
横目で義母を見ると、やや俯き加減の顔が青冷めているのがわかりま
した。
「こんなとこは…いや」
義母が搾り出すような声を出したのは、車を建物内の暗い駐車場に入
れた時でした。
「僕が決めたことだ」
車のエンジンを切った時、僕は薄闇の車内で前を向いたまま、義母に
有無をいわせないくらいの強い口調でそういって、
「行くぞっ」
とさらに強い言葉を出してドアを開けました。
僕の声のそれまでとは違う強さと響きに、義母はびくんと全身を大き
く震わせて、驚きと慄きの入り混じったような表情になっていました。
それでも義母は自分から車のドアを開けて、黙ったまま僕の後を静か
についてきました。
室の指定ボードのある薄暗いフロントに行くと、前に使った鏡張りの
室が空いていたので、僕は躊躇うことなくその室の決定ボタンを押して
いました。
狭いエレベーターの中でも、義母は勿論でしたが、僕もずっと無言の
ままでいたので、不安げな顔をした彼女のほうから、
「怒ったの…?」
と聞いてきました。
義母のその問いかけには僕は応えないままエレベーターを降り、早足
で指定の室の前に歩きました。
僕のすぐ後ろで、まだ不安げな表情のままの義母のほうへ徐に振り返
って、
「今年の亜紀子と僕の姫始めだ。思い切り虐めてやる」
と顔に笑みを浮かべて、ドアの前で思い切り抱き締め、唇を重ねてや
りました。
義母は驚き慌てたように目を大きく見開いてきていましたが、僕はか
まうことなく、彼女の歯をこじ開け思い切り舌を口の中深くに押し入れ
ていました。
義母を抱き締め、唇を重ねたまま、僕は背中のほうのドアノブを捻っ
て、薄赤い照明の室の中に入りました。
入口のところで、そのまま二人は長く抱き合いました。
やるせなさとやりきれなさだけが残る野村加奈子のことへの慙愧と悔
恨の思いや、何よりも長い期間、義母の身体を抱けなかった鬱積を、こ
こで全部吐き出してやりたいという思いに、僕は強く駆られていました
…。
続く
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