心臓が落ち着きを取り戻すより早く、想太は痕跡を拭き取り始めた。どんなに拭いても取れない汚れが床に染み付いてしまったようだった。
もう何の汚れもつかなくなっていた何枚目かのティッシュを、丸めてゴミ箱へ投げ入れる。
そして、そのまま床へ横たわった。
(こんなのは異常だ。だけど、紛れもなく本物だ。)
想太は、遂に観念して抵抗をやめることにした。
一方で燈子は、弟とは違った苦悩を抱えていた。彼女は元々異常性に抗うつもりはない。好きなものは好きだし、感情なんて自由だ。
そこまでポジティブな燈子に苦悩させることが出来るのは、ただ1人、最愛の弟だけだった。
(…あーでも、もしも、私がこんな変態みたいな思いで接してるなんてバレたら、想太どん引きだろうなぁ。それだけはやっぱ怖い。どうにかして、想太に意識されたいなぁ。アイツ今彼女いるっけ?あー裸の想太に抱かれたい…。らしくないくらい興奮して、息を荒げてる想太に…)
燈子の妄想はいつも飛躍しがちだ。とりわけ今夜は、ハプニングが多く、動揺している。
彼女は最初の不安な思いなど微塵も忘れて、再び小さくイッた。
その時だった。毛布の中で股間に指を忍ばせたままの燈子を、一筋の灯りが照らし出したのは。
「燈子、もう寝た?」
囁く弟のかすれ声に、ぞくりとした燈子は、しかし、気まずさから狸寝入りをした。
想太は姉が寝ていると誤信し、そのまま部屋へ入り、後ろ手にドアを閉めた。そしてゆっくりとベッドへ近付くと、切ない瞳で燈子の寝顔を覗いた。ほとんど暗くて見えないが、微弱な月明かりで燈子の白い肌が発光しているように見える。
想太の冷たい指先が微かに燈子の頬に触れる。
燈子は状況がわからず混乱していたが、寝相を装って塗れた指を毛布で拭いた。
想太は取り憑かれたかのようにスウッと燈子の左頬に吸い寄せられ、乾いた唇をつけた。
燈子は今、想太の隠された想いに気付いた。確信した。何かの迷いだとしても、こんなチャンスは2度とこないと思った。そして寝ぼけたように装い、小さく呟いた。
「…んぅ……想…太ぁ?」
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