その日、私は真理子にいわれた通り準備をしました。
後は彼が学校から帰るのを待つだけでした。
第一段階は、彼の部屋の、机に置いておきました。
それを見てくれれば、次の行動を起こすはず。
私はそれを待てば良いのです。
あの部屋で。
窓から外を眺めながら、我ながら馬鹿な事をしていると思いました。
でも、気持ちは真剣なんです。
この気持ちを、少しでも彼に判って貰いたかった。
彼の姿が見えました。
もうすぐです。
果たして、真理子の言う様に上手く行くでしょうか?
私は、次の段階の準備を始める事にしました。
玄関のドアが開いてから、もう10分以上の時間は経過していました。
彼は既に部屋に入り、机の上に置かれたものを読んでいるはずです。
彼の机に置いたもの、それは一通の手紙でした。
「愛する健太へ、」
それで始まる手紙には私の思いを切々と書いたつもりです。
「彼方の私を思ってくれる気持ち、とても嬉しく思います。私も本当の事を言
えば、彼方が一番好きです。お父さんなんかよりずっとずっと彼方の事が好
き。
でも、私は彼方の母親と言うのも事実、それは彼方も判るよね?
私は、その事を凄く嬉しく思う時も有り、辛い時も有ります。辛い時って?
それはもちろん彼方に抱かれている時。自分では、彼方の前では常に女で有
りたいと願っています。
彼方に愛されている時は本当に幸せです。
でも、愛されている時でも、頭の中のどこか片隅で、自分は母親だと言う思
いが残るのです。それが、私の彼方に対する気持ちへの妨げになっているみ
たいなの。
だから決めました。
今日限り、留美子は彼方の母親を捨てます。
今のこの時間から、この家に彼方と二人で居る限り、留美子は彼方だけの女
となります。
今、留美子は部屋に居て、彼方の来るのを待っています。
お願い、ここに来て留美子を抱いて下さい。
彼方の女、留美子を今直ぐに抱いて下さい。」
これがその手紙に書いた内容です。
いつの間にか、部屋の襖が開いておりました。
カーテンを引き、少し暗めにした部屋に蒲団を延べて置きました。
その上で、素っ裸となり、彼を待ちました。
「留美子!」
「健太!」
お互いに名前を呼び合うと、蒲団の上で抱き合いました。
「抱いて、健太、留美子を抱いて・・。」
そう言うと、不思議に心が吹っ切れました。
今この瞬間、私は母親を捨てました。
そう今日から私は裏母。
おわり
<影法師>
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