キョトンと僕を見ている姉。
その顔がみるみる赤くなっていきます。
「あ、わり・・」
謝罪の言葉を呟いてから、ヤバイ!という気持ちが湧いてきました。
姉につられて自分の顔も赤くなっていくのが分かります。
「ホントごめん!・・・マジで悪かった!・・・な?・・謝るから!」
いったいなんでキスしてしまったのか。
久し振りに抱き締めた姉が、思いのほか華奢でか弱げで、ふと意地悪してみたくなったか
ら?
泣いた後の姉の笑顔が、小さい時のキスごっこをしていた頃を思い出させたから?
頭の中がグチャグチャで考えがまとまりません。
姉は口許を押さえて俯いています。
先日に続く大失敗に、とにかく必死になって謝っていると、突然姉がクスッと笑いまし
た。
「いいよ、もう・・・そんなに謝らなくて・・」
可笑しそうに僕を上目遣いで見つめました。
「え?・・いいの?」
「良くはないけど・・・・でもターって、ホント変わんないね・・」
「・・・・変わらないって、何が・・・」
「小っちゃい頃・・・幼稚園くらいだっけ?・・アタシとター、キスしてた事あったでし
ょ」
「・・ああ」
「あん時ター、もうしょっちゅうキスしたがってさぁ・・・なんかっちゃ理由つけてキス
したがるし、ちょっと隙を見せるとすぐキスしてくるし・・・今のターとまんまおんな
じ・・」
「俺、そんな事してねぇよ!!」
「してたよー、覚えてないの?」
可笑しそうに笑います。
「・・・・・えー?覚えてねえぞ、そんなの・・・」
確かに何度かキスした覚えはあります。
でも自分がそんなにキスしたがってたなんて記憶にありません。
すると、
「はーーっ!」
姉が大きくため息をつきました。
「なんかアタシばっか意識してんのバカらしくなっちゃった!」
何を言い出したのかと姉を見ると、
「この間、ターがヘンな事言うから・・・」
少し恥ずかしそうに僕を睨みました。
「あんな事言われて、ずーっとターの事気にしてたのに・・・ターの方は全然普通にして
てさ・・・・・昔と変わんないし・・・」
「そんな事ねーよ!」
僕はあれからもずっと姉を見ていた事、姉に警戒されてると思って落ち込んでた事を話し
ました。
「えーっ?アタシ、警戒してるように見えたー!?」
「・・・ああ、そんな風に見えた」
「そんな事ないよー・・・・あ、でもターの前で寝ちゃったら、またなんかされるかも~
っては思った!」
「だから、それは悪かったって言ってるだろぉ!」
「アハハ!」
久し振りに姉と笑いあった気がしました。
ひとしきり笑うと、姉が突然な事を聞いてきました。
「・・・・・ねえ、ターってキスしたことある?」
「え?」
「あっ、もちろんアタシ以外の子とだよ?」
「・・ねぇよ」
「・・・・ふーん」
「アーは、あんのかよ・・」
「ある訳ないでしょ!・・・男子と付き合った事もないのに・・」
それを聞いた僕は内心ホッとしました。
「・・ああ~っっ、あれがアタシのファーストキスか~~・・」
「・・・・・なんだよ、それ・・」
「まぁ、子供の頃のはナシってしてもさ・・・あれはなー・・・」
「・・・悪かったな・・・そんなに俺じゃ嫌かよ・・・・・」
正直ちょっと傷つきましたが、
「別にターが嫌だなんて言ってないじゃん・・・でも、あんな不意打ちはないと思わな
い?」
の言葉に胸をなで下ろしました。
「なんだよ・・・じゃあ、これからキスしますってキスすれば良かったのか?」
「うん、まぁそんな感じ」
「へっ?」
思わず姉に目を向けるとと、まるで僕を値踏みするように見ていました。
「・・・・なに?」
「まぁねぇ・・・ファーストキス奪われちゃったのは、もうしょうがないけど、どうせな
らもっとちゃんと思い出に残るようなのにしたいじゃない?・・・ターだって、あんな騙
し討ちみたいなの一生の思い出にしたくないでしょ?」
『なんだ?・・・なにを言ってるんだ?』
「ねえ、どうする?」
「どう・・って?」
「ちゃんとしたキス、したくない?」
そんなの答えは決まってます。
ところがここで変なプライドでも働いたのか、
「・・・まあ・・アーがしたいってんなら、俺もいいけど・・・」
なんて事を口走ってしまいました。
「はあぁっ!?あんた何言ってんの!?アタシがしたいならって、ふざけんじゃないわよ!!」
「ごめん!嘘っ!俺もちゃんとしたキスしたいですっ!!」
「・・・最初からそう言えばいいのよ」
改めて姉と向き合います。
ショートヘアに縁取られた姉の小さな顔。
目許をほんのり紅く染めて、少し緊張しているよう。
「はい・・・いいわよ・・」
顔を少しあげて、目を閉じました。
僕がドキドキしながら顔を近付けると、
「・・・・・すごい鼻息」
姉がボソッと呟きました。
「えっ?あっ、ごめん・・・」
思わず顔を離すと、
「いいわよ・・そのままで」
姉が片目を薄く開けて言いました。
「うん・・・じゃあ、いくよ」
姉にはああ言われましたが、やはり鼻息は気になります。
息を詰めて、そっと顔を近付けて、目の前の姉の顔がまともに見てられなくて目を閉じて
しまって。
そして、姉の柔らかな唇の感触が・・・・・。
『キスしたっ!』
先程のような不意打ちではなく、姉の同意の上でのキス。
心臓がドキドキ言って、耳鳴りまでしそうです。
唇から伝わる姉の体温。
胸がいっぱいで、舌を入れるなんて事も思い付きません。
いったい何秒くらいキスしていたのか、鼻息防止に息を詰めていた僕の呼吸も限界です。
「・・・・ぶはっ!!」
姉から唇を離した僕は盛大に息を継ぎました。
「ぷっ!・・ちょっと、なに?息止めてたの!?」
姉が可笑しそうに笑い始めました。
「うるせえな~・・・そんな笑うことねぇだろ・・・」
「ごめ~ん!・・アハハ・・・・でも、ありがとね・・・」
「?・・・なにがだよ?」
でも姉は僕の問いには答えず、
「う~~~んっ!すっきりしたぁー!」
と、気持ち良さそうに伸びをしました。
「ねえ、ター・・・顔洗いたいから連れてって」
「え、ああ、いいよ・・・ほら」
姉に肩を貸して立たせました。
「・・・・あのさ」
「ん?なに?」
僕の言葉に明るく姉が答えました。
「・・・・・また今度、キスしていいか?」
「え~~っ!?」
「・・ダメか?」
「う~~~~ん」
すぐ拒否られるかと思っていたのですが、意外に姉は迷っているようでした。
「う~、まあ、キスだけなら・・・」
「いいのかっ!?」
「でもキスまでだよっ!そっから先はナシ!キスだって、もうしちゃったから特別!!」
「あ・・っ、うん・・・分かってるよ」
姉に先手を取られた気がしましたが、まぁいいでしょう。
とりあえず大きな前進です。
「ほらぁっ!早く連れてってよ!」
「あぁ、はいはい・・」
こうして僕と姉の夏休みは本格的に始まりました。
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