姉に自分の気持ちを伝えてものの見事に玉砕してから、僕に対する姉の態度は当然ながら
変化しました。
表面上は今まで通りでも、明らかに僕を意識していました。
夜の勉強は変わらず一緒にしてましたが、それまでのようにタンクトップなどの露出の多
い服は着なくなり、勉強中も時々僕の方を窺うような素振りをします。
僕を男として意識してくれるようにはなったのでしょうが、どう見ても警戒しているとし
か思えません。
なんであの時、今まで隠していた想いを言ってしまったのか・・。
悔やんでも悔やみ切れません。
内心どこかに、
あんなに普段から仲良くしてる姉なら、きっと僕の気持ちに応えてくれる。
いや、もしかしたら姉も僕と同じ気持ちかもしれない。
そんな身勝手な思いがあったのかもしれません。
でももう後の祭りです。
『本当に彼女作った方がいいのかな・・・』
さすがにそう思えてきました。
そんな鬱々とした気持ちのまま、僕と姉にとって忘れられない夏休みが始まりました。
夏休みに入ってすぐ、姉のバレー部は県総体が始まりました。
姉達三年生には最後の中総体。
でも姉にとっては悔いの残る大会になってしまったのかもしれません。
姉は大会前の練習中に足を痛めていたんです。
それでも一回戦は勝ち上がりました。
でもその試合途中から怪我の状態は悪化していたようで、二回戦の途中で交代。
キャプテンでセッターの姉が抜けたチームは、接戦の末負けてしまいました。
試合後に涙を流しながらチームのみんなに謝っていた姉。
でも姉に慰めの言葉を掛けているチームメイトや後輩達の方が泣きじゃくっていて、むし
ろ姉が励まさなければならない程でした。
涙で目を真っ赤にして、でもみんなのために無理に笑顔を浮かべて・・。
本当に姉には敵いません。
姉を諦めて、姉への想いを忘れるなんて不可能です。
足を痛めて歩くのも辛そうな姉でしたが、顧問の先生の車で病院に行ってからミーティン
グのため学校に帰るとの事。
なので僕は一旦家に帰って、母の車で学校まで迎えに行く事にしました。
家に帰ってきた姉は元気を取り戻したように見えました。
足は幸いにも２週間ほどで良くなるとの事。
母に手伝ってもらってシャワーを浴びた姉は、しばらくおしゃべりした後、ひと休みする
からと部屋に入りました。
10分ほど後、僕は姉の部屋をノックしました。
「アー、入るぞー」
「ちょっっ・・やだっ！勝手に入ってこないでよ！」
思った通り、姉はベッドの上でひとりグズグズと泣いていました。
昔からそうなんうです。
悲しいとか、悔しいという感情を人前では上手に出せない姉。
試合後にみんなの前で涙を流していただけでも、僕にとっては驚きだった程です。
「まーたひとりで泣いてたのかよ」
「なによ・・・別にいいでしょ・・」
僕がベッドの縁に腰を下ろすと、涙を拭きながら姉が起き上がりました。
強がってはいますが、目許は真っ赤で、声もグズついてます。
「残念だったな」
隣りに腰掛けた姉に声をかけると、
「・・・しょうがないよ、もう終わった事だもん」
そう言いながら痛めた足を見つめています。
「悔しいなぁ・・・アタシが怪我なんかしなきゃ・・・・・みんなに会わせる顔がない
よ・・」
僕は姉の頭を抱き寄せ、
「またそういう・・・お前のせいじゃないって・・みんなも言ってたろ？」
と言って顔を覗き込むと、
「・・・だっで」
また涙を目にいっぱい溜めて、今にも泣き出しそうなグズ付いた声で答えました。
「あー、もういいから泣け！一緒にいてやるから、気が済むまで泣いていいから！」
姉を抱き締めて、あやすように揺すってやります。
すると、
「・・・もうちょっと優しく言ってよ」
と僕の胸に顔を埋めた姉がくぐもった声で言いました。
「え？」
思わず聞いてみると、
「これから泣こうって女の子にその言い方はないでしょ・・・もっと素直に泣けるよう
な、優しい言葉ってのがあるでしょうが・・」
『・・・・・こいつ、結構元気なんじゃね？』
そう思いましたが、言わぬが花でしょう。
「・・・えー」
行き当たりばったりで思い付く言葉を口にしていくしかありません。
「まぁ、お前も頑張ったと思うぞ・・・部長なってからみんなの事も真剣に考えて一生懸
命練習してたし・・・結果は残念だったけど、みんなその事を分かってたから、ありがと
うって言ってくれたんだろ？・・・お前のせいで負けたなんて思ってたら、誰もそんな事
言ってくれないぞ？・・・・だからお前も悔しいなら思いっ切り泣いていいんだか
ら・・・・自分のせいだなんて我慢しなくていいんだから、な？」
そんな事を言いながら、姉の頭をポンポンと叩くと、
「・・・・・・・ぅ・・うえぇぇ～～～ん」
と、とうとう子供みたいに声を上げて泣き出してしまいました。
よほど悔しかったんでしょう、かなりの時間姉は泣き続けました。
でも泣きたいだけ泣き尽くし、顔を上げたときにはいつもの姉に戻っていました。
顔は涙でクチャクチャ、グズグズの鼻声でしたけど。
「ごめん、ター・・・ありがとね」
盛大に鼻をかんだ姉が照れたように笑いました。
この時、今になって考えると、ちょっとした悪戯心だったように思います。
笑顔を向ける姉の唇に、軽く触れる程度ですがキスをしてしまったんです。
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