あの日、寿美子の夫は、決して見てはならないものを、見てしまった。
それまでは彼は、自分の家庭が、何処にでも有るありきたりな家庭の一つだ
と思っていた。
毎日、出掛けては戻る事を繰り返すその家で、よもやその様な行為が行われ
ているとは思わなかった。それは当然の事であった。
疲れた身体を引きずる様にして辿り着いたその家で、彼は信じられない光景
を目撃する事になった。いつもは家族が揃い寛ぐ部屋の中で、一組の男女
が、あられもない姿で絡み合っていた。しかも二人はほぼ全裸姿だった。
こんな場面に遭遇した時、人は一体どの様な反応を見せるものなのだろう
か?
彼の場合、自分の妻と息子が、白昼堂々と性交渉をしていたのです。
妻の浮気現場や、夫の浮気現場とは又違ったものでは無いのでしょうか?
彼の受けたショックは、言葉では到底言い表せないものだったに違いない。
寿美子には、その事への言い訳は出来なかった。
二人は逃げる様にして、夫の前からその姿を消した。
寿美子が妊娠に気付いたのは、その直後だった。
生理が遅れている事を変に思い、慌てて検査した処を、妊娠の事実を知っ
た。
寿美子には、妊娠する覚えのある出来事は、唯の一度だけだ。
ショックを越して、呆気にとられたと言うべきか。
たった一度の過ちで、天罰とも呼べる仕打ちを受ける事になってしまった。
悩みに悩んだ末、寿美子はその子供を産む決心をした。
何故なら、その子が真一の子供だからだ。
二人でやり直す人生ならば、二人が生きて行く為の証として、その子を育て
ようと二人して決めたのだ。
二人が夫婦同然だと言う事は、誰にも言わなかった。
二人の胸の中に仕舞っておくつもりだ。
寿美子は、いつか真一が自分の前から巣立っていく事を願っている。
その時こそ、その子が寿美子の生きがいとなるはずだ。
「来て・・真ちゃん・・来て。」
寿美子が両足を広げ、真一にそこを見せて誘った。
無性に彼にして欲しかった。
<影法師>
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