二日目。
朝、目が覚めると隣には、はだけた浴衣を、かろうじて身に纏っていたアリスがすやすやと寝息をたてていた。
俺はアリスを起こさないように、こっそりと布団から抜け出して部屋を出た。
そして旅館に来る前に買った、旅館近くの地域のガイドブックを読んで今日の予定を立て始めた。
少ししてから、襖が空き目をこすりながらアリスが起き上がってきた。
「おふぁよぉ~・・・・・・」
「ん、おはよう。よく寝れたか?」
「にゅ~・・・・・・うん、だいじょうぶ」
ぽやぽやとした虚ろな感じで言われても、あまり説得力はないがここで言ってもしょうがない。俺はそんな状態のアリスを見て、思わず笑ってしまっていた。
朝食を食べて、俺達はガイドブックに従って、様々な場所を回った。
中でも高原地帯がとても爽やかで、気持ちいい風を浴びて、ひなたぼっこをして、ゆっくりとした時間をすごした。
ひなたぼっこをしてる内に、アリスが
「ここ、おいで?」
と自らのひざをポンポンと叩き、ひざ枕をしてくれた。ひなたぼっこの暖かさとひざ枕の心地良さでいつの間にか、うとうととして眠ってしまっていたらしい。目が覚めると少し日が傾いていた。
「おはよ。よく寝てたね♪」
「あぁ、悪い・・・・・・ぐっすり寝てた」
起き上がると、アリスはいいってと言って、一緒に立ち上がろうとした。が、痺れていたのか、がくんとその場に崩れ落ちた。
「お、おい!?」
「アハハ、ごめんね・・・・・・痺れちゃった」
「だろうね・・・・・・よし!」
アリスは「?」な顔をして、俺を見る。
俺はアリスの太ももの下に手を入れ、背中に手を回し、お姫様抱っこをした。
「ひゃぁっ?!」
「帰ろうか・・・・・・しがみついていなさい?」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・・・わぁっ、走らないでっ!!」
俺は小走りになったりしてアリスを驚かせながら、駐車場に向かった。
旅館に帰って、春の食材に舌鼓を打ちつつ、また温泉に向かった。今度も浴衣をレンタルして混浴しようと決めていた。
浴衣を着て、温泉に入ると、既に先客の夫婦らしき男女が入っていた。
「失礼します」
「「はい、どうぞ」」
お湯に身体をつけると、男性の方が「どなたかとご一緒で?」と聞いてきた。
「え? あ、はい。連れと一緒に」
今度は女性が「それで混浴ですか?」と不思議そうに尋ねる。
「はい。連れは女の子なんで」
そう言った頃に、ぴたぴたと足音とが聞こえてきた。
「ユウ、おまた・・・・・・せ」
先客がいたことに、驚いたのだろう。一気に声が小さくなって、縮こまるようにお風呂に入った。
「あら、可愛い人ですね・・・・・・どういったご関係で?」
女性がアリスに会釈して俺に尋ねてきた。
俺はアリスをちらりと見てから、女性に笑って言った。
「彼女は・・・・・・俺の妻です」
そういうと、アリスはお湯の下で俺の手をキュッと掴んできた。二人はちょっと驚いて「そうですか!」と言っていた。
「お若いご夫婦ですのね」
「高校を卒業して結婚したんです。まだお金も無いんで、結婚指輪も買ってあげられてないんですけど」
「そうですか・・・・・・ここには新婚旅行で?」
「はい。お互いに長い休みが取れたので、ここに」
「まぁ!」
そうやって俺がずっと話してる間、アリスはずっとお湯の中で俺の手を握っていた。
「とても仲がよろしんですのね。羨ましいです」
「ありがとうございます」
「奥様の方はどうですか?」
男性が不意にアリスに向かって声をかけた。
「ひゃ!? は、はい、なんですか?」
「お若いもの同士ですけど、ご結婚してどうですか?」
「え、あの、その・・・・・・えと」
「あなた、そんなの決まってるじゃないの」
女性が男性に「全く何変な事を聞いてるの」と言って、窘めていた。
「これ以上はお邪魔でしょうし、私達は上がりますわ」
そう言って、二人は会釈をして露天からでていった。その時、一瞬だけだが女性の左手の薬指にキラリと銀色に光るものが見えた気がした。
「・・・・・・今の、夫婦みたいだな」
「うん・・・・・・」
夫婦がいなくなって、ぽつりと呟いた言葉に、アリスもぽつんと呟く。そしてそのまま会話らしい会話もなく、ただゆっくりと時間が流れていった。
そして不意に
「アタシたちも・・・・・・あぁ、なりたいね」
身体の奥から搾り出すような声で、アリスはそう言った。
俺はただそれを聞いて、「・・・・・・そうだな」としか言えなかった。
ある程度までお湯と景色を楽しみ、そろそろあがることにした。
最後にまた二人で肩まで浸かり、ほうと息を吐いた。
「アリス・・・・・・」
「なに・・・・・・?」
アリスがこっちを向いた瞬間に、俺はキスをしていた。
昨日の夜のような、重ねただけのキス。
口を離すと、二人で思わず笑ってしまった。
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