それから・・10ヶ月後。
市民病院で、喜美子は可愛い女の子を出産した。
喜美子の腕に抱かれ、その横で夫がバツの悪そうな素振りを見せていた。
「何かこの年で恥ずかしいな。まさか本当に出来るとは思いもしなかったか
らな。」
「いいじゃないですか、何も悪い事をした訳じゃないんですから・・。」
喜美子は殊更に、その事を強調した。
「それにしても、えらく年の違う妹が出来てしまって、俊夫にはすまない
な。」
夫はそんな気使いを見せた。
(本当に歓んで欲しい人は、その人なの。子供の父親は、彼方じゃ無く、俊
夫よ。)
母親の喜美子は、誰よりのその事を自分の身体を通し、実感していた。
「彼方の子よ、見て、目元なんか彼方にソックリ。如何父親になった気持
は?」
喜美子は、病室で初めて俊夫に赤ん坊を引き合わせた時、そう言って俊夫を
冷やかした。
「僕の子か、うん、本当に可愛い・・。」
「戸籍上は、彼方の妹だけど・・、父親は間違いなく彼方だから、産んだ私
にしか判らない事よ。」
「凄く嬉しいよ、喜美子と一緒に育てようね。」
「お願いね、これからの事は、又考えればいいわ。こうして私と彼方の子が
いるんですもの・・、私にはそれだけで十分。さあ、この子を抱いて上げ
て・・お、と、う、さ、ん!」
喜美子はそう言って、俊夫の腕に手に赤ん坊を抱かせた。
「名前は彼方が考えてね。」
「父さんには何て言うの?」
「私が考えた事にするわ。」
それなら心配は無いか・・と、俊夫は思った。
「判った、良く考えるよ。」
「それに・・、私の事、これからも愛してくれる?」
喜美子が少し恥ずかしそうに訊ねた。
「もちろんさ、喜美子は・・僕の妻じゃないか。」
俊夫のその言葉に、喜美子は計り知れない幸せを感じた。
愛する男の子供を授かり、その男から永遠の愛を得た。
「もう・・、そんな事言われたら、彼方が欲しくなっちゃうじゃな
い・・。」
そう言って、喜美子が不意に熱い眼差しを向けた。
喜美子のそんな姿を見て、
(ここでなら・・出来るかもしれないな。)
その時、俊夫は何故かそんな風に思った。
二人の間には、もはや遮るものは何も無かった。
終わり
***最後までお付き合いして頂き、ありがとうございました。二人の愛を
描き続ける事は可能ですが、今回は此処までとさせて頂きます。
次回作も用意しておりますので、又近い内投稿させて頂きます。
その節はよろしくお願いします。<影法師>***
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