実質的な夫婦となった母と息子が、実家で過ごす最後の日がやって来た。
その日二人は、ある事を計画していた。
「そうか、俊夫にお礼がしたいと言う訳だな。まあいいんじゃないか? 1
泊位なら俺は構わないぞ、行ってくると良い。」
息子に対する感謝の意味で、息子と二人で旅行に行きたいと言った。
それに対し、夫は特別不審がる事も無く、アッサリ許してくれた。
「いいですか? すみません。初めはプレゼントでもと考えたのよ、でもこ
んな機会滅多に無いから・・。」
喜美子は出来る限り強調して話した。
「そうだな、出来れば俺も付き合いたい位だけど、この際二人で行くのも良
い思い出になるかもな。」
母喜美子の口から、父親から旅行の許可が出たと聞くと、次の日二人は予定
通り旅だった。
「新婚旅行に行く気分だね?」
と俊夫が言うと、
「そうね、私達にとっては、本当にそうかもしれないわね。」
席に並んで座ると、喜美子は嬉しそうに俊夫にもたれかかった。
「正直言うと、あの人を騙したみたいで、とても気になっているの・・、彼
方は?」
喜美子が胸につかえている思いを語ると、
「それは僕も同じだよ、でもそれは、考え方を変えれば良いんじゃないか
な。」
「考え方って・・?」
喜美子は俊夫の言葉に問い返した。
「今は少し違うかもしれないけど・・僕達は間違いなく親子でもあるよ
ね?」
「ええ、確かにそうだけど・・。」
「親子で旅をしてはいけない?」
「そんな事は無いわ、何処の家庭だって家族で旅行はするもの。」
「なら・・僕達が旅行しても、少しも変じゃないよね?」
俊夫が言う考え方とは、そう言う事なのだ。
喜美子の中に、もはや母と子と言う概念が崩れ始めているのは否めない。
俊夫は息子と言うよりも、自分の情夫に近い存在となっている。
その思いが、夫を裏切っている感情を産ませているのだ。
「そうよね、母と子のカップルだから、あの人だって許してくれているのよ
ね。」
喜美子は、そう言って自分に言い聞かせた。
「それでいいじゃないか、ねっ、母さん。」
「うん、判った、もう言わない。」
喜美子は最後にそう返事した。
二人が一緒に旅行するなんて事は、今の今まで無かった事だ。
だから、喜美子にとっては、心から喜べる事でもあった。
宿に着くまでの間、俊夫との旅を思いっきり楽しんだ。
宿に着くと、喜美子が予想もしなかった事をして、喜美子を歓ばせた。
宿泊者の名前を記入する際、俊夫の横に妻喜美子と記したのだ。
傍から見れば、年齢差のあるカップルではあるが、母と息子では無く、夫婦
として振る舞える事に喜美子は歓びを感じた。
俊夫の妻として堂々と泊れる事に、女としての幸せを感じたのだ。
<影法師>
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