喜美子にとって、男は俊夫以外に考えられなかった。
久しぶりに夫と交渉を持ったものの、身体の方は覚めていた。
声を出した様な記憶も無い。
それでも、久しぶりの夫婦交渉ではあった。
「安全日だから、そのままでも大丈夫よ。夫婦なんだから、遠慮しない
で・・。」
喜美子の言葉に、いつ以来だっただろう・・彼は喜美子の体内に精液を放出
させた。
「本当に大丈夫だろうな・・この年で子供なんて恥ずかしいからな?」
「何よ、良いじゃないの、出来たら出来たで。私は構わない事よ。俊夫はも
う大人だし、
手は十分に有りますから。」
「おいおい、やけに積極的だな。出来たら俺が大変だ。」
夫の方は、現実的な話と思ってもいない事が喜美子には救いだった。
もし夫にもそんな気が有ったとすれば、父親の判定に苦慮する事になる。
喜美子が欲しいのは、俊夫の子供なのだ。
「ああ、出来ると良いな?」
「何バカの事言っているんだ。」
妻のそんな言葉に呆れたのか、彼は蒲団をかぶってそのまま眠ってしまっ
た。
夫との交渉はそれだけで終えた。
(あなた、ごめんなさいね。私を許して。)
喜美子はそっと心の中で夫に詫びた。
俊夫は母の真意が今一つ判らなかった。
母が言った事は本当なのだろうか?
本当に自分の子供を産むつもりなのか?
あの時の母の姿には凄みさえ感じられた程だ。
だが、本当にそんな事が可能なのだろうか?
俊夫は仕事の合間に、昨夜の母の言葉を思い出していた。
<影法師>
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