翌日昼過ぎに電話がかかってきました。
「何処に行けばいいの?」
私は待ち合わせ場所を聞いて、その足で直ぐに家を出ました。
あまりユックリとしていられないので、浩二とは、早く終わらせたかったの
です。
息子と待ち合わせて、ラブホテルに行くなんて、とても考えられる話じゃあ
りません。
私達は今、それをしようとしておりました。
約束した喫茶店に行くと、浩二が先に着いておりました。
コーヒーを注文した後、
「ここから近いの?」
私は良く判らないので、小声で彼に訊ねました。
「この通りの裏に、一杯あるよ。」
「そうなんだ。」
「好きな処選べばいいよ。」
「いやよ、そんなの彼方がしてよ。」
ラブホテルの選択を、私にさせようと言うのです。
浩二は何も言わずに、コーヒーが運ばれてくるのを待っている様でした。
「ねえ、如何したら浩二が納得してくれるの?」
私は、直ぐに用件を切り出しました。
「何だ、もうその話かよ、楽しまないの?」
「何を楽しむのよ? そんな呑気な事言って。」
浩二がそんな私を見て、
「何焦っているのかな? 俺が心配?」
私は黙って頷きました。
「昨日の夜の事だって有るわよ。何であんな事をするの。」
「裏切り者だから。」
決めつけた様な浩二の言い方、
「だから、母さんは彼方だけじゃないから・・、判ってよ。」
「優先権は俺じゃないの?」
「お父さんよ、お父さんに食べさせて貰っているんだから。」
今更ながら、こんな当たり前の事を言わなくてはいけないなんて、
「判った、父さんと話し合おう、父さんに、もう母さんには手を出すねっ
て。」
「止めて、お願い、そんな事言わないでよ。母さん謝るわ。浩二が先で良い
から。」
私は仕方無く、そう言わざるを得ませんでした。
「一筆書いてよ。契約書造るから。」
「契約書って・・何言っているの。」
浩二はバックからノートを取り出し、ページを破ると、そこに何か書き始め
ました。
やがて、書き終えたその用紙を私に見せたのです。
「良く読んで、そこにサインと拇印を押して。」
手渡された紙の一番上に、
「契約書」
そう書かれていました。
<我が家に置いて、私幸代の肉体を、息子浩二に対し独占的に使用する権限
を与えるものとする。何人に対しても、浩二の許可なくして、肉体を提供し
ては成らない。右の如く契約致します。順守出来なかった場合、如何なる制
裁をも受けるものとします。>
「何よ、これ? こんなものを書いて、如何するのよ? それに何・・この
何人に対してって?」
「もしもの為だよ。サインして。」
その上、朱肉まで用意して、拇印まで押させられました。
「行こう。」
浩二はその用紙をバックに仕舞い、テーブルの伝票を掴むと席を立ちまし
た。
<影法師>
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