此処を訊ねて来てから、まだ時計の短針は一回りもしていない。
その僅かな時間の中で、喜美子の運命は大きく動いた。
その間に、喜美子は女として、その全てを俊夫に捧げていた。
出入り口の前で、二人は抱き合っていた。
「帰りたくない・・私。」
喜美子がそう呟く。
「僕だって、離したくないさ・・。」
お互い、その言葉だけが精一杯の気持の表現だった。
これ以上の気持ちを表す言葉は、二人とも思いつかなかった。
喜美子の俊夫を見つめる目は、すでに女の目だ。
俊夫も、自分の女の様に母を見ていた。
暫く抱き合っていた後、どちらともなく離れると、
「又必ず来るから・・。」
喜美子は俊夫の手を取ると、そう約束した。
「うん、待っている。」
俊夫はそれが何時の事か、そんな事をチラッと思いながら応えた。
禁断のカップルの朝の別れであった。
あの夜から1週間が過ぎていた。
喜美子は、今直ぐにでも、彼の元に向かいたい思いであった。
それをせずに居られたのも、一重にその息子俊夫を思う気持からであった。
僅かながらも時が過ぎ、喜美子にも、起きてしまった事の重大さが徐々に理
解出来ていた。
今ならまだ許されるかもしれない、あの夜だけの過ちで済ませられれ
ば・・。
それが、最愛の息子の為でもあるのだと・・。
そんな考えが僅かながらも、喜美子の行動を自制させていたのである。
しかし・・誰かが行っていた・・。
「女とは、子宮で物事を考える生き物だと・・・。」
時折ボーっとしている時がある。
その時は決まって俊夫の事を考えていた。
そして・・あの激しい一夜を。
何故か、身体が熱くなってくる。
思わず頭を激しく降り、その思いを打ち消す始末だ。
<これで良いのよ、これで良いの、あの子の為にも、私が耐えさえすれ
ば・・。>
そう自身に言い聞かせる喜美子であった。
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