父親は酔い潰れたまま眠っていた。
その部屋に喜美子が床を延べ、
「お父さん・・蒲団敷きましたからそこに寝て下さい。俊夫お願い、お父さ
んをお蒲団へ。」
俊夫は父親を動かすと、延べた蒲団へと寝かせた。
二人はホッと顔を見合わせると、部屋の灯りを消して外へ出た。
部屋の外で二人は、
「あの様子なら、朝までは起きそうもないね。」
「そんな感じだわね。」
お互いが納得した様子を見せると、
「先に部屋に行ってくれる? 私も着替えたら直ぐに行くから。」
俊夫を先に部屋に帰し、喜美子は着替えの為自室に戻った。
喜美子は自室で着替えを始めた。
こんな夜が来るとは、今の今まで考えてもいなかった。
いや、それどころか、あの夜の事は、既に夢の中の出来事の様に思い始めて
いた。
その私が、今息子とこうして交わろうとしている。
喜美子は思い切って全裸になると、その上から普段は着る事の無かったピン
クのネグリジェを身につけた。
ドレッサーの前に腰掛け、髪にブラシを入れ、唇にピンク色のルージュを引
いた。
(今夜だけ、私はあの子のものになってあげよう・・。)
そんな覚悟を秘めて、喜美子は彼の元へと向かった。
「おはよう。」
キッチンで起きて来た俊夫に喜美子が声をかけた。
「おはよう。」
それに応える俊夫は、まだ寝むそうだ。
その理由は二人だけの共通の秘密だ。
そばで、父親が早くも朝食を始めていた。
「父さん、おはよう。」
「おう、おはよう、夕べは悪かったな、先に酔いつぶれちゃったみたい
で・・。」
父親は何も覚えていない様だった。
「俺も弱くなったものだ、あれ位の酒で寝ちまうなんて。」
父親の話を、母と息子は黙って聞いていた。
二人はつい先ほどまで一緒だった。
喜美子が朝食の支度をしなければならない為、止む無く離れる事になった。
そうでなければ、未だにベッドの中にいた事であろう。
「俊夫、たまには一緒に出掛けるか?」
父親がそう言って誘った。
すかさず俊夫は、
「今日休む事にしているから・・悪いけど一緒は行けないな。」
「そうか、じゃ、このまま又アパートに戻るか?」
「そう言う事になるね、又その内顔を見せるよ。」
そんな父と息子の会話を、喜美子は複雑な気持ちで聞いていた。
喜美子が夫を玄関先まで見送った。
「今夜はいつも通りに帰れそう?」
喜美子は自分でも意識した訳じゃ無いのに、そんな言葉が出た。
「そうだな、少し遅くなるかもしれないな。」
「そうですか、判ったわ。遅くなるようなら電話して・・、アッ、携帯の方
がいいわ。
私、買い物に出ているかもしれないから・・。」
次々に喜美子は予防線を張っていた。
喜美子の中で、夫に対する秘密が、少しずつ膨らんで行くのが判った。
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