渇いていた肉体を、俊夫によって潤いが与えられた喜美子は、その熱い身体
を預けている。
「まだ帰っていない様だね?」
「そうね、少しも物音が聞こえないから・・多分まだね。」
二人は顔を見合わせ、互いに納得した様に頷いた。
「とっても良かった。もう俊夫じゃないと私ダメみたい・・。」
「本当? そう言ってくれると嬉しいな。僕も母さんが一番だよ。」
俊夫の言葉に、
「そんな事言うと、私信じちゃうよ。こんなおばさんなのに・・。」
「そんなことないよ、僕には最高の女だよ。」
たとえそれが嘘であってもかまわないと思った。
喜美子にとって、彼が最高の男性で有る事に間違いは無いからだ。
喜美子の脳裏に、再び妊娠と言う二文字が過った。
(もし・・本当に私達の愛の結晶が宿ったのなら・・・・。)
喜美子の気持の中に、自分でも考えもしなかった気持ちが芽生え始めてい
た。
「おめでとうございます、2か月目ですね。母子共に順調と言った所ですか
ね。」
隣町の産科で、喜美子は医者からの宣告を受けた。
嬉しい様な、そうでない様な複雑な気持ちで喜美子はその言葉を聞いてい
た。
間違いであって欲しい・・、そんな気持ちと、愛する息子の子供を産んでみ
たい・・と言う女としての気持が交差していた。
しかし現実に言えば、この事態は容易ならざる事であった。
母親が、自分の息子の子を宿したのだ。
そんな事はとても許されるものではない。
(如何すればいいの・・? 私、如何すれば・・?)
喜美子はその答えに窮した。
改めて自分の犯した罪の大きさを、思い知らされたのだった。
喜美子は、俊夫にこの事を伝えるべきか如何か悩んだ。
伝えたところで如何なるものでも無いし、ましてや母が息子の子供を産むな
んて事が許されるはずもない。
もし産むとなれば、今までの生活を全て捨てなければならないだろう。
今更ながらに、夫の子と偽る事は出来ない。
夫婦生活の無い夫婦の間に、妻が妊娠する訳も無い。
父親が夫以外の男である事は、直ぐに判る事であった。
ましてやその父親が実の息子だなんて、口が裂けても言えない事であった。
喜美子は、堕胎するしかないと思った。
それしか道はないのだ・・喜美子はそう結論を出した。
しかし、そう決心すると喜美子の中に不思議な気持ちが芽生えた。
喜美子が妊娠した事を、無性に息子俊夫に伝えたくなったのだ。
その上で、彼の許しを得て堕胎する・・、喜美子は自分の本当の気持ちを如
何しても息子に伝えたかった。
この事実を、只の過ちとして終わらせたくは無かった。
喜美子が俊夫を愛しているのは、もはや疑いの無い気持ちだ。
出来るものなら・・産みたいと伝えたい。
愛する男の子供を産みたいと願うのは・・女として当然の思いだ。
その相手が、たまたま息子だったと言うだけなのだ・・。
喜美子は意を決すると、傍らに置いた携帯にそっと手を伸ばした。
<影法師>
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