「メール見たよ、父さん遅いんだって?」
俊夫からの電話に、喜美子の胸がドキドキと震えた。
自分の息子からの電話なのに、何故、こんなにも胸が躍らされるのだろう?
喜美子は不思議に思えた。
そう言えば、こんな気持ちを、以前感じた事が有る。
喜美子の脳裏に有る光景が浮かぶ。
夫と知り合う前、一時交際していた男性の姿が思い出された。
有る理由からその男性とは別れたのだが、夫と結婚した後、一度だけ逢った
事が有る。
当に忘れていた事だったが・・それが突然思いだされた。
何故なら、その再会は、ただ逢って食事をするだけでは終わらなかったの
だ。
その彼とは、交際していた期間、何度となく肌を合わせた仲でもある。
だが、喜美子は結婚を期に、それまでの関係を全て断ったつもりでいたの
だ。
だがあの時、今思えば魔が差したと言うべきなのか、夫持つ身でありなが
ら・・夫以外の男と交わってしまった。
その時に感じたドキドキ感が、今再び甦っていた。
(やだ、私如何しちゃったのかしら・・、俊夫の事を本当に好きになってし
まっている・・。)
電話で話をしながらも、喜美子はそれを強く感じていた。
「先に寝ていても良いと言うから・・、多分11時過ぎるみたい・・。」
「そう、判ったよ、なるべく早く行くよ。」
俊夫は喜美子の胸中を察したのか、そう言って返事した。
「来てくれるのね。それじゃ、夕飯の支度しておくわ。」
喜美子はそう言いながらも、胸の高まりを押さえられない。
「ねえ・・、もしよかったら、この間の様に泊っていけば・・・・。 」
そう言うのが、今喜美子の言える精一杯の意思表示でもあった。
(お願い、夜通しで私とオ○ンコして・・・)
喜美子は心の中でそう叫んでいたのだった。
喜美子は時間ばかりが気になっていた。
すでに9時を廻っていたからだ。
(なるべく早く行く様にするよ。)
あの時、息子はそう言ってくれたのに・・。
(何か急な用事が出来たのかな?)
下手すれば、夫の方が先に帰って来るかもしれない。
喜美子は心配になった。
もしそうなれば・・彼と情を交す事等出来なくなる。
そう思うと、次第に心が落ち着かなくなっていた。
(何で来ないの・・・何で?)
喜美子は今更ながら、自分の苛立ちに戸惑っていた。
息子を求める気持ちと言うか、肉体と言うのか・・。
こんな母親に変わってしまうなんて・・、なんと罪深い女だろう・・。
(それでも良いの・・俊夫、お願い、早く母さんを抱いて・・。)
それが偽りの無い今の喜美子の気持ちであった。
そう思った瞬間、喜美子はお腹から上に向かっての急速の吐き気を感じ、慌
てて手で口を覆った。
喜美子は、頭の天辺に突き刺さる様な強い衝撃を感じた。
そのムカつきは、過去何度も経験した事のあるものだ。
(嘘、まさか!)
喜美子は有る事実に思い当たった。
(妊娠?)
喜美子の頭にその二文字が浮かぶ。
この所、生理の遅れが少しばかり気にはなっていた。
だが、彼女にしては決して珍しい事でも無かったので、その内・・と思って
いた矢先である。
夫とは疎遠となっている。
喜美子の交渉相手は、今は一人だけだ。
しかも、彼の精液を体内に受け入れた覚えは・・・あった。
あの時に・・・、あの時なの?
喜美子は、体中が震えて来た。
思わぬ事態に、喜美子の心が激しく乱れた。
そして・・目の前が白くなった。
<影法師>
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