喜美子自身、後で冷静に考えて見ると、彼女が取った行動は、まさにそうな
って当然の事であった。だが、その時の喜美子の気持としては、少しでも早
く息子と話し合いを持ちたい・・それだけの思いしか無かった。
「お願いだから・・話をさせて。」
遅い時間の母親の訪問に、俊夫はむげに追い返す事も出来ず、迎え入れた。
「突然御免なさいね、この間あんなかたちで帰らせてしまったから・・すご
く気になっていたの。」
喜美子は突然の訪問を、そう説明した。
「こんな時間にいいの? 父さんには何て言って来たの?」
俊夫は遅い時間の母の訪問に、そう訊ねた。
「彼方の処に行って来ると言って来たわ?」
喜美子は正直にそう答えた。
「ここに来るのは初めてね・・、わりと綺麗にしているので、驚いちゃっ
た。」
喜美子は部屋の中を見渡しながらそう言った。
実は、俊夫との話の切掛けを探していたのである。
「そうだ、コーヒーでも入れましょうか? 道具有るでしょう?」
喜美子は小さなキッチンに立つと、流し台の周辺を探ると、コーヒーの支度
を始めた。
「今夜、お母さん泊めてね。」
喜美子の思いがけない申し出に、
「泊めてって・・余分な蒲団は無いよ。」
俊夫はそう答えた。
「なら・・たまには一緒に寝よう・・昔はそうだったでしょう?」
そう言いながら、喜美子はカップにコーヒーを入れて運んで来た。
喜美子はカップを手にすると、カップの淵を指先で撫ぜながら、
「母さん・・、凄く嬉しかったよ・・、俊夫の気持。」
俊夫は喜美子の言葉に応える様に、
「可笑しいよね、自分の母親を異性として意識するなんて・・。」
「そんな事ないよ。俊夫は普通よ。そんな言い方して自分を追い込まない
で。
母親を好きな子供は他にも一杯いるはずよ、彼方もそのひとりに過ぎない
わ、母さんは少しも変だとは思わない。」
喜美子は気を落ち着かせながら話をしていた。
「僕は違う・・、母さんが考えている様な事じゃないんだ。母さんを女とし
て好きになっている。」
改めてそう言われると、喜美子はそれに対する言葉が見つからない。
「それは、母さんだって判っている・・つもりだけど・・」
喜美子の語尾が弱くなっていた。
「嘘だ、母さんは判っていないよ! じゃ何でここに来たの・・そんな僕の
前にいるのさ?」
俊夫の言葉に、思わず自分の考えの足りなさを知らされる喜美子であった。
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