--第3話--
弘子が彰宏の上で淫らに身体をうねらせていた頃、大樹は4才年上のすみれの部屋でその日3度目のキスをしていた
すみれは大手保険会社に勤めており、大樹の親友が通う大学を一昨年卒業している
大樹は大学には進学せず高校を卒業後すぐに就職したが、営業で回る際は、安い学食で食費を抑えるため、時折その大学を訪れ、親友を呼び出していた
すみれも同様に、また、学生気分が抜けきっていないこともあり、まだ卒業できていない友人を誘っては、学食で食事をとっていた
大樹は混みあった学食のテーブルでたまたま同席したすみれに一目惚れし、すみれを見かける度に同じテーブルについては、少しずつ会話を広げ親交を深め、やっと誘えた2対2の飲み会の帰り道に全てを話し、すみれに交際を申し込んだ
すみれは、年下とはいえ周りの女が何度も見るようなイケメンに好かれていることに悪い気持ちはしないものの、信じられないという思いもあり、その場では回答しなかったが、次の飲み会の帰りには承諾し、飛び上がるくらい大樹を喜ばせた
二人は3日に二日は会っていた
つきあって3週が経過する頃にはキスもするような仲になった
しかし、すみれは中々それ以上は許してくれず、その日もすみれの家でDVD鑑賞をしている最中に、大樹はすみれに迫ったが、服の上から胸だけは触れさせてもらったものの、やんわりと断られる空気になっていた
「今日もダメなの?」
「うん・・ごめんね・・」
「僕のこと好きじゃない? やっぱり年下だから・・・」
「ううん、そうじゃないの ダイちゃんのことは好き・・年下とか年上とか関係なく好き・・」
「もう3ヶ月くらい断られてるし・・すみれはもしかしてこういうのがキライなのかな・・」
「・・・」
すみれは涙目になりながら、可愛らしいピンクのソファの上で大樹の肩にもたれかかる
大樹も嫌われているとは本気で思っていなく、キスをしている時、子犬のように自分に甘える姿からは、確実に好かれていると自負していたが、体を求めるとなぜか宙に舞う木ノ葉のようにすっと逃げるすみれの気持ちが理解できずにいた
大樹は見た目に奢らず、一途な男である
大樹が本気で誘えば、自分の欲望だけを満足させる女を何人もキープしておくことは可能であったが、すみれとつきあっている以上は絶対にそんなことはしない
しかしながら、特定の恋人がいない時は、自然と寄ってくる女が当然のように大樹の前で股を開くため、欲求を貯めることなく過ごすことが出来た
このため、大樹はすみれと付き合って以降、悶々とした欲求を常に抱えており、最近は会うたびに誘っては、すみれを困らせていた
「・・ごめんね・・もう少し、もう少し待って・・」
「うん・・・いいよ・・僕のほうこそごめん・・」
「・・本当にごめんなさい」
「・・もしかして・・すみれは、こういうこと・・・したこと・・ない・・の?」
「・・・」
「あ、いいよ、うん・・・何も言わなくて・・ごめん・・・」
「・・・ごめんなさい・・・ダイちゃん・・・キライにならないで・・・」
「だいじょうぶだよ・・待ってるよ・・待ってるから・・」
大樹はすみれを抱きしめ、もう一度だけキスをした
キスをしながらすみれの顔を見ていると目の縁から一筋の涙がこぼれ落ち、大樹はこれ以上すみれを苦しめるわけにはいかないと感じ、気分転換にボウリングでもして体を動かそうと提案したところ、すみれは大樹の気持ちを感じ取って嬉しく思い、ちょっと待ってと言うとそそくさと化粧を直した
すみれの部屋を出ると、外は肌寒く、風も冷たかったので、すみれは大樹に寄り添って手を握り、大樹の温もりをもらうことにした
大樹は手を握られることの嬉しさ以上に、腕にすみれの大きな胸が当たって柔らかさを感じさせることのほうが気になり、更に欲求を蓄積した
すみれは周りの同世代の女性と比べ、少しだけ肉付きがよく、太っているというほどではないが、若干ぽっちゃりとしている
他方、ウエストのクビレもしっかりとあるため、グラマラスという言い方が適切なのかもしれない
大樹これまでに恋人とした女と比べると若干見劣りはするものの、平坦で純日本人的な顔と艶かしい身体のギャップが淫靡な雰囲気を醸し出し、大樹を夢中にさせていた
駅の向こうにあるボウリング場に向かって二人は歩いた
その間二人は、一度行ってみたい観光地の話に盛り上がったため、あっという間に駅まで到着し、駅中の通路を通って向こう側に出ようとした
その際、コインロッカーの前で多くの人が横切るにも関わらず、自分たちの世界に入って濃密なキスをしているカップルが大樹の目にとまった
大樹は少し遠目だったこともあり、じっと見ながら歩いていると、すみれも大樹の目線に気付き、首を傾げ同じ方向に顔を向けた
すみれは、その男のほうを見るなり足を止めた
「あっ・・・お兄ちゃん・・・やだっ」
「えっ?」
「どうして? そんな・・・」
「・・・あの人、すみれのお兄さんなの?」
「うん・・やだっ、どうしよう・・でも・・えっ?・・・お兄ちゃんは・・・」
すみれは深刻な顔で考え込んでいる
大樹は以前、すみれには4つ年上の兄と4つ年下の妹がいることを聞いていた
妹については、大樹と同じ年であったこともあり、はじめからたびたび話題にのぼっており、すみれはいつも妹に大樹を紹介するときに何と言おうかはしゃいでいた
もともと、この駅の周辺にすみれの実家があったが、父の転勤に併せ、母と妹は遠くの県に引っ越していき、妹がその県にある大学に進学することとなったため、父が思い切ってそこに家を建てた
兄は就職していたことから、アパートを借りてそこに移ることとなり、すみれも大学に在学中であったため、両親の援助を得てこの街にアパートを借り、就職後もそこに住み続けている
近くに住んではいるものの、すみれは兄についてを大樹にあまり話していなかったため、大樹はどこかで会うかもしれないという考えを持ちもしなかった
すみれは黙ったまま立ち止まっていた
「ん? どうしたの? だいじょうぶ?」
「えっ、いや・・・うん・・早く行こうっ」
「うん・・そうだね・・」
兄のラブシーンを恋人と一緒に見た妹としては、恥ずかしさでいっぱいなのだろうと大樹は思い、もう一度だけ彼らに目をやって通り過ぎようとした
その時、熱い抱擁を解いた女性がゆっくりと横を向いて、恋人との別れを惜しむように駅の中に進んでいった
「あっ!」
「えっ? どうしたの?」
大樹はその女性の横顔を見て立ち止まった
ドクン・・
大樹の心臓が早くなる
大樹は何かの見間違いだと思い、天を仰いで軽く目をつぶり、改めて焦点を合わせ、恋人に振り返りながら駅の構内に消えていくその女性を凝視した
見間違いではなかった
「・・・お母さん・・・」
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