アーと山路が喧嘩したらしいという噂は、学校の女子の間でかなりの話題になったようです。
特にバレー部の後輩達は心配して電話をしてきたり、家まで訪ねてきたり。
でも理由が理由だけに、アーもどう答えれば良いのかかなり困っていたようでした。
そのアーの歯切れの悪い態度が余計不安にさせたようで、入れ替わり立ち替わりで毎日のように後輩達が訪ねてきて。
山路の方にも同じように後輩達が訪ねていたようで、最初は山路の口から僕達の関係がばれるのではないかと思ったのですが、決してそんな事はありませんでした。
山路が僕達に示してくれた、最後の友情だったのかも知れません。
(その代わり、後輩達への対応にはとても困ったことと思いますが。)
そうこうしている間に二月に入り、僕達の高校受験が遂に始まりました。
僕とアーの本命は共学の公立ですが、念のため私立も2校受けることにしていました。
ただ私立の良い所は男女別学しかありません。
僕はレベルを落としても共学を受けようかと言ったんですが、アーが反対してきました。
「家で一緒にいられるんだから、そんな理由で高校のレベル下げる必要はないでしょ?」
「そんなこと心配してるヒマあるなら、本命の公立に絶対合格してやる位の気概を見せなさい!」
と、相変わらずの強気の姿勢です。
実際アーの言う通りなので、ここは素直に従いましたが。
とりあえず私立にはアーも僕も合格。
少なくとも中学浪人は回避しました。
三月、本命の公立の受験当日。
さすがにアーも緊張した様子。
対して僕は、もうやる事はすべてやった気分で、不思議なほどに落ち着いていました。
そして試験はすべて終了。
あとは結果の発表を待つだけです。
僕はまぁ、中々の手応えあり。
アーも、
「よし!行ける!バッチリ!大丈夫!」
とガッツポーズを繰り返していたから、手応えは十分だったのでしょう。
その夜、母さんが受験終了のお祝いと慰労を兼ねて食事に連れてってくれました。
母さんはかなりのハイテンション。
僕達は中学生だというのに乾杯にワインを飲ませたり。(乾杯の一杯だけで、残りはすべて母さんが飲みましたが。)
単身赴任中の父さんと電話で話したんですが、一番長い時間話したのは母さんだったり。
家に帰る頃は母さんはすでにヘロヘロ状態。
アーが部屋に連れて行って寝かせてくれるとの事で、僕はお言葉に甘えて先に風呂に入ることにしました。
その時、
「話があるから、あとで部屋に行っていい?」
と、アーが耳打ちしてきました。
「ああ、別にいいけど・・・」
「うん、待っててね」
アーがこういう事を言ってくるのは珍しいな~と思いつつ、僕は着替えを取りに部屋に向かいました。
風呂から上がり、僕はアーが来るのをベッドでマンガを読みながら待っていました。
『母さんも寝ちゃったし、受験が終わったお祝いにセックスさせてくれるのかな?』
期待に胸が躍ります。
しばらくすると小さなノックの音。
返事をすると、風呂上がりのアーが部屋に入ってきました。
「・・アー?」
その雰囲気は、とてもセックスしよ~なんていう明るいものではありません。
「・・・どうした?」
「・・・・・うん・・」
アーが遠慮がちにヒコヒコと近付いてきて、僕の隣に腰を下ろしました。
「・・・・・・・・」
アーは言いたい事があるのに、中々言い出せない様子。
「あ・・・・実は試験上手くいかなかったとか?」
「そうじゃなくて!」
「はい・・・」
「・・・・・・・あのね」
「なんでしょう」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・アーさん?」
「・・あの・・・・・・あのね・・・・・・・・・・あの・・・・・生理・・・・・来ないの・・・」
「・・・はい?」
『セイリ?』
すぐには言葉の意味が分かりませんでした。
『セイリって・・・・生理?・・・・生理が来ないって・・・・・』
「・・・・・・マジ?」
「うん・・」
「えっと・・・・いつから?」
「・・・・一月の後半位に来ると思ってたんだけど・・・来なくて・・・・・ずっと遅れてるの・・・」
『・・・って、もう2ヶ月近くになるじゃん!?』
「なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ!」
「だって!・・・受験前に・・ターに心配させたくなかったんだもん・・・」
『それで一人で抱え込んでても意味がないだろう!・・・』
「で・・・マジ妊娠してんのか?」
「ううん・・・それはまだ確かめてない・・・・だから、ただ遅れてるだけかもしれないけど・・・」
「そういやアーって、いつも生理遅れ気味って言ってたよな?」
「・・そうだけど・・・・遅れるっても1週間とか2週間くらいで・・・1カ月以上遅れた事って・・ないんだよね・・・」
『それじゃダメじゃん!』
思わずアーのお腹を見つめてしまいます。
心なしか膨らんだ様子?
「まだ出てきてないわよ・・・」
アーが憮然と呟きました。
最近は避妊を心掛けていると言っても、外に出しているだけで生ハメを繰り返していた訳ですから、妊娠する可能性は確かにあります。
ですがそれ以上に一月と言えば、山路絡みでアーが落ち込んでいる時に、要望があったとは言え思いっ切り中出しした訳で・・・。
「やっぱ、あん時か?・・・」
「・・・うん・・・アタシもそう思う・・」
『妊娠する時って、こんなもんなのか?』
関係を持った直後、散々中出しを繰り返していたのにさっぱり妊娠しないで。久々に、それもたった一発中出ししただけで大当たり。
できちゃった結婚って、こんな感じでするものなのでしょうか。
でも僕達は結婚はできません。
「ねぇ・・・どうしょう・・・」
上目遣いで僕を見詰めるアーは今にも泣き出しそうです
「・・・どうしょうって言っても・・・・」
基本的に選択肢は二つ。
産むか、堕ろすか。
僕達にとっては親バレしないのが最良の方策ですが、どちらを選んでも親バレは避けられない事のように思われます。
僕もアーも定期預金がありますし、もう少ししたら高校進学のお祝いも貰えるでしょうから、中絶費用を用意する事はできるでしょう。
でも中学3年生・・・、いえ、高校1年生になったばかりの男女が保護者の付き添いもなく、妊娠中絶を受けられるとは思えません。
もしかしたら、そんな事が可能な産婦人科も存在するのかもしれませんが、少なくとも僕は知りません。
親にバレないようにお腹の子供を堕ろすのは、どう考えてもムリです。
まして産む場合は、日に日に大きくなるアーのお腹を隠し通せる訳がありません。
「・・二人でどっか行こうか?」
「・・・え?」
「俺達みたいな姉弟でも、駆け落ち・・で良いのかな?」
「なに?・・・アタシとターで、愛の逃避行?・・・」
涙声のアーがクスッと笑いました。
誰も知らない街に行って、僕とアー、そして僕達の赤ちゃんとの三人で新しい家族を作る。
それが実現できるならどんなに幸せでしょう。
「・・・そうだね・・・・・そうできたら・・最高だね・・」
アーが僕の胸に頭を当てて言いました。
僕にはその肩を抱き締めるしかできません。
僕のアー。
僕が愛する、僕だけのアー。
願いが叶い、遂に手に入れることができたのに、あれからまだ一年も経っていません。
手放したくない。
二人の思い出を作るのは、まだまだこれからなのに・・・。
そんな思いを切り裂いたのは、アーの一言でした。
「・・・やっぱり、お母さんに相談しよう?」
「・・え?・・・・でも・・」
「しょうがないよ・・・このまま黙ってたって、いつかはバレちゃうもん・・・」
「・・・でも・・・・・そしたら俺達・・・引き離されちゃうかも知れないんだぞ・・・」
「・・・・・・・・」
途端にアーが言葉を詰まらせました。
アーだって、僕が言った事くらい分かっていたはずです。
「・・・・・・・・やだ」
俯いていたアーが、絞り出すような声で呟きました。
「・・・やだ・・・・やだ・・・・ターと離されるなんて・・・・ターと・・・会えなく・・なるなんて・・・やだ・・・・やだよぉ・・・」
まるで小さい子供がすがり付いてくるように、弱々しい声で泣き出すアー。
震えながら泣き続けるアーを抱き締め、僕はもう覚悟を決めるしかないと思いました。
「・・・俺が、なんとかする」
「・・・・・なんとか・・って?」
「母さんに話す」
「・・でも・・・それじゃ」
「分かってもらうまで話す・・」
アーが真っ赤に泣きはらした顔を上げました。
「俺とアーが本気で愛し合ってるって・・・世界中の誰よりも愛し合ってるって・・・分かってくれるまで・・・俺達のこと許してくれるまで・・・諦めないで話すよ」
「・・・・・・」
「アーも手伝ってくれるよな?」
「・・・・できる・・かな?」
「なにが?」
「・・・アタシ達のこと・・許してもらう・・・なんて・・」
「うぅーん・・・・・簡単では・・ないと思う・・・つーより、かなり難しいと思う・・・・でも・・やらないで諦めるよりはいい・・」
アーが真っ直ぐ僕を見ています。
「父さんだって、母さんだって・・俺達が本当に本気だって分かれば、きっと許してくれるよ」
僕達は、愛し合うことですでに十年来の親友を失っています。
これ以上何かを失う事になっても、それでもお互いを選ぶ覚悟ができています。
僕にとってアーがいてくれれば、他には何もいらない。何も必要ない。
そう、アーだけでいいんです。
この気持ちに偽りはありません。
なにがあっても、なにをされても、この気持ちが変わることはないでしょう。
――この気持ちがあれば、もう、なにも怖くない。
「・・俺・・・アーがいてくれればいいんだ・・・・他は全部ダメって言われても・・アーといることだけ許してもらえれば・・それだけで最高に幸せなんだ・・・」
「アタシも!・・・アタシも・・ターといられるなら・・・もう何もいらない・・・・他は全部無くなったって・・全然平気・・・」
「だからさ・・・それをちゃんと伝えよう?・・・・俺達の気持ちを変えるなんて、誰にもできないって・・・・俺達を引き離すなんて、父さん母さんにもできないって・・・・」
「うん・・・うんっ!」
僕達には、もうお互いしかいない・・・そう思ったこともありました。
でもそれは間違いでした。
僕達には、ただお互いがいれば十分なだけだったんです。
僕にはアーがいれば。
アーには僕がいれば。
いつしか僕達は自然に求め合っていました。
お互いの唇を愛し合い。
お互いの性器を愛し合い。
お互いの全身を愛し合い。
そして、僕達は一つになりました。
決して激しくはない、緩やかで、しかし燃え上がるような交合。
アーは僕を優しく包み、僕はアーを熱く充たす。
ただそれだけの行為で、どうしてこれほど快楽と充足を味わえるのでしょう。
「・・・ねぇ・・・・逝く時は・・このまま・・・逝ってね・・・」
「え?・・・・でも・・・一応・・・・外に・・・出した・・方が・・・」
「・・・もう・・・・・そういうの・・・必要ないっ・・・よ・・・・」
今にも逝きそうな表情のアーが、そう言って静かに笑いました。
「・・・・・そうか・・・・・・そうだな・・・」
もう僕達には避妊なんて必要ない。
もしアーがまだ妊娠していないとしても。
この精がアーの胎内で命を紡ぐ事になったとしても。
そして、僕のすべてがアーの身体へと注がれました。
「お前の腹ん中の赤ん坊、大きくなってきたら、先っちょ当たったりしねぇのかな?」
僕達は繋がったまま、下らないお喋りに興じていました。
「先っちょって?」
「いやぁ~・・・チ○ポの・・」
「バッ!・・・なにバカなこと言ってんの!!」
「でも心配ならねぇ?・・ビックリしたりしねぇかなぁって・・・」
「・・・パパですよ~って挨拶代わりになって、却っていいんじゃない?」
「・・・・・・お前もすげぇこと言うね・・・」
「ねぇ・・・それより・・」
アーが物欲しそうな目で僕を見詰めました。
「・・・・もう二回目すんのかよ」
「え~・・・いいじゃん」
「・・・お前ってホント、エッチ好きになったねぇ・・」
半ば呆れ顔。
「なによぉ・・・ターのせいでしょ・・・」
チ○ポを咥え込んだマ○コが蠢き出します。
「あっ・・・こらっ!」
「ほら・・ターのも二回目したいって言い出したわよ」
アーの中でチ○ポがムクムクと動き出しました。
「・・ったく・・もう・・・」
こうなったら素直に二回目を始めるしかありません。
「・・ねぇ、ター・・・」
「ん?・・なに?」
「これからはさ・・・アタシのこと名前で呼んでくれない?」
「・・・なんで?」
「なんでもっ!・・・好きな人からいつまでもアーなんて呼ばれるのヤだから!!」
「まぁ、いいけど・・・ならお前も俺んトコ名前で呼べよ」
「・・・うん・・・分かった」
「・・あ~・・・アズサ・・・」
「なぁに?・・あなた♪」
「・・・・・!」
「痛ぁ!・・ちょっとぉ、ぶつ事ないでしょ!?」
「お前が言い出した事だろ?・・もう少し真面目にやれ・・・」
「ふぇ~い・・・」
「・・んじゃ、今度はお前からな」
「はいはい・・・・・え~と・・・タカヤ・・」
「あいよ・・・アズサ」
「・・・・えへへ・・・・・なんか照れるね・・」
「あ~・・・まぁ・・な・・・」
アー、いえアズサと名前で呼び合うなんて何年ぶりの事でしょう?
「・・・・・・でも、ちょっと・・・嬉しい・・・」
「・・・・・・・・まぁ・・・な」
「・・・タカヤ」
「~~~・・・・・アズサ」
「はい、タカヤ」
「・・・アズサ・・・」
「タカヤ」
「アズサ」
恥ずかしい気持ちの半面、胸の中が温かくなってもきました。
「・・・・アズサ」
「タカ・・・ヤ」
抱き締め合い、熱く濃厚なキス。
もう僕達には不安も恐れもありません。
お互いを、そして未来を信じて、この日二度目の交歓が始まりました。
この時、僕達はまだ15歳。
世の中の厳しさも冷たさも知る事もなく、本当に愛し合う気持ちがあれば、あらゆる障害を乗り越えられる。そう、心から信じていました。
惜しみなく注ぎ合う深い愛情を確かめ合い、僕達は心から愛し合う幸せを、ただただ歓び合っていたのです。
【完】
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