1-5 パンドラの箱 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
佐織の淫欲な本性の根幹は全て自己愛であった。
特定の誰かと、したいやりたいではなく、相手が誰であっても自分の快感、満足優先。
幼い時からの妄想、理想は自分の分身との性交である。
佐織の様な淫欲な人間は、同じ性癖、同じ思考のもう一人の自分と出会ったら、
終点の無い快楽に溺れる事であろう。
佐織が、これまで息子圭介に欲情したことは一度も無かった。
妄想の中にも出てきたことも無かった。あの事故を二人で乗り越えて来たのだから。
圭介も、あの日までは佐織を性欲の対象にはしてはいなかった。あの日までは。
その日、佐織は近所のスーパーに夕飯の買出しをして帰宅した。
鍵を開けドアを開けようとしたがロックが掛かったまま・・・
逆に鍵を閉めたことになった。
(出る時鍵はしっかり閉めたはず、圭介の帰りが早かった・・・?)と思いながら
再度鍵を差込み玄関を開けた。
佐織の推測どおり、圭介のシューズが玄関にあった。
その時、廊下手前の佐織の部屋から物音が聞こえてきた。
佐織は「圭介、どうーしたの?」と、声をかけながら物音のする自分の部屋に入った。
そこで圭介の手元を見て、佐織は一瞬で背中が冷たくなる感覚に陥った。
圭介はドレッサーのチェアの中に隠しておいたバイブなどのオモチャや井川との記録を
詰め込んであったバックを広げ、ビデオテープを再生して見ていたのである。
佐織は狼狽し何も言い出せず立ちすくんでいた。
「これ・・・母さんだよなぁ・・・?いやらしく縛られてヨガってんの…」
「目隠し・・してるけど、これ・・・母さんだよな・・・」圭介は画面に目をやったまま
佐織に浴びせかける。
「っていうか、この男誰よ?あぁ?」
佐織はやっとの思いで「何で・・・どうしてぇ?」と搾り出した。
「書留郵便が来たんだよぉ・・・」「ハンコいるだろ・・・ハンコ」
「前に母さんがドレッサーの引き出しからハンコ出してるの、見て覚えてたからさ」
「引き出し引いたら偶然この椅子が倒れて・・・中からこのバックが出てきたって訳さ」
「その時は何も気にならなかったんだけどね、郵便屋が帰ってハンコをここに戻してから
倒れた椅子を起してバッグを中にしまおうと思った時、中に赤い紐らしき物が見えて
なんだ?と思って開けて見た訳」少し震えた上ずった声で圭介は顛末を説明した。
佐織は小さく頷くのがやっとだった。
それと同時にこの局面をどうしたらいいのか混乱していた。
ガクガクと膝が揺れ、喉が渇き、暑い時とは明らかに違う汗が全身を覆っていた。
「母さん…こんなにヤラシイ女だったんだ・・・」圭介はバッグの中から一本のバイブを
取り出した。
今、再生されているビデオの中で佐織の淫らな陰部に収まっている物だった。
「母さん…こんなに淫乱だったんだ・・・」圭介は画面を見入ったまま
バイブのスイッチを入れたり切ったりしていた。
再生されるビデオから佐織の激しい息遣いや喘ぎ声が部屋に広がる。
佐織は、とにかくこの状況を打開する方法を頭の中で巡らしては見るものの一向に
その方法は見つからず『夢なら覚めて!』と無駄な願いをささげていた。
「母さん、そんなとこに突っ立ていないでこっち来いよ。こっち来てここに座んな。」
部屋の中央に置いてあるベッドを指さして圭介は無情にもそこに座れと言う。
佐織は、この局面、そんな針のムシロのような所には座れないと思い、
(道理も理屈も関係ない!)
「とにかく!ここから出ていって!何にも触らないで早く出て行って!」
「圭介のバカァ~~ッ!」と叫んだ。
こんな感情的な叫び声を上げたのは生まれてはじめての事だった。
当然、圭介もこんな佐織と対峙するのは初めてで、納得の行かない顔をしつつも部屋から
スゴスゴと出て行った。
佐織は後先を考えず、そのバッグを掴みマンションから飛び出していった。
『最悪・・・・・・』
『オモチャの一つや二つ見られるくらいなら・・・』
佐織は保管場所が甘かったことを後悔しながらフラフラと宛ても無く歩いて行った。
やがて近所の公園にたどり着いた。
夕飯時の公園には子供の姿は無く、時折、中学生が自転車で通り過ぎる程度だった。
佐織はベンチに座り込んだ。『・・・どうしよう』『冷静になろう・・・』そう思った。
(まず、死んだ夫には悪いけど、圭介は私の夫じゃないのだから圭介に謝る必要は無い。)
(開き直ろう・・・バッグの中身、さっき見られた映像は事実だし言い訳したってしょうがない。)
(嫌われたら嫌われたでしょうがない・・・。そのことで圭介には迷惑は掛けてない。)
そう気持ちを整理し覚悟を決めても、佐織の腰は簡単には持ち上がらなかった。
(どれ位時間が経ったであろう・・・)そう思った佐織に、街灯の明かりが時間を告げ
ていた。
佐織の携帯が鳴った。圭介からであった。
出るかどうか迷っているうちに着信が切れた。
『ふぅ・・・』ホットしたようなガッカリしたような感覚だった。
佐織は、また掛かって来ないかと電話を見つめていた。
今度はメールの着信音が鳴った。やはり圭介からであった。
佐織は、恐る恐るメールを開いて見た。
<さっきはゴメン、
俺ガキだったね・・・
っつぅかガキだけど。
さっきの件、一つだけ
聞きたいことはあるけど、
答えたくなきゃ答えなくていいよ。
って言うか、母さん!腹減ったよ俺。
内緒にしといてやるから早く帰って来い
それにそんなバッグ持ってウロウロしてたら
ヤバイって!>
「圭介・・・優しい。ありがとう」
(大人ジャンあいつ~)そう思うとスッと重い腰も上がり帰路についた。
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