ガラス張りのサンルームから注ぐ柔らかな日差しが、部屋の中に差し込んでくる。人には有り難い日照は楽器にはよろしく無いこともあり、ピアノは離れた壁際に設置している。
母方の叔母が亡くなり空き家となったこの家を、冴子は気に入っていた。生涯独身を貫いて自由を謳歌していた叔母は、母に連れられ度々遊びに訪れる冴子を可愛がってくれたものだった。
姉妹仲が良かった母と叔母に続いて姪の冴子もその中に加わり、大人になってからも年に数回はこの家を冴子は訪れて来た。叔母は余命宣告を受けていた事を冴子には告げず、何食わぬ顔をして姪との時間をそれは楽しそうに過ごしていたのだ。「じゃあ、また来るね」と、この家を後にした時が生前の叔母の顔を見ることが最後になるなんて、夢にも思わなかった。
叔母の大好きな洋菓子を持参して、また半年後にでもあの笑顔に会えると思っていたのだ。叔母はあのさっぱりした性格そのままに、ただ一つのお土産を冴子に残して、まるで風のように旅立っていった。
それが、この家である。
既に生前贈与の手続きは冴子の知らないうちに済ませてあり、お荷物になるのなら処分してお金に変えるよう、ご丁寧に弁護士を挟んで告げられたのだ。それが3年前の事で、あのバスの中で忌まわしい経験をした直後の事だったのだ。
叔母との思い出の詰まったこの家を無くすなんて出来るはずはなく、冴子の行動は早かった。叔母の葬儀が済んで半年後にアパートを引き払い、この家に引っ越しをして移り住んでいた。翌年には教師を辞めて、この場所でピアノ教室を始めたからもうすぐ3年になろうとしている。
収入はそれほどでもないけれど有り難いことに、冴子ひとりが食べていけるほどには生徒が集まってくれている。今もこうして鍵盤を指で叩きながら生前に叔母が植えた薔薇を、サンルームのガラス越しに眺めることが出来るのだ。
不意に目眩がして、目を閉じる。40を前にしてこのところの生理不順が影響しているのかもしれない。母は50歳間近まで生理があったから娘である自分もまだ、生理が上がるとはおもえないぬ
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