あの悪夢から1ヶ月が経ち、心のザワつきはいくらかは静かになった。痴漢の毒牙から守った女子生徒は、沈黙を守っていてくれている。冴子の身に何が起こっていたのかは少女なりに理解し、体を張って守ってくれた恩師を、裏切るようなことはしないでいてくれている。
冴子に何も聞かず日常を送り、冴子もいつも通りに振る舞うことで過去の出来事として記憶の中に葬る。そんな女心は年齢差はあっても暗黙の了解として、同性感で共感するものがあるのだろう。
冴子はいつもと同じ生活パターンを崩さず、朝は熱いシャワーを頭から浴びて1日のスタートを切る。それを続けることであの出来事は夢だったのだと自分に言い聞かせることで、いつもの自分を取り戻しつつあった。
今日は何を着ていこうかしらとクローゼットを開き、ノースリーブの黒いシャツブラウスを手に取った。合わせるのは水色のシフォンスカートである。薄手の生地のセミタイトスカートだからヒップラインが綺麗に現れ、そこから下が比較的ゆとりのあって堅苦しくないのが気に入っている。
V字型に開いた胸元に控え目なチェーンネックレスを飾れば、シンプルながら服を引き立たせてくれる。艶のあるセミロングの髪の毛にブラシを通し、納得するといつものように玄関のドアを開けて朝日の中に冴子は足を踏み出した。
いつもと変わらぬ業務を終えて、いつもと同じ時間にバス停の前に立つ。冬の時期なら薄暗くなる時間でも、夏に向かう今の時期は夕暮れはまだ数時間先の事。蒸し暑いジメジメとした空気が鬱陶しく、早く冷房の効いた車内に入りたい気持ちでバスの到着を待っていた。
今日のバス停は並ぶ人の数が多くて大抵は見知った顔触ればかりなのに、知らない男性が何人も並んでいるのが気になった。そうはいっても特段に不審な人は見当たらず、バスの車内が混み合う事のほうが気になるのだけれど………。
冴子の背後で靴音が止まり、バスに乗る人がまた増えたことを知る。冴子と同様にこれから乗客になるその男性は、冴子の後ろに2歩ほど距離を開けてバスがやって来る方向を何気なく見やって、前に向き直った。視線を下げると淡い水色を基調とした薄手のスカートが、視界に入ってきた。
ギャザーもなくプリーツやアコーディオンといった波打ったデザインでもないシンプルなスカートに、魅力的な2つの盛り上がりが生地を押し上げていた。ヒップラインが露骨に分かり、形の良いお尻にハーフカットのショーツラインが浮かび上がっている。細かい色柄があるから動体視力が良くても通常は分からないのだろうけれど、さすがにこの距離で見ると身に着ける者の趣味趣向が見て取れてしまう。
ようやく到着したバスに次々と乗車していく人の流れに続き、冴子も車内へと足を進め踏み入れていく。ちょうど中程まで足を進めて止まり、座席の前に立つポールを掴む事で吊り革を掴まなくて済んだ。座席に座る人は早々に居眠りを開始し、駅までの30分前後の仮眠を楽しむようだった。
バスが走り出すと、乗車率7〜8割の車内に立つ人が身体を一斉に揺らす。数分と経たずお尻に接触される不自然な感触を覚え、これ見よがしに肩越しに振り向く仕草を見せて、相手に警告を示す。
股間を押し付ける卑劣なやり方に辟易し、何度も肩越しに振り向く仕草を見せつけてやったのに、冴子は1ヶ月前の悪夢が脳裏を掠め始めていた。
下半身を押し付けるだけでは飽き足らず、相手はショーツラインに沿って指先を這わせてきたからだ。冴子の経験から言ってこの手のタイプは悪質な輩が多く、背筋に悪寒が走る。脹脛までの長さがあるスカートの裾が手繰り寄せる指によって、ずり上がっていくのが分かる。
膝上まで裾が上がった所で、怖かったけれど冴子は思い切って身体ごと相手に向き直った。こんな至近距離で見た相手はとても痴漢などしそうにもない男性で、冴子より幾つか歳上に見える30代のきちんとスーツを身に着ける男だった。
どちらかと言えばいわゆる良い男で、こんな出会いでなければお近付きになっても良いと思わせるような、あまりにも普通の男なので戸惑いを隠せない。けれど振り上げた拳を今更下げるわけにもいかず、冴子は相手の男を睨みつけ続けるしかなかった。
相手の男も思いも寄らない冴子の行動に動揺をしていたけれど、冴子の目を真っ直ぐに見詰め返してくる。背後の乗客に押されたのか距離を詰めてられ、一見するとほとんど抱き合う恋人同士のように見えなくもない。もちろん冴子は可能な限り上半身を仰け反らせ、男との距離を可能な限り開けて見せる。けれど下半身は男とほとんど密着した状態になり、身体を僅かでも横にずらした。
それが冴子の出来る精一杯の精々のことでしかなく、他に何が出来たというのだろうか…………。
こんな距離で冴子が睨み続けているというのに、男は冴子の目を見ながらスカートを手繰り寄せ始め、動揺をしながら抗う冴子の手も関係なく女の部分に指を触れさせていた。自分の下半身と男の顔を信じられないとでも言うような表情で交互に見る冴子が、男の手首を掴み引き抜こうとする。
女の力では敵わず股丈の浅いショーツの中へと男の手の侵入を許し、身を攀じる。顔を上げた冴子に男の顔が間近に迫り、思わず反射的に顔を横に背ける。アンテナの役割を果たす恥毛を掻き分けられる感覚に身体を硬直させ、触れてほしくない敏感な所に触れられる………。
顎を跳ね上げた先に待ち構えたように男の顔があり、数秒間見つめ合う。羞恥心なのか焦燥感なのか、或いは背徳感なのか数センチの距離にある男の唇に引き寄せられそうになる。顔を背けては男の目を見詰め、また背ける。もう何回それを繰り返しているのか気持ちの収集がつかず、尋常ではない状況に何をどうしたいのかが分からなくなってきた。
嫌悪感よりも背徳感が上回り、羞恥心が女の色情に火を付ける。それでもなけなしの理性が冴子を押し止め、男の唇に触れることを何とか拒んだ。下着の中で男の指先に可愛がられる誘惑に抗う事が難しくなり、顔を寄せてくる男に冴子は顔を背ける。ひとり孤独に葛藤を続ける冴子の周辺にはあまりにも乗客がいるにも関わらず、近すぎるが故に誰もが至近距離の相手には関心を寄せない、そんな集団心理が無意識に働く。
冴子が両手で掴む男の手首の先は、ショーツの中で今や上下に動かされていた。手首のスナップを利かせて手の甲をクロッチに押し当てるように、沈めた2本の指を引いては根元まで挿入させる。
繰り返しゆっくり抜き差しされるごとにお腹側を擦る指の腹が、思考能力を鈍らせていく。
男の手首を掴む冴子の両手は今や引き抜こうとするよりも、今の冴子の現状を伝えるように快感の波が押し寄せる度に強く握られ、男に耐え忍ぶ女の性を如実に伝える手段になっていた。
不意に空いている方の男の手が冴子のブラウスのボタンに触れて一つ、また一つ外していく。開けた胸元のブラジャーの片方を下にずらし、乳房の半分を覗かせた男は膝を曲げて姿勢を下げながら乳首に口を押し付けた。
生温かく柔らかい唇と舌先の感触に抗う手段を持たず、神経が下半身と乳首を弄ばれる感触に分散する。相変わらず動かし続けられる指に吐息を漏らし、舌先が乳首に触れる甘さに目を閉じる。
バスの運転手がブレーキをかけ、身体のバランスが崩れそうになってハッとする。バスの車内で1度ならずも2度も、こんな目に遭うなんて………。
そんな自虐的な気持を抱きながら、もう片方を露出させられた乳房に吸い付かれる現実をどう受け入れたらいいのと、冴子は自問自答をする。
でも次の瞬間には唇を重ねられる事に拒絶が遅れてしまい、男の舌を迎え入れる自分がいた。決して喜んでしたわけではないのに身体が言う事を聞いてくれないのだ。一体どうすればいいのか……。
助けを求めて声を出せば済むのに、それをすれば通勤で使うこのバスにもう乗ることは出来なくなる。もう顔見知りとなった人達にも痴態を知られる事になり、学校にも何れ知られるだろう。それだけは、絶対にそれだけは避けたい…………。
そんな冴子の胸中を味笑うかのように男はいつの間にかペニスを取り出し、音楽教師は目眩がしそうだった。ショーツをお尻の下まで下げられ、この姿勢で挿入など出来るはずもないのに股の下に差し込んできた。太くて硬い、熱を持ったペニスが内腿に挟まれてその存在をこれでもかと誇示してくる。
ペニスの根元で柔らかなシフォン生地のスカートの前側が持ち上げられ、股の下で熱い杭が脈動を伝えてくる。不安と背徳感、拒絶反応とそれを上回る期待感がせめぎ合い、冴子の気持ちがザワめき葛藤が続く。そこに愛は無く、欲望の捌け口に傾く女の性が教育者の端くれとしての側面が邪魔をする。
頭がおかしくなりそうだった。
尋常ではない状況下で緊張状態が続き、望まない快感を味合わされ続けられて、善悪の理屈を越えて頭の中は快楽を求めガードが緩む。
どういうわけかショーツが引き上げられると、信じられない事に左膝を持ち上げられていた。
この密集した状況下ではあまりにも目立ち過ぎ、焦る冴子を嘲笑うかのように踵を持たれる感触に唖然となった。この状況に気付く誰かがいて、しかも協力者になるなんて理解が追いつかない。
男の首に両手でしがみつくしかない冴子に成す術はなく、僅かばかりの抵抗に腰を捻って見せたけれど、次の瞬間には頭を跳ね上げる冴子がいた。
挿入される圧迫感に息を飲み、男の肩に顔を埋める。男の胸に押し付けられて潰れた乳房がブラから溢れ、男の腰の動きに合わせて陰茎が出入りを繰り返し始める。
周囲の乗客に気付かれる恐怖に胸が苦しくなり、なのに相反する快感が押し寄せてくる。
ぬちゃっ……ぬちゃっ……ぬちゃっ………
卑猥な水音が人の密集する空間に鳴り響き、バスのエンジン音に紛れて消えていく……。
そんなに強く突かないで………。
お願いだから、目立たせないで…………。
そんな切なる思いの冴子を、容赦なく男は突き上げる。ただし、苦痛を与えるのではなく、あくまでも快楽を提供することに徹していく。何故なら女が快感に酔いしれ、喘ぐ姿が何より好きで堪らないのだから。
冴子はこの時まだ自分の置かれている状況に気付く余裕は、まだないのだった。
彼女の周りは全て、痴漢集団なのだから……。
※元投稿はこちら >>