その日の授業を終えて職員室での仕事を済ませると、音楽教師の城である音楽室へと足を向けた。
一日の締めくくりにピアノを引くと、心が落ち着くからだ。鍵盤を叩く指がメロディを奏でると、俗世から切り離されたように気持ちが楽になる。
冴子はあの日の夜のことを思い出して、我ながら大胆なことをしたものだと後悔をする気持ちが、このところのストレスになっていた。もう2週間になるというのに。頭からあの出来が離れなくてあの3日後、生理となっても身体が薄いて仕方がなかった。
誰かが顔を覗かせているのに気付いて顔を上げると女子生徒のひとり、清水由美が人懐っこい表情を見せて冴子を見ていた。
なぁに……、もう下校時間でしょ……?
由美の魂胆は分かっている。どうせ途中まで一緒に帰りたいに決まっている。もう一曲……と思っていたけれど冴子は諦めて、ピアノの蓋を閉めてから腰を椅子から上げた。年頃の女の子は何かと悩みがあり、大人からすると他愛もないことだけれど、彼女が頼れる大人の1人として冴子は無下にはしたくないとう気持ちがある。
ちょっと待ってて、今いくから………。
手早く後片付けを終えて、冴子は彼女の元へ早足で向かった。
由美は友達のことや口煩い親のこと、進路のことから恋のことまで歳の離れた姉のように慕う冴子に、話して聞かせては冴子の答えを聞きたがった。彼女には間違いを犯してほしくはない。けれど今しかない青春を無駄にもして欲しくもない。
自分の頃とは時代が変わった部分もあるけれど、彼女には後悔だけはしないように話を聞かせる。
由美は冴子の話に目をきらきらさせて、嬉しそうに耳を傾けるのだった。
帰宅ラッシュに突入したバスの車内が混み合い出して、駅まで20分しかかからない道路が渋滞が始まったことにより、途中で動かなくなってしまった。どうも突発的な工事か何かで片側通行となっているようで、車の列が少し動いては停止を繰り返している。
つい今しがたまで元気だった隣りにいる由美が、急に俯いて静かになった。気になって語りかけても釈然とせず、その様子から冴子はハッとした。彼女の立ち位置と自分の身体とを入れ替え、由美の後ろに立っていた男に鋭い一瞥を突き立てる。ホッとした表情を浮かべる彼女の様子から、痴漢に遭っていたことは疑いようがない。こんなことで若い彼女には、変なトラウマの経験させるわけにはいかなかった。
タイミングよく降車ブザーが鳴り響き、由美の目の前の乗客が席を立つ。冴子はすかさず彼女を座らせると、由美の盾となるようにその前立ちはだかった。この混み具合で騒がれたら痴漢男に逃げ場はなく、まして大人の冴子に手を出す勇気はないだろうと判断しての行動である。
バスはあと停留所まで数メートルという所で動かなくなり、運転手は仕方なくそこで扉を開けてお客様を下ろすことにしたようだ。数人のお客様が減っても人の密度にさほどの変化はなく、座席に腰を下ろした由美が不安げに見上げてくるのに対し、笑顔で溜息をついて見せる。口の動きだけで「大丈夫よ」と、冴子は彼女を元気づけるように
再び顔に笑顔を浮かべた。
その冴子の笑顔が一瞬、凍りつく。引きつりそうになるのを由美に悟られないように、さり気なく平静を装う。その冴子のお尻に誰かの手の平が触れ、上下に擦る感触に悪寒が走る。それが誰の手によるものなのかは考えるまでもなく、明らかだった。がっしりとした体つきの30前後の男、あいつに間違いはない…………。
紺色のセミタイトスカートが冴子のお尻の形を浮かび上がらせて、円を描くように触れていた男の手が、中指だけを伸ばしてお尻の谷間へ沈めてくる。気持ち悪くて腰を攀じることで肝心の場所まで指が届かないように、冴子の静かな抵抗が始まる。膝下まであるセミタイトスカートの生地の撓みには限度があり、冴子の妨害に遭っては痴漢男の作業にも限界はある。敵は、一枚上だった……。
ハッとした冴子が、自分のお腹に視線を向ける。
スカートの前面に鮮やかな金ポタンが設置され、それが縦に並ぶデザインスカート。そのボタンの位置が横へとずれていき、スカートの前後の位置が入れ替わっていく。括れた腰の上で回されていくスカートの前側が後ろになると、お尻の辺りのボタンが外されるのが冴子に伝わる。生徒の前でうろたえることはしたくない、不安を与えたくない。そんな気持ちが、冴子の顔を能面にさせる。
梅雨の中休みとなった蒸し暑い晴天に、パンストなど身に着けているはずはない。男の片手が出入り出来るだけポタンが2つ外され、そこから侵入してきた男の手が冴子のお尻に触れ、ぴたりと閉じられた内腿をこじ開けるように、お尻の真下に中指が突き立てる男。
冴子のお尻に当てた手の平で安定した指が下着のクロッチを這い進み、一際柔らかい女の恥部を何度も往復させる。気になって仕方がないのか由美が見計らったように冴子を見上げ、気付いた冴子が真一文字に結んだ唇の能面顔を、無理に作り笑顔に変えてまた「大丈夫」と口を動かして見せる。納得したようには見えないけれど、由美は窓の外に顔を向ける。若かろうと女の勘は確かなもので、冴子の後ろにはあの痴漢がいるのではないか、冴子に悪さをしているのではないか。由美は皆騒ぎがして落ち着かず、無力を感じることしか出来なかった。
その頃冴子の下半身では男が指先を微振動をさせて、ゆるゆると指先を小さく回し、微振動に切り替える。この交互に行われる攻撃が冴子の心の中の水面に波紋を起こし、やがてうねりとなって甘い波が繰り返し押し寄せるまで、そう時間は掛からなかった。お尻をどう捩ろうが内腿に固定されていては、男の攻撃を防ぐことは事実上は不可能である。
ずいずいと手首を捩じ込まれて股に隙間が開けられると、可動域の上がった男の指が敏感な場所を確実に捉える。準備を始めた身体がショーツの底を濡らし、男の指によって柔肌に貼り付く。嫌な感覚とこの場にそぐわない快感が同居して、冴子が気持を保っていられるのは目の前の生徒、由美の存在だけ。それだけが気持を繋ぎ止める最後の頼みの綱、ある意味命綱だった………。
誰かの溜息や咳払い、不満の募った息遣いが車内に充満し、バスが僅かに進んでまた停止してしまった。エンジンのアイドリングする振動が、足の裏から伝わってくる。今が嘘偽りのない現実だとその残酷な事実を冴子に知らしめ、止めていた息をゆっくり吐き出す女教師に追い打ちが襲う。
スッ…スッ…ス〜ッ……ズッ……ズリ〜ッ………
腰骨を越えて丘を乗り越えたショーツが股下まで下げられ、ピーンと張ったようになる。敏感な所とその下の入口とを交互に行き来する指が、立っていることを辛くさせる。やっぱり不安を覚えて見上げてくる由美の頭を手で抑え、冴子はこちらに振り向けさせないように前を向かせる。冴子の息遣いがいつもとは明らかに違い、どう考えてもおかしいのだ。それをどうしても確認してみたいのに、冴子は許そうとしてくるない。一体なにが起こっているのかが、由美は心配だった………。
師を心配する生徒、教え子に無用な情報を与えまいとする女教師。その冴子の股下で濡れた2本の指が第2関節まで埋まり、入口近くまで退いては執拗に迫り来る。立っているのがやっとの下半身は落ちてしまいそうな腰を支えるために脚を開き、それでも折れる膝が後ろにお尻を突き出させる。お誂え向きの冴子の反応を見て、男が最後の行動に出る。
ジィーインズのチャックを引き下げてどうにか取り出したペニスを、苦労して水平に手で下げる。
それでも足りない分は両膝を曲げて腰の位置を合わせ、外したボタンの隙間から中へと突き入れる。そこにあてがうと首を捻ってこちらを気にする素振りがやっとの女は、小さく頭を振りながら拒絶の意を伝えてくる。けれど、男は………。
冴子は咄嗟に唇を引き結び、声が漏れ出ないように息を飲んだ。柔軟性のある膣壁が広がりながら図らずも男を受け入れ、中を往復されるたびに最初の衝撃が無きものにされていく……。厚みのあるお尻が緩衝材の役割を果たし、男の手が腰を支えるのも手伝って円滑なピストン運動が成立させられる。
決して派手な動きではないけれど、女を酔わせるには必要にして十分過ぎる波を引き起こす。あの夜の駐車場であの男性に味合わされた狂おしいものではないけれど、ほぼ密着された状態で奥を突かれ続けられていると何かに縋りたくなってしまう。気を逸らすために視線を窓の外に向け、甘い波が打ち寄せれば固く瞼を閉じる。声が漏れそうになると唇を舐め、吐息が勢いよく出そうになると唇を強く噛んで堪える。それでも駄目な場合は太腿に爪を立て、その痛みで気持を分散させる。
それでもでも、何をしても不十分なのだった。
バスが1つの交差点を通過するのに5分以上はかかり、そう考えると男は少なくても15分以上は、休まず腰を動かし続けていることになる。
メトロノームでリズムの調整をした経験のある、そんな冴子は頭でぼんやりとそんなことを思う。
堪え続けるのもしんどい身体に汗が滲み出て、男に腰を支えられていなければ座り込みそうだった。不意に男の躍動するペースが上がり、膝が折れ曲がる。それを許さない男に持ち上げられて、力強いピストンが子宮口を優しく突いていく。
こんな所で待って、お願い、待って、待って……。
冴子の心の叫びは男に届くことはなく、女なら誰もが逃れられない深く濃く甘い快感に飲み込まれていく。破顔していた顔に恍惚を浮かべ、自分の肩に頬を寄せて口呼吸をする。背中が弓なりに反りだすと浮かせた顎が生徒の頭の近くに下がり、熱い吐息が吹き掛かる。異変を感じた由美が振り返ろうとするのを、あるかな無きかの理性を振り絞って彼女を前に向かせる。有無を言わせぬ冴子の所作にただならぬものを感じた由美は、恩師の顔に振り向くことが出来なくなってしまった。
硬く熱いモノが尚も躍動し続け、冴子の舌がついに唇を舐めることを忘れたように動かなくなる。
小さな吐息が切れ切れに吐き出され、たまに止まると長い溜息のように伸ばされる。危機迫ったように切迫した息遣いが聞こえ始めると、息を飲んだように呼吸が止まり、熱い口呼吸が再開される。
男の腰が一際早くなり、跳ね上がった冴子の頭が嫌々をするように小刻みに振る仕草を見せる。
緩みきった雰囲気が流れるバスの車内で1人身体を揺らす、そんな冴子の膣が何度も締まる。締っては緩み、そしてじわじわと狭まる膣が男を圧縮する。男が食いしばった歯の隙間から苦し気な息を漏らし、限界の時が迫り来る……。
夜の帳が降りてきた外の暗さが、見るともなく外を眺めていた由美に気付かせてしまった。車窓に反射した冴子が恍惚に染まり、堪らなそうに声無き声を上げながら喘ぐ、その淫らな女の顔を見せていることに………。
不意に男の腰の躍動が止まり、膣の中で脈動が始まる。頭が真っ白になった冴子が男に体重を預け、オーガズムを迎えて身体をぐったりさせていた。汗ばんだ冴子のうなじに舌を這わせ、ペニスの亀頭がむず痒くなるのをどうにか堪える。
女が必死に堪え続ける後ろ姿を思い出すうちに、ペニスの硬度が復活していくのを自覚する。女はわざとなのか無意識になのか、中をうねうねと動かして催促を促しているのか…………。
再び身体を揺らし始めた冴子は首の力が抜けたようにふらふらとさせていたのに、俯かせていた顔を弾かれたように跳ね上げて、何とも言えない甘い表情を作り出す………。
スカートの中では忙しなく出入りを繰り返し続ける結合部から、溢れ出た精液が冴子の内腿を伝い落ち、受け止めたショーツに染み込ませていた。
ステアリングに白い手袋をした手を添えた運転手が、テールランプの赤い光を顔に浴びて深い溜息をつく。
男のペニスは余裕を取り戻し、冴子の中を執拗に掻き回して快感に酔わせることに余念がない。
女教師の顔がまた、淫らな顔に染まっていく……。
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