【スピンオフ 第2話】
私は京子。今年で四十八歳になる専業主婦だ。見た目もスタイルも年齢相応。社会経験が少なく人と接するのは苦手だ。
五十九歳になる夫とは二十五年前に知り合った。夫は起業家で、私は熱量に溢れる彼に惹かれた。夫は昼夜を問わずに精力的に働き、一代で財を成したが、無理が祟って五年前に病を患って下半身が不随となり、現在は車椅子での生活を余儀なくされている。
以来、夫は人が変わった様に自信を失い卑屈になった。彼は周囲の人間を妬み、自分を大きく見せようと高圧的な態度を取る。
それに合わせて、私への態度もどこか歪みを孕んだものへと変わり、夫は、私を試すような事を繰り返す様になった。
ある時には使用人がいる前で自慰行為をさせられ、ある時には夫が連れてきた複数の見知らぬ他人に身体を蹂躙される。
夫は私に服従を強いた。恐らく彼にとって、私が最後の砦なのであろう。私はそれもまた夫の愛の形であると割り切るが、心は暗く沈んでいた。
ある日の午前、朝食を終えた夫は、私に一掴みの黒い布切れを差し出した。
「京子、客人が来るからこれを着て待ちなさい」
私が受け取ったそれは、布面積が殆ど無い、カップレスブラと陰部の布が裂けた前割れのショーツだった。
「こ…これを?」
「ふふ…嬉しいだろう?」
夫は、にやりと屈折した笑みを浮かべる。私は別室で着替えると再び夫の前に戻り、羽織っていたガウンをするりと落とした。
重力に負けた垂れた乳房、陰毛を剃られた割れ目からはみ出す肉襞。隠すことをまるで放棄した紐同然の下着が私の身体に食い込み、肉が段になって盛り上がる。私にとってその姿を見られる事は、全裸よりも寧ろ惨めであった。
使用人の冷ややかな目が、露出した肌に突き刺さる。羞恥と屈辱に耐える私を、夫は嬉しそうに眺め、車椅子から私の乳房に手を伸ばし、嗄れた指先で乳首を弄ぶ。
恐らく私はまた、見知らぬ他人と望まないセックスをさせられるのだろう。そう考えると私は酷く憂鬱な気分になった。
客は時間丁度に屋敷に現れた。迎えに出た使用人が、夫と私が待つリビングに客人を連れてくる。
「はじめまして」
客は私が思っていたよりも若かった。長身で、一見すると細身だが、捲った白衣の袖から鍛え上げられた上腕が覗く。涼やかな切れ長の目にメガネ。無造作な黒髪。そのルックスは一見すると学者の様な気難しい知性を湛えているが、凛とした清潔感が感じられ、夫の歪んだどす黒い計画とは凡そ正反対の人物に見えた。
彼の名前は八坂純。個人営業の按摩師で、夫の口振りから、すこぶる評判が良いらしい。
裸同然の私は、自身の場違いな格好に恥じらい、思わず身体を隠すが、八坂はちらりと私を一瞥するだけで、私の格好などまるで意に介さないように視線を外すと、物静かな口調で挨拶を済ませる。
夫の案内で寝室に移動すると、彼は私をベッドの縁に座るように促し、丁寧な口調で問診を始めた。
「では、最近のご体調について、詳しくお聞かせいただけますか?」
その誠実な低い声に、私はなぜか背筋を正された。彼の眼差しはあくまでも知的であるが、先ほどの冷たい印象とは打って変わり、優しげな温もりを帯びている。
私は不思議と彼に信頼感を抱き、問われるままに自覚症状について答える。
更年期に差し掛かり、ホルモンバランスの崩れか、近頃は身体のだるさが抜けずに節々が痛み、夜も浅い眠りしか得られない日が続いていた。
肩凝り、背中の張り、そして下肢の冷え。
そのまま八坂は触診を始める。
「少し触れますね。ここはいかがですか?」
八坂は立ち上がると私の背後に回り、僧帽筋から肩甲骨、広背筋、腰回りと順に優しく触れ、筋肉の緊張と冷えを確認していく。触れられるだけでもどこか心地よく、その温もりに私は思わず目を閉じた。
「触診は以上です。確かに仰る部位が硬くなっていますね。特に右側が顕著です。まずは背面から緩めていきましょう」
八坂はそう告げ、ベッドの上にうつ伏せるよう指示した。私は素直に従い、枕に顔を沈めると、八坂は下着姿の私を気遣う様に自らが用意したタオルケットを掛けた。
「まず、軽く擦って背面全体を温めます」
彼は掌全体で撫でるように、私の肩から腰、臀部までを何度も往復する。その滑らかな手技に、血流が促されじわじわと身体が温まる。
「何だか温かくなってきました…」
「それは良かった。次に筋肉の強張りを揉みほぐしますね」
八坂は親指を立てて、私の僧帽筋、肩甲挙筋、広背筋のツボを的確に捉え、ゆっくりと適度な強さで指圧していく。痛みは全くと言っていいほど無く、まるで知恵の輪を外すように重い拘束を解いていく。
私自身、腕利きと言われるマッサージや整体を受けた経験があったが、これ程の腕の持ち主には遭遇した事がない。
彼の手技が、更に臀部、腿裏、ふくらはぎ、足裏まで到達する頃には、私は深い呼吸をするようになり、全身に蔓延っていた倦怠感がすっかり和らぎ、ゆったりとした眠気に近い安堵が私の身体を流れてゆくのを実感する。
「では、前面の施術に移ります」
八坂は静かに私を仰向けに寝かせると、露出した肌に、再び素早くタオルケットを掛ける。
彼はまず、肩口から施術を始め、次いでデコルテ、腹部と施術を進める。掌でお腹を温め、臍下を軽く摩りながらゆっくりと腹直筋を揉み解す。腸の蠕動を促す手技に私のお腹がギュルギュルと鳴り出し、私は妙な恥ずかしさを覚えるが、八坂の視線は真剣なままだ。
「お通じは出ていますか?お腹が張ってかなり冷えていらっしゃいます。女性は特に下腹部の血流が滞りやすいですから」
そう言うと八坂の目が優しく微笑んだ。私は自分の格好も忘れて八坂に身を委ねていたが、彼の手が、腸骨の突起まで降りてきたとき、私は反射的に身を固くした。
「…ひゃっ」
「大丈夫ですよ、必要以上には触れません」
だが、私の身体のスイッチは既に入っていた。その指がほんのわずかに鼠径部に触れた瞬間、再び訪れた刺激に、ビクリと身体が跳ねた。
「あんっ…」
「大丈夫ですか?」
「え…ええ…」
私の口から思わず女の甘い声が漏れるが、八坂はあくまでも真剣に私の症状と向き合おうとしている。この男の優しく紳士的な態度に、私の胸の奥は余計に疼き、全身にじっとりと汗が滲んだ。
そんな私の変化に気づいたのか、ベッド脇でじっと施術を観察していた夫が車椅子から、揶揄とも取れる声を掛けた。
「はは。八坂君。…妻の性感帯も、ほぐしてやってくれんか」
その瞬間、八坂の手が止まり冷たい表情を浮かべた。私は八坂に芽生え始めた淡い慕情を夫に見透かされた気がして、私の顔は紅潮し汗ばんだ手のひらを握りしめた。
「私からも…お…お願いします…」
「無理をしなくて良いですよ」
「私の命令に逆らうのか!」
八坂は激昂する夫を無視して、明らかな不快感を示す。私の目は涙で潤み、「行かないで」と、懇願する様に八坂の白衣の裾を掴んだ。自分でも信じられない行動だった。
長年の隷属から、夫の言葉に抗うことができなくなっていたのは事実だ。だが私の身体は、自分でも抑えられないくらいに火照り、既に八坂に触れられる事を求めている。私は夫を利用した。
八坂は、激昂する夫を一瞥すると無言でうなずき、低く落ち着いた声で「解りました」とだけ答え、私に憐憫の視線を向けた。
「本当に宜しいのですか?」
「はい…」
彼は、私が頷くのを見届けると、指の動きの質を変えた。
彼の指先は私の肩口に戻り、鎖骨からデコルテを経由し、乳房の円周を触れるか触れないかの微かな圧力でゆっくりゆっくりと螺旋を描きながら舐めるように滑っていく。私は耐えられずに嬌声をあげながら身体をピクピクと反応させる。
「あっ…はん…あっ…」
「くすぐったいですか?綺麗な肌ですね…」
八坂の低い囁きとともに彼の温かい吐息が私の耳に触れた。八坂の静かな、でも情熱を秘めた目が、私の紅潮した全身を捉えている。
ふしだらな下着を纏っている羞恥が今更ながらに蘇るが、不思議と私の心には淫靡な興奮が渦巻いている。膣の奥から甘い汁が止めどなく溢れ、シーツに大きな染みを作っている。
素肌に感じる彼の掌の温もり。そしてその温もりは丸出しになった私の乳房の稜線を登り、乳輪の周囲で優しく円を描いた。
「あっ…八坂さんっ…」
「…ほら乳首が勃ってきてる…」
直接触れられてもいないのに、忽ちに乳首が固く隆起する。待ち望んでいる場所に触れて貰えないもどかしさが、私を更に狂わせる。
彼は吐息がかかる程顔を近付けて、私の表情の変化を確かめ、くるくると乳輪の周囲をなぞる。
「ああっ…あっ…もう」
もどかしさに負けた私は、彼の手を捕まえて、汗ばんだ自らの乳房に押し付ける。
「お願いします…おっぱいを触ってください…お願いします…もう我慢できないの…」
私はこの時に泣いていた。そして自分で手繰り寄せた彼の掌が私の乳房を包むだけで、私は身を捻って歓喜した。
「ああ…お願い…もっと…もっと…」
彼の指がその芯を確認する様に、硬く勃起した乳首を摘み上げ、強めに捻る。その瞬間、私の頭は真っ白になると同時に身体が大きく跳ねた。
「んっ!だめっ!逝くっ…あああーっ!!」
私は乳首を摘まれただけで絶頂に達した。
「あうっ…うううーっ…」
『このまま続けたら私はどうなってしまうのだろう?』これまで味わった事のない快楽に恐怖を覚えた私は、思わず彼の背中に手を回してキスをねだった。
「はあっ…はあっ…ねえ怖い…八坂さんお願い…」
彼も私の背に手を回すと強く抱き寄せ、私に唇を重ねてくれた。彼の唇は柔らかく温かく、何よりも情熱的だった。唇を食み合い、唾液で滑らせ、興奮した私は自ら彼の口内に舌を挿し込む。クチュクチュと舌が絡む湿った音が、私の緊張と羞恥を甘く溶かしていく。
すると彼は私の片手を自らの股間に導き、夫の耳に届かない小さな声で私に囁いた。
「本当は僕もずっと我慢していたんですよ…最初に会った時から…京子さんは綺麗だから…」
彼の言葉通り、ズボンの布越しに触れる彼の肉棒は、私の手に余る程大きく硬く膨張し、布越しでもその熱が伝わってくる程だった。
「僕ももう我慢できません…」
その言葉に彼の顔を見遣ると、目が合った。彼は照れ臭そうなはにかみを浮かべ、今度は彼から私にキスをねだる。私は、彼が私に興奮し、私を求めていた事が何よりも嬉しく、彼の逞しい腕に包まれていると思うと最早何も怖く無かった。
彼は私の上体を起こすと、そのまま背に回って私の身体を受け止め、敢えて夫に見えるように私の太腿を開かせる。
「ほら…こうするとよく見えるでしょ」
「いやあ…恥ずかしい」
彼の一方の手は乳首を弄び、もう一方の手は乳房から離れて鼠径部へ下った。彼は、ショーツの割れ目から指先を忍ばせると、既に開き桃色の肉を覗かせた陰裂の周囲をなぞる。
「ようく見て…ヒクヒクしてる…」
「ああっ!いやあっ!!」
彼は不意打ちのように、そっと指を秘裂の奥へと滑り込ませた。その瞬間、声にならぬ嬌声が漏れ、全身が痙攣するように波打つ。
彼の指先が弧を描きゆっくりとGスポットを捉える。同時にクリトリスを母指で押圧しながら、Gスポットを掻き出すように膣壁を撫で上げる。もう私は八坂の手技の虜だった。
絶頂は一瞬だった。指を挿入されて数分も持たずに、私は大きな悲鳴を上げ、ベッドの上で潮を噴いて果てる。
だが彼は指を止めず、気が遠くなるような快楽の波に飲まれ、私は顔からは涙と涎、下半身からは愛液と潮を垂れ流して、呻きながらみっともなく腰を振る。
「あううー…ああー…あうー」
夫が私たちに恨めしそうな目を向けるが、私は最早、夫がそこにいる事すらも忘れていた。
何度も果てて身体は限界の筈なのに、私の子宮は八坂の精を欲して更に熱を帯びる。欲しくて欲しくて堪らない。その激情は自分でも止められなかった。真っ白な思考の中で、ただ[この男に抱かれたい]というメスの本能に突き動かされる。
「八坂さんの…八坂さんのが欲しいの…。お願いします…私のおまんこに指じゃなくて…おちんちんを入れてください…お願いします…」
意識が混濁して、自分でも何を言っているのか解らない。私は恥も外聞もなく、胸の中にある想いを言葉にして哀願する。八坂は私の膣から指を抜き、私をそっと仰向けに寝かせると、少し考え込んだ後にメガネを外して立ち上がり衣服を脱いだ。
そこに現れたのは、無駄のない筋肉に包まれた、男の美しい裸体であった。
そしてその股間には彼の容姿に似つかわしくない、禍々しいまでに暴力的で巨大な肉棒が既に勃起してそびえ立っている。陰茎に張り巡らされた太い血管、艶のある鮮やかな緋色の亀頭。その先から透明の粘液が糸を引いて垂れていた。
「ああ…」
私は歓喜の声をあげた。逞しく勃起した八坂の肉棒は私に向けた欲情そのものであった。
「すいません…もう我慢できません…」
八坂は申し訳なさそうに低い声で呟くが、紅潮した顔と、その視線には私に向けられた濃密な劣情を孕んでいる。
「ご主人、本当にいいですか?」
「……」
「お願い。来て…」
私は夫の返答を遮り、自ら八坂を腹上に引き込むと、肉棒を握り、開いた太腿の中心に宛がう。すると八坂は肉襞に包まれた肉棒を突き立てるように、ゆっくりと慎重に腰を沈めた。
私の膣は若干の痛みを伴いながらめりめりと音を立てて拡がり、愛液で潤滑を与えながら八坂のそれを少しずつ受け入れる、それは若かりし日に夫に処女を捧げたあの日を想起させた。
そして全てを飲み込み終える頃には痛みは消え、熱い肉棒で私の中をいっぱいに満たされた充実感が溢れる。
八坂の肉棒は私の中でゆっくりゆっくりと前後運動を始めた。八坂の巨大な亀頭が私の膣口から子宮までを何度も往復し、その度に亀頭が膣壁を余すことなく擦り、子宮をゆっくりと押し上げる。
私は再び頭が真っ白になった。電撃に打たれた様に身体が硬直して息が詰まる。自然と指先に力が入り、八坂の背中に強く爪を立てた。
「あっ!!ああーっ!!凄いっ!!ああん!」
「あ…う…くっ…」
「だめっ!逝っあああっ!」
部屋にはパスン…パスン…と肉がぶつかり合う音と八坂の低い喘ぎ、そして私の絶叫が響き、シーツに染み込んだ私の尿臭が漂っている。
夫は何も言葉を発する事なく、瞬きもせずに私達の情交を眺めていた。
私の意識は膣に集中していた。八坂の肉棒は私の中で、時にヒクヒクと痙攣し、ぎゅっと硬く膨張する。そして八坂の動きが一瞬止まる。
その動きは、八坂が射精を必死に我慢し、この至福の交わりが一分一秒でも長く続く事を望んでいると思えた。私にはそれが堪らなく嬉しく、同時にそんな八坂を心底愛おしく、可愛いと感じた。
「我慢しないで…そのまま中に出して…」
「京子さん…」
辛うじて言葉を発する私を、八坂は強く抱き締め、私の肩口に顔を埋めた。
すると八坂の肉棒は私の中で微かに震えた後に、今日一番と言える程に固く大きく膨張し、最後は力尽きる様にその尖端から、どくりどくりと脈を打ちながら大量の精を私の子宮に全て注いだ。じわっと下腹が熱くなり、まだ肉棒が刺さったままの膣口から精が溢れる。
私達は繋がったまま暫く抱き合い唇を交わす。入り混じった互いの汗の味に酔い痴れながら、その邂逅の終わりを惜しんだ。
息を切らし、汗ばんだ身体をぐったりと横たえて震わせる私を、夫は嫉妬に満ちた目で見ていた。そして、思い出した様に不敵な笑みを浮かべると、身支度を整える八坂に言い放った。
「八坂くん。たまに来て妻を抱いてやってくれんかね」
夫は再訪を求めるが、彼は静かに断った。
「お断りします。それは私の領分ではありませんし、ご主人に言われる話ではありません」
その言葉に、私は胸の奥に妙な温かさと、一抹の寂しさを感じた。私はガウンを羽織り、帰る八坂の背を、涙を浮かべて玄関先で見送る。すると八坂は何かを思い出した様に踵を返し、私の前に戻ってきた。
「気になる症状があれば『今度は京子さんが』ご連絡ください。いつでも歓迎しますから。あ…でも、ご主人のリハビリにも協力しますよ。」
彼は冗談交じりにそう言って、第一印象からは想像できない、少年のような笑顔を浮かべて、直通の携帯番号が書かれた名刺を私に手渡した。私も彼につられて頬を緩める。
「必ず連絡しますね」
「是非。僕もまたお会いできるのを楽しみにしています」
彼が帰った後、私はリビングでスマホを弄りながら、『癒やしの手』というサイトで八坂の名を見付ける。私はプロフィール写真に写る彼の強ばった表情を眺めてクスクスと笑い、彼のレビューに星5を付けてメッセージを残す。
『身体だけでなく心も軽くなりました。ありがとうございました』
私は彼との性交を経て、自分が少しだけ自信を取り戻し、強くなれた気がした。
私はスマホの画面を閉じ、彼の名刺を眺めながら、膣から流れ出る彼の精液を指でなぞる。
次はどんな約束をお願いしようか…
【了】
※元投稿はこちら >>