金曜日になると、学校は例の駐輪場での事件の噂で持ちきりだった。誰もがひそひそと話し、犯人について憶測を巡らせる。
「友花と別れろだって」「多分、単なる嫉妬じゃないのか?」
そんな声も聞こえてくる。貴明は内心で自嘲し、優越感に浸った。
(まあ、ルックスはいいからな、あいつは。誰がやったのかは、わからないだろうな)
結局、犯人は特定されないまま、事件は人々の記憶から徐々に薄れていった。
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一週間後、貴明はいつものように友人と他愛ない話をしていると、サッカー部所属の全原周哉が、興奮した様子で駆け寄ってきた。全原は西原靖と同じサッカー部だ。
「おい、貴明、聞いたか? うちの部活の後輩の靖と、俺らの同級生の藤原の妹の友花が破局したらしいぞ!」
貴明は内心で飛び上がりたいほど驚いたが、いつものクールな態度を崩さず、平静を装った。
「へえ、そうなのか。やっぱり例の事件が響いたのかな。」
なんでもないことのように返事をしながら、貴明の心臓は高鳴っていた。自分の計画がうまくいったのだと。
(あとは黙って、靖と知世が結ばれるのを願うのみだ……)
貴明は、これで全てが自分の思い通りに進むであろうと信じていた。しかし、その直後、彼は想像だにしなかった驚くべき話を聞くことになる。
「靖、最近練習でもよくミスするんだよ。見てて気の毒になっちまうんだ」
全原周哉は、心配そうな顔でそう続けた。貴明は内心で複雑な感情が交錯するのを感じていた。靖が苦しむことなど、望んでいないのだ。ただ、知世と結ばれてほしいだけなのに。しかし、今ここで何かを言えば、自分の関与を疑われるかもしれない。貴明は何も言わず、ただ周哉の話に耳を傾けていた。
「友花と別れてから、完全に心ここにあらずって感じなんだよな。この間の練習試合でも、普段なら絶対決められるようなシュートを外してさ……。アイツ、あんなにサッカーに打ち込んでたのに、見てるこっちまで辛くなるよ」
周哉の声は、本当に友人を心配しているようで、貴明の心に重く響いた。自分の行動が、靖をこれほどまでに苦しめているのか。靖と友花が別れたことは、貴明にとっては望んだ結果だったはずだ。しかし、靖の苦しむ姿を想像すると、胸の奥に澱のようなものが溜まっていく。
(俺は、ただ……)
貴明は言葉を探した。知世が幸せになるために、靖と結ばれることが一番だと信じていた。それなのに、今の状況は、誰もが苦しんでいるように見える。靖の心境を思うと、一抹の罪悪感が胸をよぎった。
貴明は、目的を変更し、靖の「新しい彼女」を用意することにした。
サッカーグラウンドのベンチ。靖は一人座っていた。貴明は靖の隣に座り、話しかける。貴明の隣にはショートカットの背の高い女がいる。
「よう。クラスメイトの周哉から聞いたぞ。お前も災難だったな。
だけど、いつまでも後ろ向いてても何もならないよ。ちょっとさ、お前に紹介したい女がいるんだ。」
彼が紹介したのは小学校の頃から同じ学校に通っている女友達・川北優樹。ショートカットが似合うイケメン女子だ。
数日後、優樹から「私と西原くん、すごくうまくいってる。西原くんも辛かっただろうからね。貴明にありがとうって言ってたよ」と聞く。
「いやいや、それほどでもないよ。」
(ありがとうって言ってた、か…)
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