◯タワーマンションの夜(後)
あの夜から、私と怜子夫人との関係は密やかに続いた。
一度火がついた肉欲は、長い禁欲生活で乾ききっていた夫人の奥底を焼き尽くし、次第に理性の楔は外れていった。
「お願い……今すぐに……」
平日の午後、社長が出張で不在の日を見計らい、タワーマンションの一室で怜子夫人は私を求めた。
薄いベビードールのガウンの下、透ける乳房と艶やかな肢体。私が部屋に入ると、すぐさま抱きつき、濃厚な口づけを交わす。
唇の隙間から舌を絡め、衣擦れの音と微かな吐息が交じる。夫人の手は私の下腹へと滑り、布越しに熱を帯びた肉棒を探り当てる。
「もう……こんなに……」
潤んだ瞳で見上げながら、怜子夫人はいきり立ったそれを手で包むと、唇を尖らせて亀頭の先から滲み出る雫をチュパチュパと愛おしそうに吸い尽くす。
「そんなにしたら…出ちゃいますよ…」
「一回目は飲みたい…」
怜子夫人は理知的な容姿とは裏腹に甘えた声で私に強請り、ベッドルームへと引き込み、私を仰向けに寝かせると馬乗りになって肉棒を口に咥えた。
「あふ…ふごひ…あふん…」
怜子夫人は目を見開き、頬を萎めて一心不乱に吸い上げ、暴力的に舌を絡ませる。舌のざらつきが肉棒を舐め溶かし、私は我慢しきれずにすぐに夫人の口腔内で果てる。
夫人はまるでワインでも飲むかの様に舌の上で私の精を転がして味わい、一息全て飲み込む。次いでまだ硬さの残る肉棒を手でしごき上げ、尿道に残る一滴までを味わい、その喉に流し込んだ。
「ああ…美味しい…慎二くんのエキスが私の中に…。抱いて……あなたじゃないと、もうだめなの」
私は彼女の尻をこちらに向かせると脚を開かせ、その最奥に肉棒を突き立てる。熟れた花弁は甘い香りと蜜を溢れさせ、腰を打ち据える音に合わせて身を震わせた。
「ああっ、もっと…もっと欲しいぃ…」
怜子夫人は悲鳴に似た哀願の声を上げる。
「いぐっ!あああっいぐぅっ!」
夫人は小便を漏らしながら果て、ガクガク痙攣しながら膝から崩れ落ちる。
私はそんな夫人を抱き上げてベッドに場所を変え、何度も何度も激しく、時にゆっくりと貪るように身体を重ね、怜子夫人の子宮を精で満たした。
しかし、月が巡っても、妊娠の兆しは訪れない。
社長は「気にするな」と言うが、内心では動揺しているのが伝わった。
最初の交わりから半年程経ったある日の逢瀬、情事の後で怜子夫人は私にこっそりと告げる。
「ごめんなさい…本当は……」
シーツの中で怜子夫人は涙を浮かべながら私にだけ不妊の真相を打ち明けた。私はその肩を抱き寄せ、濡れた髪を撫でる。依頼された契約だったはずであるにも関わらず、次第に淡い情が生まれ、遂には抱き合う事が生きる目的にすらなっていた。もはや私は、彼女なしではいられない。
ずっと彼女と一緒に居たい。だがそれが叶わぬと知ったのは翌週の事であった。
その晩。社長に食事に招かれた私は、これが最後だと告げられた。
「もう、怜子を……君に抱かせるわけにはいかん。私は、二人の様子にとうに気づいていた」
社長は老いた目を細め、しかし怒りの色はなかった。
「だが、最後にもう一度だけ……。今夜、私の目の前で、怜子を抱け」
信じ難い言葉だった。怜子夫人も既に知らされていたらしく、艶やかな黒のガウンで現れ、静かに頷いた。
社長はワインを片手にソファへ座り、私と怜子夫人はリビングのカーペットの上で抱き合った。
唇を重ね、怜子のガウンを脱がせてお互いが産まれたままの姿になる。
社長の視線を浴びながらの情事。羞恥と興奮が入り混じり、怜子は普段以上に艶めかしく乱れ、時に社長を挑発する。
「ああっ、見て…ほら…気持ち良いの…ああん…もう止まらない……」
怜子は社長が座るテーブルに手を付き、私の肉棒を求め、社長の顔を見つめながら何度も絶頂を迎える。蜜のしたたる秘唇は熱く、私もそのたび彼女を求め腰を振り続けた。
私達の衝動は冷めず、行為は夜が白むまで続いた。全てを染め上げる様に、口、膣、肛門に至るまで全ての穴に精を注いで別れを惜しむ。
「愛してる…ずっと…」
「ああ…慎ちゃん…愛してる…」
私と怜子は混ぜあったお互いの汗と体液にまみれながら愛を囁く。
社長はただ黙ってグラスを傾け、最後には目を閉じ、静かにこう告げた。
「怜子、これが最後だ。君は……子を宿して、私の家を守るんだ」
そして、それから3か月後。
怜子夫人の妊娠が発覚した。
私はその報せを聞いたのは会社の社長室であった。もはや、私は怜子には会えない。それでも怜子との結晶がこの世に宿った事が嬉しくもあった。
これは私と怜子との策略でもあった。
今でも思い出す。
夜景の中、薄絹のような肌と、甘い吐息。
私の中に巣食った、忘れられぬ背徳の記憶。
そして愛とその結晶。
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