一週間はあっという間に過ぎる。
これまで生きてきてこんなに時間が早く感じたことは、恐らくない。
耐えに耐えて一週間後にカフェに寄った時だ。
清水の舞台から飛び降りる………そういった例えがあるように、思い切って彼を映画に誘ったのだ。
「そういえば映画って好き?……チケットが余ってるの……余り物だけど勿体ないじゃない?……私とで申し訳ないけど、良かったら観に行かない?」
彼は二つ返事で絶対に行くと答えてくれた。
映画が大好きだと話してくれたけど、本当だろうか。私に合わせてお芝居を演じたにしては、上手過ぎる。ならば私と観に行けることが嬉しいとか?……いくらなんでも楽観的過ぎだと自分を諌める。やっぱり純粋に映画が好きだと考えるのが自然ではないか、タダで観れるのだから。
とにかくあの喜びようったら、まるで子供のように無邪気で可笑しいのだ。
それからの一週間というもの、自分でも不思議なくらい仕事が充実し、瞬く間に時間が過ぎていた。
何を着ていこうか前日の夜は、鏡の前でちょっとしたファッションショーだった。
何組も試着を繰り返してみても正解が出ることのない、無駄な時間に終わってしまった。
あまり眠れないままに朝を迎えた。
ぼんやりした頭では閃きなんて働くわけがない。
彼はきっとカジュアルな格好だろう。
ほぼスーツを着た私しか見たことがない筈の彼に合わせ、ベージュのラップスカートに白いキャミソール、薄手の白いカーディガンを選んだ。
待ち合わせ場所の駅前に行くと、すぐに彼と分かる男性が目についた。
私と同様にベージュのコットンパンツにTシャツを着た彼がこちらに気づく。
照れ臭そうに私を見る彼は、なかなか目を合わせてくれないのだ。
男性店員「いつもと全く雰囲気が違うからびっくりしました……綺麗だから慣れるまで時間を下さい」
もう、なに言ってるの……そんな上手いこと言っても何も出ないわよ………
恥ずかしくなって、そう言うのが精一杯だった。
私が綺麗?世の中に綺麗な女性なんていくらでも存在する。なのに私を綺麗だなんて………
顔が熱いのはこの初夏の日射しのせいだと自分に言い聞かせながら、その日を過ごさなければならなかった。
修は駅で現れた由希子を一目見て、あまりにも眩しくてまともに見られなかった。
いつも見る彼女は綺麗な人だとは思う。だけどいつもとは違う清楚な彼女は、可愛らしさすら漂わせている。服装そのものというより、由希子の持つ魅力がそう見せているのは一目瞭然だった。
由希子と観た映画の内容は全く入ってこない。
疲れているのかこちらの肩に頭を乗せて、早々に静かな寝息を立てていた。
あまりに顔が近くて落ち着かないのだ。
それに、薄手の白いキャミソールの胸元からは胸の谷間が露骨に見える。
ブラトップらしいと分かったのは、あともう少しで乳首が見えそうだったから。
由希子の柔らかそうな唇が、直ぐ横にあった。
何ならスカートの中に手を入れることだって出来る。
でも、健やかな寝顔の由希子にそんなことはできず、勃起をしながら耐えなければならなかった。
今日は連絡先を交換できるだろうか。
それだけをひたすら考えていた。
映画の後は2人で食事をすることが出来た。
照れも確かにあったが、映画館ではこともあろうか彼の肩に凭れかかって、終始寝てしまう失態を犯してしまった。彼は気にしていない風だが、あまりに会話がないのは呆れているに違いない。
もう嫌われた、そう思っていた。
失望の中、駅で別れるときだった。
彼から連絡先の交換を求められたのだ。理解が追いつくまでに数秒が必要だったくらい胸が高鳴った。
年甲斐もなく舞い上がっていたのだろう、彼が懸命に私の名前を呼んでいるのに耳に入らなかった
。
いきなり抱き寄せられて唇を重ねてきても、現実感が乏しくて思考が停止してしまった。
いい年齢なのに、何をしているんだか………。
我ながら自分に呆れてしまうが、どうしようもなかった。
帰宅すると現実に引き戻される。
明日は全国の支社から選抜された社員が会場に集まらなければならない、一年で最も嫌な日なのだ。
贅沢な造りの長机はウエストがギリギリまで収まるように半円に切り取られ、足が伸ばせるくらい奥行きがあったりする。
長丁場でもいられるようにある程度リクライニングが可能な椅子で、足が伸ばせるだけではなく横にだらしなく開いても分からないように、机の前は塞がれている造りだったりする。
要するに楽だから話を聴けと言うことなのだ。
おまけに左右は衝立があってプライベートも守られるのだから質が悪い。
明日が憂鬱だった。
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