~彼の秘密と私の秘密②~
大手総合電機メーカーの開発部に派遣されて丸3年が経とうとしている。派遣された当初はいろんな部署から歓迎会やら飲み会やらと誘われては参加していたが、そのうちによく顔を合わせるようになった5歳上の広報部の社員と交際することになった。交際を公にすると、途端に飲み会には声が掛からなくなったが、私が派遣元の会社に大手への派遣を希望していたのは、ある意味婚活の一端のようなものだったので、目的は果たせたのではないかと思う。ちょうど1年後ぐらいに結婚式をあげる予定で動いている所である。彼、山下陽介は広報部ではエース的存在らしいが、仕事の出来不出来はよくわからない。一人っ子の私を大切に育ててくれた田舎の両親を喜ばせてあげたかったので私は安定した結婚生活を望んでいたのだと思う。大学卒業から銀行に就職して人間関係で1年で辞めてしまった事は後悔はしてなかったが、離れて暮らしている両親にはそれ以降かなり心配をかけた気もするからだ。陽介は社交的で名前の通り陽気な人間であるが、神経質で自尊心が高い事もあって時々喧嘩になる。普段は優しいのだが、喧嘩になると暴力などはする人間ではないが、モラハラというか酷く口の悪い時がある。結婚の為だと思って、仲直りした後は、忘れているフリをしているが、言われた言葉は重く心に残って、ふと思い出したときに涙しそうになる事もあった。それでも陽介を好きだという気持ちはもちろんあったし、この人となら安定した結婚生活や将来の家庭像というのが想像しやすかったというのがプロポーズを受け入れた一番の理由である。しかしそんな私の平穏を揺さぶりはじめる事態が2ヵ月前に訪れた。私の派遣されてる部署に院卒の新入社員が配属されてきた。院卒なので歳は3つ下になる。背の高いイケメンではあるけどいわゆる草食的な素朴さを持っていて、屈託のない笑顔が天使のような子供っぽさを持っているのである。もちろんはじめは恋愛対象ではなかったのだけど、その赤城君の歓迎会で私は部署の課長にセクハラ気味に絡まれ、今にも泣きそうになっていたのに誰も助けてくれず困っていた所に凄く酔った赤城君が逆に課長に絡みだして粗相をしてくれたおかげで逃れる事ができたのだ。帰りの駅で心配になって声を掛けると、私を助けたいが為に必死に酔った演技をしただけなので大丈夫です、と笑顔で返してくれたのだけど、その笑顔に心を撃ち抜かれたような衝撃を受けてから赤城君の事が職場で凄く気になるようになっていった。残業時間になると人が減って話しやすくなるので、業務に支障をきたさない程度に赤城君に話しかけて彼の情報を入手しつつ心の距離を近づけるように意識していた。現在交際相手がいない事も本人から聞き出した。そうこう過ごしているうちに赤城君が残業中に消息不明になる時間があることに気付いた。どこで何をしてるのか気になって、もしかして同期とかに恋人のような女性がいて休憩がてら会ってるのではないかと行き過ぎた想像をしてみたりもしたが、考えれば考える程気になってきた私は、尾行して調べる決心したのが今朝の事であった。
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