「え?一体何のこと?」
ぐるぐる回る頭の中で精一杯平静を装ってリコは返事を返した。
「うふふ、ごまかしてもダメよ。リコさん顔が真っ赤」
「もういくね?私あのことを誰にも言うつもりはないから」
そう言い捨てて会議室を出ようとするリコの目の前に、マユミがスマホの画面をかざしてきた。
振り払おうとしたリコの目に、スマホの画面に映る写真が飛び込んで来た。
「あっ!」
その写真は盗撮でもしたように薄暗くピントが合っていなかったが、写っているのがトイレの個室を仕切り板の上から撮影したものであることはわかる。
そしてそこには、下半身をむき出しにしてがっくりと眠るような姿勢で便座に腰掛ける女の姿が写っていた。目をこらすと、自らの中指を自分の性器の中へと突き刺すような状態のまま、気を失っているように見える。
そこに写っているのは、紛れもなくリコであった。
「ああ…そんな…」
マユミが勝ち誇るような口調でたたみかける。
「誰にも話さないで欲しいのはどちらのほうかしら…」
「ふふ、リコさんもあそこでいやらしいこと楽しんでたんだ?」
「ちがっ…」
「私、オナニーして気を失ったことないけど…リコさんはスゴイのね」
「ちがっ…」
「リコさんも私たちもあそこでいやらしいことを楽しみあった同じ仲間なの」
「なかま?…ちがっ…ちがうっ」
「だから安心して?私たち、協力しあって誰にも知られないようにするの」
「き、協力?」
「リコさん、誰にも知られたくないでしょう?」
一枚の写真が二人の関係を大きく逆転させていた。
気を失っている間に…あんな破廉恥な痴態を…撮影されていたなんて…もちろん、部長にも知られているに違いない。あの高さで撮影したのは…ああ、きっと部長に違いない。
「うう…私…どうすれば…」
いつの間にかマユミに自分がどうすればこの状況から脱出出来るのか、すがるような目で聞いていた。
「ただ黙っていればいいの…私たちとリコさんだけの秘密のお楽しみなの」
秘密のお楽しみ?…その淫美な言葉の意味を計りかねていた時、会議室のドアが突然開いた。
「マユミ、どうだ?リコ君は承知してくれたかい?」
会議室に外回りしていたはずの部長がゆっくりと意味深な台詞を発しながら入って来るのを見て、リコは自分の置かれた状況を…救いようのない状況を感じ取るのがやっとだった。
つづく
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