〈タカシ、体を借せ〉
『は?昨日の今日で何言ってんだよ』
〈ん?怒っとるのか?〉
『怒ってるよ アンナにムチャクチャしただろ』
〈なんだ、一回抱いたぐらいで彼氏面か〉
『自分で抱いてないし彼氏だし』
〈ほう、付き合うことになったか わしらのおかげじゃな〉
『え?あの後のこと見てたんじゃないの?』
〈そんな無粋なことはせん おまえらに任せると言っただろ〉
『変なところでマジメだな・・・』
〈それより体だ、ナオミちゃんとデートする〉
『デート? 一応聞いてみるけど、ばあちゃんは誰の体を?』
〈サクラ アンナだ、ナオミちゃんに体を貸すことを快諾したらしいぞ 今頃は待ち合わせ場所に向かっとるだろうな〉
『なんで・・・ 俺らまだデートしたことないんだけど・・・』
〈そんなこと知らん 後で聞いてみろ〉
『うん・・・』
じいちゃんに体を貸して俺の体が向かった先はあまり知らない街だった
電車に乗っても通り過ぎていただけの駅、駅から出ると目に映ったのは見慣れない街並みで新鮮だった
「ノブヒロさん?」
後ろから声をかけてきたのはアンナだけど、ばあちゃんだということは直ぐに分かった
「ナオミちゃんか?」
「はい、そちらも上手くいったようですね」
「ああ、アンナちゃんが了解したと言ったら直ぐに体を譲ってくれおったわ」
「こちらもですよ タカシちゃんが了承したと伝えたら直ぐに」
『え?どういうこと?』
〈タカシよ、少しぐらい疑え〉
『おまえら・・・』
連絡先の交換をしているというのに確認しなかった俺たちにも非はあるあるが・・・
「ノブヒロさん、ありましたよ」
「おお、まだ残ってたのだな」
最初は不安だったけど二人が入ったのはレトロな喫茶店で、どうやら二人にとって思い出のデートコースらしい
「マスターも年をとったな」
「前に来たのは十年以上前ですもの 仕方ありませんよ」
「ナオミちゃん、あとであの店にも行こうか」
「ふふっ まだ在るといいですね」
昔の思い出を語り合う二人は幸せそうで、向かいに座るアンナは中身はばあちゃんだけど微笑んだときの緩んだ表情が凄く可愛い
高校の時も友達と話してるときとかの彼女は同じような顔をしていたのかもしれない、けれど俺は気にも留めなかった
俺のアンナに対する気持ちが変わったからなのか今は特別な笑顔に見える
昨日のラブホテルでは見せてもらえなかったアンナ自身の笑顔を次に二人きりになったときには俺に向けて欲しいと心から思った
「ノブヒロさん、ありましたよ」
「ほう、しぶといな」
『じいちゃん・・・どう見てもアダルトショップなんだけど・・・』
「あらまあ、お店の中は随分綺麗になりましたね」
「ナオミちゃん、これなんかどうじゃ」
「もお、ノブヒロさんったら それもいただきましょう」
『おい、俺の金だぞ ってかアンナに使う気じゃないだろうな・・・』
俺の目の前には部屋のパネルがずらりと並んでいる ここはラブホテルのロビー
『じいちゃん!今引き返さなかったら二度と体貸さないからな!』
「ナオミちゃん、好きな部屋を選んでいいぞ」
『聞け!』
「それでは・・・ここで」
「ほう、良さそうな部屋だな」
「そうでしょ」
『じいちゃん たのむ、言う事きいてくれ』
俺の訴えは無視されエレベーターに乗り込んだ
「おお、良い部屋だ ナオミちゃんはラブホテルの部屋を選ぶセンスが抜群じゃのう」
「ふふっ 変なお世辞ですね」
『そんな話どうでもいいから なあ、今日はもう帰ろうよ じいちゃん』
「ナオミちゃん、タカシがうるさくてかなわんのだが」
「あら、タカシちゃんも? アンナちゃんもですよ」
『なっ!これで2対2だろ 先ず話し合おうよ!』
「ナオミちゃん、タカシを説得してくれ」
『とりあえず体返せ!』
「タカシちゃん これはね、あなた達にとって大事な事なのよ」
『いや、意味わからねーし』
〈タカシ、黙ってナオミちゃんの話を聞け〉
「あなたのお父さんとお母さんは悪い見本よ、セックスに対する考え方が凝り固まっていて視野が狭くなっているの
お母さんを見ればわかるでしょ、長年ひとつのセックスしか知らずに過ごして新しいセックスを受け入れようとしないの
お父さんの方も同じでしょうね、だからセックスレスになるのよ
お互いセックスは無くても一緒にいるだけで幸せと思ってしまうの」
『いや、それはそれでいいんじゃない 二人が幸せなら』
「今のうちなのよ、若いうちにアンナちゃんの視野を広げて柔軟な考え方ができるような経験をさせないといけないの」
『いや、それは今じゃなくてもいいし俺とアンナで決めるから』
「さすがナオミちゃん、タカシは納得してくれたようじゃ」
『してねーよ!最後の無理やり感がハンパねーよ!聞いて損したよ!』
「それでは、用意してきますね」
『いや まって じいちゃん、ばあちゃんを止めて!』
〈タカシよ、心配するよりも楽しんだ方が人生得するぞ〉
こうなってしまっては二人は止まらない、それを経験したのは昨日の事だ
これが因果応報ってやつなんだろうな
アンナの事をすごく好きになっちゃったから分かる
母さんとセックスしまくってたから・・・ 親父、ごめん
〈今日のナオミちゃんを見て自分が間違っていたことに気づいたんじゃが・・・〉
『ん?急にどうした?』
〈わしはな、長年つきあった老いた体の癖が抜けとらんかったんじゃな〉
『なんの話?』
〈ついつい手加減してしもうてな〉
『ん?』
〈若いナオミちゃんを見て思い出して気付いたんじゃ〉
『あれはナオミちゃんじゃなくてアンナだから』
〈今日は力いっぱいナオミちゃんを抱くぞ!〉
『余計なことに気づくんじゃねーよ!それにあれはアンナの体だからな!』
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