俺は自分の気が沈むと同時に物理的に自分の顔も湯の中に沈めていた。そんな時に突然やってきたからまさに不意打ちだった。
この銭湯の男湯と女湯は隣同士で、おまけに天井近くの上の壁が半分なく、あちらの声が丸聞こえなのだ。ちなみに壁を登って覗き見るなんて真似はできない。
その声は俺の知っている声だった。
1人は塾の同級生で高校3年の杏咲さん、そしてもう一人は・・・かほさんだった。
「夜遅くもあって誰もいないみたいね」
「時間的にちょっとした貸し切り風呂? でも男湯には子供が一人って・・・」
俺の事だ。たぶん番台のお姉さんが伝えたのだろう。俺は息を潜めるように声を押し殺した。
「ひさしぶりに杏咲ちゃんと2人で入れたんだから、ゆっくり浸かろう」
「まあ、そうですね」
二人は可愛らしい声を女湯に響かせながら椅子に座り、シャワーと石鹸、シャンプーで身体を清め始めた。
椅子に座ったというのはあちらから聞こえた音によって俺が妄想したからだ。その妄想は俺の良からぬ考えを終わらせなかった。
杏咲さんとかほさん。どちらも肌が白く、俺達が通う塾きっての美人だ。2人は今、裸で・・・
今年、18歳になる杏咲さんの胸はかほさんの匹敵するほどではないが、将来有望の豊かな胸でもあった。
スポンジにつけた泡で身体を清める杏咲さん、黒く長い髪をシャンプーで清めるかほさん・・・
それが終わるとシャワーのお湯で泡を流し、終わった後は白い肌に無数の水滴が纏わりつくのか。
泡が落ちていく二人の胸に二つずつ存在する白い球体、お湯が流れる見事な曲線美を誇る二人の裸の背中、それに続く白い桃・・・
見た事もない二人の裸を想像して、俺はかつて男子達と男湯で聞いた女湯の女子達の発育の話で盛り上がった以上の興奮を覚えていた。
事を終えた二人はシャワーの首を元に戻すと湯舟に向かった。
杏咲さんか、かほさんか、2人のどちらかが湯船にちゃぷッと入っていった音がした。
「はあ~いい湯~」
身体を伸ばす杏咲さんの声。
「うーん、やっぱりここが一番落ち着くわねー」
身体も心もお湯に沈めたかほさんの声。
「同感です。1年ぶりにですよね、かほさんと一緒に入るの」
「ええ、去年は私も高校3年で忙しかったからね。今年は杏咲もそうなったんだから」
「そこは気を付けています。あっ、かほさん、ちょっと相談なんですが・・・」
杏咲さんはかほさんとここで何かしら話をする予定だったらしい。
「ああ、護くんのこと?幼馴染の関係から男女の仲になる段階の?」
「うう・・・はい・・その通りです」
恥ずかし気に返事をする杏咲さんの声。
「どこまで進んだの?」
いとも容易く男女間の話をするかほさんの迷いも躊躇もない声。
「その・・・お互いの、身体のすべてを見せて、そこから先には進めず・・・」
その答えに驚いた。真面目で清楚な優等生といった印象を持つ杏咲さんがそこまで行くほど心に決めた男がいるなんて。
「そうかあ。私の時とはずいぶん違っている上に時間がかかっているわね」
私の時。それを聞いた俺は殺気よりも驚いたうえに心と全身に期待とも不安ともわからない気持ちが駆け巡った。
「かほさんの時はどうだったんですか?」
杏咲さんが俺に聞きたい話を聞き出そうとしていた。
「・・・んー、それはね・・・・私もかなり恥ずかしかったよ」
長い間を開けたかほさんの答え。顔を赤くしながら告白しようとしているのか。
俺は目を閉じて女湯の二人の話を一言も聞き逃すまいと、耳を澄ませた。
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