番台で回数券を見せて済ませると俺は男湯の脱衣所に向かった。どうやら女湯を含めて今日のお客は俺一人だけらしい。
俺はかつて友人達と一緒に来たように籠の箱に脱いだ服を入れると浴場へと向かった。
誰もいない浴場。人の声も桶を置く度に反響する音も一切しない静寂だけの世界がそこに広がっていた。
白い椅子に腰かけて身体も髪も洗剤で清めると、俺は自宅の浴槽よりも大きい浴槽に浸かった。
「うーん・・・」
足も手も湯の中で伸ばす体制で俺は目を閉じた。
「はー・・」
大きく息も吐いた。そのまま目を閉じながら俺は宴会でのみんなの会話を思い出していた。
かほさんは魔蛇の封印を行うにあたり、仮面の戦士の力を手に入れていた。しかし、その力は西嶋家に伝わる力がそのままかほさんに譲渡されたというわけではなかった。
かほさんが19歳の誕生日を迎える数週間前、かほさんはどこともわからない森に迷い込んだ。
森と言っても山の中に入っていたわけではない。都会を歩いている中、突如として謎の森に通じる空間の裂け目を見つけたのだ。
その裂け目はファスナーのような形をしていた。得体の知れない森にも関わらず、かほさんは何かに導かれるように足を踏み入れた。
森を抜けるとかほさんはそこで巨大な樹を発見した。その樹は西嶋家の神社の御神木にも似ていたそうだ。
かほさんはふと気付いた。この樹が自分を導いた。かほさんはそう確信した。なぜそう思ったのか、かほさん自身もわからず、ずいぶん後になって戸惑ったそうだ。
とにかくかほさんはその樹に導かれた。それは間違いなかった。その樹に近づいたかほさんは樹に生っていた謎の果実をもぎ取った。
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