兄貴が言っていた事や親父たちが言っていた事は正直というか、全然覚えていない。頭にも耳にも全く入っていなかったのだろう。
ようやく俺が兄貴に渡さないと誓った相手が結婚という形で奪われる。こんな残酷なことがあるのか?
俺は何度も何度も泣いた。それからしばらくして俺は高校3年になった。
それからさらに数ヶ月後。季節は夏を迎えていた。
俺は狗道家と紺野家の両家が管理する神社ともお寺ともつかない建物に身を潜めていた。一応、お堂と言えばいいのか。
それなりに大きく、長方形の木の板でできた床がある部屋は広く、その部屋の床には巨大な八角形の魔法陣のような物が描かれている。
親父と祖父曰くこれは八角円と呼ばれる結界の一種らしい。周囲には様々な漢字が描かれ、中央の空白部分は最大で2人の人間が入れるようになっている。そんな結界があるということはこの部屋は何かしらの儀式を行う場なのだろう。
その部屋にはもうひとつあるものがあった。それは観音様らしき像だ。もう一度言うが、あくまでらしき像だ。なぜならその像の顔は一般的な観音様ではなく紫織さんの顔そのものだったからだ。
この観音様もどきは紺野家の初代を模して造られたご神体らしく、紫織さんと似ているのは当然だった。
この像があるお堂は紺野家の屋敷が近くにある山にあり、紺野家にはじめて立ち寄った俺はこのお堂にも通っていた。
お堂自体は狗道家と紺野家のみが入れる神聖な場所でもある。
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