それから数10年、オヌマの出現は多少なりと収まった。しかし、不平不満を持つ人間はどんなに法律を変えようと生まれた。人間の心は法では縛れないのだ。だからこそオヌマもいなくならない。
そもそもなぜ、犯罪者にオヌマの黒い蔦が巻き付くのか、消滅するとどこへ行くのか、それすらも解明されていなかった。
謎の部分はまだあった。オヌマ出現の前に存在したとされる発展途上や貧困の国の人間、軍資金を得てテロ活動を行っていた組織らは本当にある日突然消えただけなのか。ハルさんはこれに対して最後まで疑問に思っていた。
いかなる動機があろうとテロリストは世界の悪だが、そいつらが都合よくいなくなってくれたのか?とも推察していた。
・・と金曜の夜、俺は黒影トルーパーの成り立ちや強制的な法改正、ハルさんから聞いた疑問を思い出しながら銭湯の番台についていた。
まだ営業時間だが、オヌマ対策もあり、今日は先輩の貸し切りとして入浴中は営業時間終了の札を下げるつもりだった。
そして
ガララッ
引き戸を開ける音がして俺はその方向に振り向いた。そこには夜戸さんがいた。
「いらっしゃい、夜戸さん」
俺は番台として彼女に挨拶した。
「こんばんわ、一郎くん」
夜戸さんは丁寧にお辞儀までした。服装は制服で青いブレザーに蝶ネクタイ、ブラウスとスカート、黒いストッキングにローファーといったものだ。白い顔と薄い青紫色の瞳、背中まである艶やかな長い黒髪、そして大人の女性顔負けの豊満な肢体。
本当に美人だ。普通なら誰もがそう思うだろう。だが俺は3年前の出来事を知っているだけにどんなに彼女が美人でも恐怖を抱いてしまう。
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