その瞬間、俺の心はざわつき、いやな汗が流れた。高校の入学式は心臓に悪いもので終わった。
帰り道、俺はさっきの夜戸さんの笑顔と3年前の裸で絡み合う親父と夜戸さんの行為、夜戸さんの白い肢体を思い出していた。
自宅に戻るまでモヤモヤした気持ちは収まらなかった。それから1ヶ月が経過した。そんな時だった。
「一郎くん、ちょっといい?」
放課後、俺は夜戸さんに突然、声をかけられた。
再び俺の心臓がビクついた。
「あ・・・あー、夜戸さん・・お久しぶりです」
ぎこちなく俺はそう返した。
「本当に久しぶりだね。すっかり大きくなって私より背が高い」
夜戸さんは3年前より大人びたが、身長は俺の方が追い越していた。
「はは・・そちらはもっと美人さんになっちゃって。それで何の用ですか?」
俺はあまり動揺を見せないように質問した。
「今でも週に一度、銭湯の番台やってるの?」
これには別の意味で驚いた。16歳になった現在、俺は中2から親父と当番制で銭湯の番台を務めていた。といっても務める曜日は不規則だった。
「ええそうですけど」
「そう。なら今週の金曜は番台を務めてくれない?太一さんとも話はつけておくから」
「え・・いいですけど、どうして?」
「大事な話があるの。私とあなた、狗道家と夜戸家に関する事はもちろん、ひいては世界のための」
何だよそのスケール・・・銭湯でする話か。それに俺が番台を務めるってことは・・・
「とにかく私は客として来るから。でも・・・それはあくまで表向きだから・・・」
表向き? どこか意味深な表情で夜戸さんは最後に謎の念押しをした。
俺の銭湯に夜戸さんが来る・・・そんな話を聞いた俺は恐怖と、何かに期待している自分がいることに気付いた。
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