◯特殊な性癖
レールを踏みしめてガタゴトと規則正しく揺れる田舎の列車内に、人影は無く、私一人だけがポツンと座っている。
私は窓の外を眺めていた。
夕闇がゆっくりと、砂糖菓子を溶かすように北関東の平野を塗り潰していく。
見渡す限りの平坦な田んぼ。
季節は夏から秋へと移ろい、重そうに頭を垂れた稲穂は、風を受けて、海のように波打っている。
遠くに見える山嶺に夕日が沈むと、空は血のような赤から、吸い込まれるような深い群青へ変わる。
私は、相田香菜、十七歳。
電車通学をする田舎育ちの女子高生だ。
小柄な身体。黒髪をポニーテールに結い上げ、白いブラウスに、えんじ色のタイを結んだ私は、誰がどう見ても、真面目でおとなしい普通の女子高生だろう。
事実、私は、比較的厳しい両親の元で育ち、意図して『真面目な良い子』を演じているのだが、この清廉な外面の内側には、誰にも言えない毒のような渇きが渦巻いていた。
私は、誰も居ない事を確認すると、膝丈のフレアスカートの裾をそっと左右に分け、素早く両手を入れた。
「…っ、ん、」
ひんやりとした車内の空気が、露わになった内腿をなぞる。私は、薄ピンク色のまだ少女の残り香がするような垢抜けない綿のパンティを、指先で器用にずり下げた。
柔らかな感触が膝を通り足首に絡まる。私は、まだ温もりが残る『それ』を完全に脱ぎ捨てて、通学用のバッグの中へ、教科書やノートの隙間に押し込む。
股ぐらに直接触れる空気が、暴力的なまでの開放感をもたらした。布一枚を失っただけで、世界との境界線が曖昧になる。この薄暗い車内で、私は今、最も無防備な状態にある。
十七年という短い歳月の中で、私の感性はあまりに偏っている。純白のキャンバスに真っ黒な墨がぶちまけられたまま、拭い去ることもできずに固まっているのだ。
思い出すのは、まだ幼かったあの夜のことだ。
眠れない夜にふすまの隙間から覗き見た、父と母の姿。それは甘い愛の囁きなどではなく、普段は清楚で優しい母が見せる、女の情欲を隠さない、飢えた獣のような姿だった。
母は、乳房を丸出しにしたその身体に縄を食い込ませ、豚のように鼻を鳴らして、一心不乱に、そそり立った父の一物を口に咥えていた。
「ああっお願いします…おちんぽを私の…私のおまんこにください…欲しいの…」
母は涙ながらに訴え、空いた片手で自らの秘部を弄ぶ。汗ばんだ全身に赤く浮かび上がるミミズ腫れ。父の冷酷な瞳でそんな母を見据えている。
私は襖一枚を隔てた『見てはいけないもの』に震えながらも、その光景があまりにも甘美で目を離す事も出来ずに、乾いた砂が水を吸い込むように、私の一部として吸収してしまった。
あの瞬間から、私の性愛の回路は、普通とは違う色に焼き付いてしまったのだ。禁じられたもの、隠されるべきもの、剥き出しの肉体が生み出す、圧倒的な不条理と快楽。それが私の「普通」になり、私の「生」の震源地となった。
列車が減速を始める。寂れた無人駅だ。プラットホームには人影もなく、ただ古びた電灯が寂しげに明滅している。普段なら誰も乗ってこないはずのその場所で、ぷしゅう、と間の抜けた音を立ててドアが開いた。
「……あ、」
不意に、車内へ一人の青年が足を踏み入れてきた。
白いワイシャツに、グレーのスラックス。日に焼けた肌に、潔い坊主頭。肩にかけたバットケースと、紺色のエナメルバッグが、彼が野球部であることを物語っている。
彼は、若々しい汗の匂いと、土の香りが仄かに漂わせながら、ドア脇に座る私の横を通り過ぎ、私の真向かいの席を選んで腰を下ろす。
彼と私の視線が一瞬交錯するが、彼は、すぐに気まずそうに目を逸らした。見知らぬ同年代の女子を凝視する事を憚ったのだろう。
目の遣り場に困った彼は、スマートフォンを取り出して、わざとらしく画面を凝視し始めたが、指先が微かに震え、妙にそわそわしている様子から、彼が女に慣れていないのが見て取れた。
あどけなさを残す端正な顔と、鍛えられた分厚い胸板。ワイシャツの袖から伸びる腕には、逞しい筋肉と血管。
彼を眺めながら、私の心臓は鐘を突くように激しく脈打った。
誰もいない車内での一人遊び。それはただの自己満足に過ぎなかった。
けれど今、目の前には、何も知らない、汚れなき純潔な異性がいる。
歪んだ悪戯心が、子宮の奥をチリチリと焼き始めた。私の「マニアック」な血が、騒ぎ立てる。
「…………」
私は足を組み替えるフリをして、わざとらしく姿勢を崩すと、ゆっくりとした微細な動作で、フレアスカートの裾を上へと手繰り寄せた。
私の白い太腿が光の中に晒される。
スマホ越しに彼の視線が集中すると、私のEカップの双丘は汗ばみ、息苦しさを感じるほどに私の期待と興奮は膨れ上がっていた。
私はあえて彼を見詰めて、膝を大きく左右に開く。そして、私の太腿の奥―下着を身につけていない、最も秘められた暗がりを彼の目の前で披露した。
蕾んでいた花びらが既に綻び、そこから溢れた蜜が、車内の淡い光を反射して鈍く光っている。
ひゅ…っ!
彼の視線がスマホの画面から外れ、彼の呼吸が止まるのがわかった。
十秒にも満たない、けれど永遠のように感じられる沈黙。彼は弾かれたように顔を逸らし、窓の外の流れる景色を見つめた。耳たぶが、夕焼けよりもさらに深く、熟した林檎のように赤く染まっている。
その純情な拒絶、その動揺が、私をさらに狂わせた。私の身体は、彼の視線という無形の愛撫を受けて、じっとりと熱を帯びていく。
『ねえ…見て…』
声には出さない。
私は視線だけで彼を射抜き、スカートをさらに腰のあたりまで捲り上げると、利き手の二本の指を、湿り気を帯び始めた秘部へと滑り込ませ、柔らかい大陰唇を、左右にそっと押し広げた。
ぷっくりと熟れた果実のような、私の内側の粘膜が、車内の蛍光灯の下で艶かしく光る。それは、誰にも見せたことのない、私だけの秘密の花園だ。
「は、あ…っ、ん、」
興奮はもはや制御不能だった。もう一方の手が、自然と熱を帯びた陰核へと伸びる。
指先がコリコリとした硬い突起に触れるたび、脳髄に電気のような痺れが走る。私は彼に差し出すように、自らの肉体を弄び始めた。指を動かすたびに、ぐちゅり、という湿った音が、走行音にかき消されそうになりながらも、はっきりと私の耳に届く。
「っ…う、あ……」
彼はもう、目を逸らすことができなかった。
真っ赤な顔をして、口をぽかんと開けたまま、私の指の動きに釘付けになっている。彼の大きな手は膝の上で震え、ズボンの布越しに、彼自身の隠しきれない昂ぶりがはっきりと形を成しているのが見えた。彼の中の「男」が、私の醜態を見て目覚めていくのがわかる。
私は、彼に見せつけながら、指を深く沈め、そして引き抜く。
糸を引く愛液が、私の指先を、そして開かれた肉の裂け目を濡らしていく。それは、彼に対する招待状であり、宣戦布告でもあった。
彼の視線は、もはや恐怖や戸惑いではなく、剥き出しの渇望に変わっていた。物欲しげに、私の卑猥な蠢きを凝視するその瞳。その瞳に映る自分を見ることで、私の絶頂は一気に加速する。
「んんっ、いくっ…ああっ…」
私は大きく仰け反り、背中を座席に押し付けた。ポニーテールが乱れ、髪が顔にかかる。汗ばんだ全身の筋肉が硬直したあと、ふっと力が抜け、甘美な倦怠感が、潮が引くように身体を包み込んでいった。
列車が大きく揺れ、ブレーキの軋む音が響いた。
『次は◯◯、◯◯、終点です…』
私は彼の瞳をじっと見つめながら、指を引き抜き、濡れた指先を自らの舌でゆっくりと舐めとった。
愕然とした表情のまま動けない彼に、私は立ち上がり、えんじ色のタイを揺らして歩み寄ると、私は彼の大きな、練習でできた豆だらけの、硬くて逞しい手を取った。
その手は、驚くほど熱かった。
「一人じゃ、寂しいの…ついてきてくれる?」
彼は、拒むことを知らぬように、私の小さな手に引かれて席を立った。彼の足取りは覚束ないが、その瞳には強く淀んだ情欲が宿っている。
開いたドアの向こうには、夜の帳が完全に降りている。ひんやりとした夜風が、火照った私たちの肌を撫でる。
この夜が明ける頃、彼はもう、あの頃の純情な少年ではなくなっているだろう。そして私も、また新たな毒を身体に刻み込み、生きていくのだ。
無人駅のホームの隅で、二人の影はいつまでも重なっていた。それは、これから長く続く、濃密で、逃れられない肉の饗宴の幕開けだった。
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