同窓会の会場は、駅前の少し洒落たレストランだった。
懐かしい顔ぶれの中に、彼女はいた。
——変わっていない。
いや、正確には違う。
高校生だった頃よりも、ずっと柔らかく、ずっと艶やかで、そして左手の薬指には細い指輪が光っていた。
「久しぶり」
振り向いた彼女が、少しだけ目を見開く。その一瞬の間に、昔と同じ空気が流れた気がした。
「……ほんとに、久しぶりだね」
名前を呼ばれただけで、胸の奥がざわつく。
あの頃、言えなかった言葉。
触れられなかった距離。
周囲は騒がしく、笑い声が飛び交っているのに、彼女の声だけが妙に近く感じた。
「今、どうしてるの?」
「普通だよ。仕事して、家に帰って……」
一瞬だけ視線が泳ぐ。
「結婚、したんだよね」
俺が言うと、彼女は小さく頷いた。
「うん。三年目」
その言葉は現実だった。
けれど、その目の奥にある揺らぎは、昔と同じだった。
あの頃、放課後の教室で二人きりになったとき、何も起きなかった。
何も起こせなかった。
帰り際、店の外に出ると、夜風が思ったより冷たかった。
「少し、歩く?」
自然とそう言っていた。
駅へ向かう人の流れから外れ、川沿いの遊歩道を並んで歩く。
肩が触れそうで触れない距離。
「覚えてる? 文化祭のあと、ここで話したこと」
彼女が言う。
「覚えてるよ」
本当は、その日のことだけを何度も思い出していた。
言えなかった告白。
踏み出せなかった一歩。
「もし、あの時——」
彼女が言いかけて、言葉を止める。
街灯の下、彼女の横顔がやけに綺麗だった。
人妻という響きが、妙に現実味を持って胸を締めつける。
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