それでは、よろしくお願いします………
先方の担当者に頭を下げ、満面の笑みを春の風に乗せて真由美は取引先から外へと歩きだした。
グレーのワイドパンツスーツにクリーム色をしたボータイブラウスを身に着けて、見送る担当者にある種の印象を深く抱かせていた。
ワイドパンツがかえってウエストの細さを強調させ、柔らかい素材の生地が形の良いお尻を浮き出させている。
肩までの黒髪は前髪も含めて同じに揃えられているストレートヘアであり、額の中央からおでこを見せるヘアスタイルが真由美の清楚さを際立たせていた。
くりっとした印象深い目で微笑みを向けられると男なら、大抵の人は好印象を抱いてしまう。ややハスキーがかった声も魅力的に感じさせ、何より明るい真由美の人柄が男女問わず人を惹き付ける魅力があった。
無論、邪な想いを抱く男には性的な魅力を残すことにもなり、この担当者も歩き去っていく真由美のお尻に釘付けとなっていた。別れ際に真由美が踵を返して歩き出す際に、ショーツラインが浮き出ていることに気付いたのだ。
わりと面積が狭くお尻のほっぺを半分ほどしか覆っておらず、腰の横へと斜め上に切れ上がるそんなデザインが男心をそそらせた。
見たところ30代の後半から40代の半ばまではいってない、そのどこかだろうとぼんやりと検討をつけていた。中年の仲間入りをした年頃の女性が身に着ける下着にしては、少し過激に思える。
自分の女房なんてフルバックのおばさんパンツしか履かなくなったことを思えば、歩き去っていくあの女性と、ベッドを共にするどこの誰だか知らない男性が妬ましく思えた。
あぁ……堪らないな……。
遠くなっていく真由美の後ろ姿を、担当者の男は諦めの境地で見詰めるしかなかった。
夕方になれば肌寒くなるけれど、腕時計を確認するとまだ早い午後3時過ぎ。そういえば……と、この近くに川の土手が桜並木になっている場所があったはずだと、そう思いだした。春の足音が風に乗って昼間は暖かさを肌に感じさせてくれる。
真由美は少し寄り道をしていこうと、足をそちらに向けて15分ほどの道のりの歩みを続けた。
不意に住宅と町工場が混在するとおりの前方に、柵が立ち並ぶ小高い土手が見えてきた。護岸工事が進んだ川が多い中、ここは自然を感じさせてくれる貴重な場所かもしれない。
近づく前に分かってしまったけれど、桜は残念ながら蕾が付いた状態でまだ眠りの中にあった。それはそうだ、住宅の敷地から枝を伸ばす梅が今、綺麗な花を咲かせているということは、早咲きの桜ではないか決まり開花をしているはずがないのだ。
以前にここの桜を見た印象を思い出しても、恐らくは日本に1番多いソメイヨシノだったのではないかと思った。まぁ川のせせらぎを聞きながら帰るだけでも心が癒やされると、真由美は土手沿いを駅に向かって歩を進めることにした。
程なくして子供の鳴き声が聞こえてきた。真由美の目は前方で幼稚園児くらいの小さな女の子が、桜を見上げて泣いている姿を捉た。歩きながら近づくと合点がいった。桜の枝に風船が引っかかっていたのだ。
真由美は女の子に声をかけて宥め、柵から身を乗り出して腕を伸ばしたが、あと少しというところで手が届かない。何度か試しても届かず、どうしたものかと思い悩む。こんな小さな女の子に諦めるようにいい聞かさなければならないのか……。
そんな酷なことはしたくない。誰か手を貸してくれる人はいないかと辺りを窺ったが、老人がひとり通り好きだだけだった。真由美は諦めきれなくて、それでも腕を何度も伸ばすことをやめようとはしなかった。
あっ…風船の紐に指が触れた……と思ったとき、身を乗り出しすぎて柵の向こう側へとバランスを崩したことを、一瞬のうちに悟った。死にはしないだろうが水がまだ冷たい季節、濡れ鼠になった姿で会社にどうやって帰るのか。この女の子はびっくりしてトラウマにならないだろうか。川に転落した自分を巡って、大騒ぎにならないだろうか。
真由美の頭の中に様々な懸念が浮かび、絶望的な気持ちになりながら、柵の上で頭が逆さになり、上下が逆になった視界の景色を目にしていた。
……が、不意に誰かに身体を抱えられ、転落をま逃れたことを知る。浮いた足を地に降ろされ、助けてくれた相手に礼を言おうとしたその相手は、まだ高校生のようだった。
本人は身を投げだそうとした人を必死に助けたつもりだったらしく、真由美は訳を説明すると彼はやっと納得して安心したようだった。
今どきの高校生らしくブレザーに、首から下げたネクタイをわざとだらしなく緩めている。髪の毛も茶髪だし、一見してチャラい印象だけれど彼の正義感には感動させられた。
真由美は協力してくれないかと彼に頼み、体重のありそうな貴方より自分のほうが適任だと説明すると、彼も状況を見て納得してくれた。
なんて素直な良い子、見た目ばかりで自己保身に余念がない大人ばかりを見てきたが、世の中捨てたもんじゃないと、笑顔でもう一度身体を支えてくれないかと彼に頼んだ。
言われた通りに咲くから身を乗り出した真由美を彼は抱き抱え、風船の紐を手繰り寄せ用と腕を動かす真由美を、彼は必死に支えた。
身体を伸ばしては下げ、腕を伸ばしてはまた下げる。その動きが彼にある変化をもたらすことになると、真由美は考えもしなかった。
紐に指が掛かり、枝に挟まれた風船を割らないよう慎重に揺らし、少しづつ手前に引っ張っる。
そんな真由美は、ある違和感を覚えていた。
異性としてはまったく意識をしていなかったが、彼もやっぱり男なのだ。腰を抱き抱えられて自分のお尻に密着した彼の股間が、主張を開始ししたのだ。お尻の溝に挟まるようにして硬くなったそれは、男としては十分なサイズを誇っている。
彼も戸惑っているはずで、早く済ませたいけれど風船を割るわけにはいかない。慎重に、ゆっくりと手繰り寄せていく。
もう少しだから、我慢して………。
内心で彼に侘びながら、真由美は風船が割れないことを願っていた。
柄でもないのに女の人を助けようと、気が付いたら身体が勝手に動いていた。
訳を聞いて拍子抜けをしたが、協力を断る理由もなかったから承諾することにした。
泣いている女の子に風船を渡してやりたいし、なによりもちょっといい女だったのだ。うちの学校の音楽教師だったらいいのになぁと、誰でも思う清楚な笑顔を見せられたら、そりゃ協力する気にもなる。
そんな気はなかったのに、だらしなく垂れた尻をしているうちの学校のババアとは違って、色気のある形をしてるじゃないか……。
無駄にデカイわけでもなくきゅっと上がった形をしているのに、何だこの柔らかさは。腕を伸ばすときに力が入るのかお尻がきゅっと硬くなって、また緩んで、また硬くなって……。これじゃ誰だってこうなるだろ、オレのせいじゃないからな……。
それにしても温かくて、柔らかい……。
いい匂いもするし、変な気分になってきた……。
そんなもの想いの精神世界に気持ちを漂わせる彼のペニスは、今や完全に勃起を果たしていた。
無事に風船を女の子に手渡すと、嬉しそうに走り去っていく姿を見て心底ホッとした。
問題は、彼だった。
照れ臭そうに気まずさを顔に浮かべ、ボケっトに手を突っ込んでいる。収まらないペニスの勃起を誤魔化すには、それしかないのだろう。
どうにか話を彼に振ってみても、大人の対応を見せるには彼は若過ぎるのだろう。ぶっきらぼうに答えるだけで、おまけに駅まで行くという目的まで同じとあって、これ以上なくバツが悪い。
ねぇ、お腹が空かない………?
いやっ……べつに……
素直になれない彼に、苦笑いしか出ない。
でも助けてくれた彼にどうしても何かお礼をしたいのに、食事を断られてしまうとほかにいい案が浮かばなくて困ってしまった。
そんな真由美たちの前に、立派な桜の木がある小さな公園が現れた。人のいない時間帯の公園には人の姿はなく、開花にはまだ早い桜の木と相まって閑散としている。
そんな公園にも行政は公衆トイレを設置したらしく、申し訳なさそうに鎮座しているのを真由美は見つけてしまった。あまり清潔そうには見えないけれど………。
あることを決意した真由美が、彼にもう一度だけ声をかける。
ちょっとだけ、寄っていかない……?
怪訝な顔をする彼は例によって無愛想に拒否をしたけれど、真由美が笑顔で頼むとさすがに彼も断れなかったようだ。
自販機で飲み物を手にするでもないし、手持ちぶたさで会話の間が持つだろうか。彼の懸念は目下のところ、そのことだけが気になるのだった。
彼の目は設置されているベンチに向けられ、お礼を言われながら気恥ずかしい思いをするのだろうと、想像を巡らしていた。
真由美はというとベンチに向けられた視線を横にずらし、公衆トイレに向けられていた。
このあとのことを想像して、身体の芯に炎が灯るのを感じていた……。
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