翌日の土曜日、直哉は何年かぶりに正面玄関から出社した。
受付には、若い女の子がひとり、愛梨の姿は無かった。
「君、今日は愛梨さんは休み?」
「どちら様ですか?彼女ならまだ来てませんけど。」
無愛想に答える。
下の名前で訊いたので、ナンパ野郎と思われたようだ。
しかし、昨日は互いに下の名前しか言わなかったから、直哉は愛梨の苗字は知らなかったのだから仕方ない。
そこへ、愛梨が駆け足でやって来た。
「ごめんなさい、佐藤さん。寝坊しちゃって」
「金森さん、ちょっとモテるからって、仕事はちゃんとして頂かないと困ります。」
佐藤栞、どうやら我社のマドンナ的存在だったらしいが、愛梨が入社した途端その座を奪われ、外面だけの性格ブスだったのが露見して、人気が急降下したらしい。
「ほら、また金森さん目当ての男が来てるわよ!」
顎で直哉の方を指す。
「えっ?」
愛梨が、顔を上げてこちらを見る。
「あっ!直……前原専務、申し訳ございません寝坊してしまいました。」
直哉の姿に、慌てて深々と頭を下げて謝る。
「えっ?専務!?た、大変失礼しました!」
栞が立ち上がり、直哉に向かって同じく頭を下げる。
「金森さんって言うんだ?昨日は名前しか聞いて無くて、佐藤さん、だっけ、なんか誤解させたみたいで」
栞は、バツが悪そうに、下を向いたまま目を合わせようとしない。
「愛梨さん、いや、金森さん、今日仕事が終わったら時間貰えないでしょうか?都合が悪ければ、また今度でもいいんだけれど」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、7時にここで待っててもらえますか?僕の名前で予約入れておくから」
直哉が店の名刺を取り出し、愛梨に渡した。
「あの専務、金森さんとそう言う仲なんですか?」
栞が、興味津々で訊いてくる。
「あ、普通の小料理屋だから、2人きりの個室とかじゃないから安心して下さい」
愛梨に向かって言うと、
「違う違う、そんな疚しい関係じゃないから、ちょっと彼女に頼みたい事があってね」
栞の勘ぐりも否定した。
「ちょっと、専務とどんな関係なのよ!」
直哉が立ち去った後、早速栞が2人の関係を問い詰めてきた。
「どんなも何も無いわ。昨日ちょっと映画館で席を変って貰っただけよ」
「えっ、2人きりで映画を観に行ったの?」
栞の追求は止まらなかった。
「違うわよ、偶然、偶然隣の席だっただけよ」
直哉と反対側の男に痴漢されて、席を変って貰い、お礼に一緒に食事をしただけだと話した。
「私も最初、専務だなんて知らなくて、この会社の受付してるって話したら、嫌な顔されたもの」
直哉に警戒された事、その後誤解が解けた事を話した。
「でも、お友達位にはして貰えたのかも」
「えっ、それって………」
「本当にお友達よ、だって私娘がいる事も、未婚のシングルマザーなのも言っちゃってるし、それに専務の周りに寄って来る女達って、そんな人ばかりだったみたいで、女性が苦手みたいよ」
「えっ、じゃあ専務ってゲイだったりして」
「まさか」
直哉をネタに、愛梨をからかう栞だった。
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