聞いていた話とあまりにも違う、ルール違反だと怒りの形相で抗議する佑月の話を美紀は黙って聞いていた。
いきなり心の準備もなくセックスに発展したのだから、当然のことだった。その佑月を黙らせたのは分厚い封筒の中身よりも、生徒たちが描き上げた作品の数々である。
あまりにも妖艶で美しく、前後不覚にならざるを得なかった快感に酔いしれる自分の表情に、佑月は思わず顔を背けた。けれど残像として脳裏に残った自分の姿は自分とは思えないほど洗練され、卑猥というよりも映画のワンシーンを切り取った瞬間のように、美しかったのだ。
もう一度その作品に目をやり、生徒たち一人ひとりの視点で描かれたデッサン画に魅せられて目を離せなくなっていた。
どうお………?
これが芸術、貴女よ………?
決して演技じゃ出せない姿だし、エロチズムの中に芸術は確かに存在するの、分かる………?
悔しいけれど美紀の少ない言葉は説得力があり、佑月を黙らせた。世の中には娯楽ではあるけれど映画というものがあり、アダルト作品未満の作品が存在する。お国柄が色濃く反映された作品は、性というものに寛大な文化が芸術に昇華させようとする作品も存在する。
セックスシーンのある作品は数多くあるけれど、その中には実際に挿入までして本当にセックスをしてさしまっているそんな作品が存在し、物議を醸し出す声が上がっている。
俳優たちは所謂ポルノ俳優ではなく、世の中に広く知られた映画に出演してきた俳優たち。女優の方は濡れ場を演じた相手側の俳優に対して、こう語っている。
緊張する自分の練習につき合ってくれて、本番でもリードしてくれて上手く演じる事ができたと、感謝の言葉を残している。練習というのはもちろんセックスのことで、オーラルセックスを上手に見せられるように男優に教えられたのだ。
本番撮影では実際にフェラチオをして見せて射精にまで導き、クンニリングスを実際に彼女は受けた。何より騎乗位をするシーンではペニスを実際に膣の中に受け入れ、挿入されたペニスが出入りするシーンが、海外ではノーカットで上映されている。男性器も露骨に見えれば女性器も露骨に分かり、恥毛も小陰唇が開いた様子も丸分かりなのだ。
彼女はあのシーンで演じたセックスは、本当に気持ちが良かったと実際に吐露をしている。
このデッサン画は一般に晒されることは無いらしいが、演技では実際に出せない一面を描き出し、美紀のいう芸術を具現化した結果だと認めざるを得なかった。
どうする………?
そう美紀に聞かれたけれど、その場で返事をすることを佑月は保留させてもらった。頭では理解していても心が追いつかず、気持ちが揺らぐ………。
次のデッサンは3日後、それまでに決めなければならなかった。
職場ではどんな顔をすればいいのか、佑月の懸念は杞憂に終わり、いつもと変わらぬ日常が過ぎていく。人には決して言えぬあんな淫らな行為をした自分が机の上でペンを走らせ、金縁の眼鏡を指で押し上げながらパソコンの画面を今日も睨む。
部下からの報告を耳にして指示を返し、時間が過ぎていく。地味な中間管理職の指揮官は揺れ動く気持を抱えながら職務をこなし、部下たちの顔を窺い見る。
こんな上司を、どう思っているのだろうか………。
そして気付けば前日の夜になっており、否が応でも答えを出すことに迫られていた。
佑月の気持ちは、決まっていた。美紀に毅然と断わりの言葉を告げてその場を後にする、考えてみれば簡単なことではないか。建物の扉の前に立って、1つ深呼吸をしてから控室に向かった。
ドアを開けると拓也に笑顔で出迎えられ、佑月は思わず目を逸らす。あんなに自分を狂わせたというのに屈託のない人懐っこい笑顔を見せられたら、惹き込まれそうになる。美紀は向こうにいると教えられたので、あの現場となった場所へと歩を進める。
そこにはまるで机と椅子がセットされ、調度品を含めてそこだけが、まるで職場と瓜二つにされているではないか。唖然とする佑月に美紀が声を掛けてくる。
どうお?……そっくりでしょう……?
自分の机の前に座って、後は彼に任せていればそれでいいわ……。
どういうつもりなのか、どうして職場の配置をこんなにも詳しく知っているのか………。
仕事をしていても、思い出して仕方がなかったでしょ……?
当然よ、あんな事を味あわされたら誰だってそうなるわ……。
羞恥心、背徳感、色情……そういうものを抱いた末じゃないと訪れない女の幸福だもの。
けれど人間の根源的な部分を出してもらわないと私の求める芸術は成立しないし、男女の美しさは現れないのよ……。
ここではセックスは芸術そのものなの、卑猥なだけのアダルト作品と一緒にして欲しくないわ……。
セックスは芸術なの、だから気に病むなんてそれはナンセンスよ、そんな気持ちは捨てなさい……。
気がつけば生徒たちが次々と集結し、横には拓也が立っていた。美紀が拓也に1つうなづいて見せると生徒たちの後ろまで下がり、拓也に促されて自分の机とそっくり同じ席に座っていた。頭の中を整理してきたはずなのに用意されたパソコンを開き、画面を眺めるふりをする。
何も考えられず、異常に喉の乾きを覚えて仕方がない。椅子に座る自分の机の下に拓也が潜り込むのを無視して、何が始まるのかを考えないようにしていた。僅かな嫌悪感、羞恥心、そして期待。
スカートの中に差し込まれた両手にショーツごとパンティストッキングが引き下げられ、両足からそれぞれ丁寧に引き抜かれる。
椅子の座面から手前に腰を引き寄せられ、膝が開かようとするのに抵抗する。でも膝小僧にキスをされて思わず力が抜けた隙に大きく開かれ、両手でお尻を抱えるようにして顔が埋められてしまった。佑月は仕事帰りに断るつもりで直接来たものだから、シャワーすら浴びていないことを今更ながらに思い出す。慌てて膝を閉じようにも時既に遅く、鼻と口が押し付けられていることに絶望しなければまならなかった。
ちょっと待って、汚いのに……。
嫌やめて、そんな所を舐めないで……。
お願いだから止めて、お願いだから…………。
意味のない言葉を並べ立てたパソコンの画面に並ぶ文字が、歪んでいく。指先が震えてまともに打てず、口の中に唾液が溢れてきた。気が付くと左手が机の下の拓也の頭に置かれ、堪らない快感が湧き上がる度に息を飲む。
彼の舌使いはとても執拗で、佑月はもう虜になっていた。
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