翌週からミユキが進学塾に通うことになった。
今の成績では大学もおぼつかない。
ナギサと同じ大学は到底無理だが近くの大学には何とか合格したい。
部活のあるナギサとは当分は一緒に帰れなくなってしまう。
休みの日にしても逢うことが制限されてしまう。
ミユキは落ち込み寂しがったが、出来るだけ逢えるようにしようなと言うナギサの言葉に慰められ、何とか元気を取り戻していた。
しかしナギサにしても高校生として最後の大会がある、それに勉強だっておろそかには出来ない。
稽古に明け暮れる日々が続いた。
学校があるうちはまだ良かったが、夏休みに入り逢えない日が続くと二人は次第にすれ違うようになっていった。
取り合っていた連絡も途切れがちになってきた。
ミユキは勉強に追われているようだった。
夏期講習もビッシリ予定が入っていて、寝る間もないぐらいに勉強していると疲れきった様子で話していた。
ナギサは気を遣い連絡を控えめにすることにした。
頑張っているミユキのジャマをしてはいけないと逢いたい気持ちを押し殺し稽古に励んだ。
そして地区大会に挑んだ。
団体戦は準決で惜しくも負けたが個人戦は優勝し県大会へと駒を進めた。
ミユキからは祝福のメールが届いた。
県大会も準決まで危なげなく勝ち進んでいた。
優勝したら夢にまで見た全国だ。
ミユキは一度も会場には来てくれないが励ましのメールはきていた。
きっと忙しいのだろうが、やはり寂しい気持ちはあった。
けれど会場にはいなくても応援してくれている。
気を取り直して準決に挑む。
会場を見渡すと応援席の端にミユキがいた。
キャップを被って、ナギサに向かって手を振っている。
来てくれたんだ、、、
力が湧いてきた。
二本連続で取り決勝へと進んだ。
残念なことにミユキと話す時間はない。
けれど勝って悦びを分かち合いたいと思った。
顧問の先生と部員達に励まされ試合に挑んだ。
相手は強敵だ、勝機は薄い。
それでも勝つ、正々堂々と。
試合は熱戦になった。
中盤にスキを突かれ一本取られたが終了間際に一本を取り返し延長戦へ。
声は聞こえないがミユキは立ち上がり必死に応援してくれている。
くそっ、勝ちたいな、、、
自分のためよりミユキのために、、、
しかし決着はつかず旗判定。
1対2、、、負けた、、、
悔しいが涙は湧いてこない。
相手の方が強かった。
悔し涙を流してもその差は埋まらない。
部員達が口々に慰めてくれる、、、
力不足でした、、、そう応えることしか出来ない。
わざわざ応援に来てくれた京奈が黙って涙を浮かべている。
女子部員達には泣いている者もいた。
みんなの期待に応えたかった、、、胸が締め付けられる、、、
表彰式が終わり、ミユキが近ずいてくる。
やっと逢える、、、
でも、、、せっかく来てくれたのに優勝出来なかった、、、
ミユキを見つめる、、、
えっ、、、
ミユキじゃない、、、
「ミオリ、、さん、、、」
「ナギサ君、、、残念だったね、、、わたし、凄く悔しい、、、」
キャップを被っていたから分からなかった、、、
二人は似ているから、、、
「どうして?」
「ごめんなさいね、、、ミユキは模試で来れなかったの、、、それでわたしが代わりに来たの、、、」
「そうですか、、、」
模試だったら仕方がない、、、でも、、、
「そんなにガッカリしないで、、、ミユキは本当に来たがっていたのよ、、、でも勉強を懸命に頑張ってるの、、、いつもナギサ君に逢いたがってるわ、、、」
「俺も、、、逢いたいです、、、」
「フフッ、、、それを聞いたら、きっとあの子も悦ぶわよ、、、わたし、妬けちゃうわ、、、」
「あっ、、、すいません、、、わざわざ応援に来てくれたのに、、、負けてしまって、、、」
「ううん、、、勝手に来ただけだから、、、でもこうしてナギサ君を応援出来て良かった、、、昔を思い出しちゃった、、、ありがとうナギサ君、、、」
「こちらこそ、、、本当にわざわざありがとうございます、、、」
ミユキにそっくりなのに、、、もっと、、、キレイに見えた、、、ミユキより、、、ずっと儚げで、、、
抱き締めたいと思った、、、
するとミオリが耳元に口を寄せ声をひそめて囁いてきた。
「ナギサ君が一番カッコよかったよ、、、わたし、惚れ直しちゃった、、、」
「えっ、、、」
ミオリは何事も無かったようにしてすぐに離れた。
けれどミオリは熱い瞳でジッと見つめてくる、、、
あの日のように、、、
「わたし、これで帰るね、、、いつでもまた家に来てちょうだい、、、待ってるから、、、」
ミオリは行ってしまった。
惚れ直したって、、、まさか、、、
慰めてくれただけ、、、それだけだ、、、
けれどもミユキのことよりもミオリのことばかり頭に浮かんでしまう、、、
どうしてなのか自分でも分からない、、、
会場の誰よりも美しかった、、、
それに、、、
まるで俺に見せつけるような胸の谷間、、、
いやいや違う、、、
ナギサは頭に浮かぶミオリの姿を振り払った。
つづく
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