色褪せた合皮のシート、カビ臭い淀んだ空気、所々に染みの跡の残る年季も感じるコンクリートそのままの床……。正直にいうと良くも悪くもそんなイメージを抱いていた。それがどうしたことだろうか、薄暗い中でも意外と今時の映画館とそう変わらなず、麻里と交わったあの映画館のほうがむしろ遥かに古臭いくらいである。
真新しいとは言えないまでも内装のリフォームを近年にされたことは、明らかだった。繁華街とはいっても地方の温泉街と隣り合わせの場所であり、昭和の雰囲気を漂わせる大人の映画館である。拓也でも○活ポルノだとかピンク映画くらいの知識はあるから、てっきり古き良きフィルム映像が流されているとばかり思っていた。けれどもスクリーンに流される映像はいかにも平成の時代のもので、いかにもAVだろうと思われる映像なのだった。
けれどそこはピンク映画館らしく、さっきから目にする映像はドラマ仕立てを採用してるらしい。
AV会社もそれこそ何社も存在し、特色を出してどんなジャンルが得意なのかで生き残りをかける。企画やセックスそのものに焦点を当てる作品は数知れず、申しわけ程度のドラマシーンをつなげるものも少なくない。けれどあくまでもドラマの中の流れで男女が絡み合う、そんな人間臭さを表に出す作品ならば、この類の成人映画館にはぴったりなのだろう。
髪の毛が淋しくなった初老の男性、いかにも仕事をリタイアした感じの男性………。どう見ても近所のパチンコ屋に出かけていくような普段着姿から地元の、それも恐らく本当に近所の人たちなのだろう。そんな人たちの姿に混じって小洒落た格好をする中高年の姿が、かなりいるではないか。
彼らはどう見ても旅行客で、息抜きにふらっと足を向けたに違いない。
内装は作り変えられてはいるけれど外観の古さから昭和の時代から営業されているらしく、全盛期の盛り上がりを彷彿させる館内はそれなりに広く、人の収容数を考えばそれでも三分の一ほどだろうか。座席から見える人の頭は最前列付近と中程に集中し、みんな間隔を開けて座っている。
拓也と麻里は最後部から2列前の席に身を落ち着かせた。
手を握りながら物語の行方を、鑑賞する。近年の作品とはいえ昭和の設定らしく、麻里と同年代の女性が乗り込んだ電車で痴漢に遭遇する場面になった。今なら被害者が相手の手首を掴んで血祭りに上げる時代だけれど、昭和らしく女の恥を周りに知られたくない、そんな時代だった。
我慢するしかない女性のお尻を撫で回しながらもスカートを捲り上げ、下着の中に入れた手で弄る痴漢男。唇を引き結んで眉間に皺を刻む女性からは不快感と嫌悪感が見られな、やがて女の顔へと変化を遂げていく。スカートの中がズームアップされると、電車の騒音をバックにくちゅくちゅとした卑猥な音が生々しく鳴り響く。
恍惚とした女性が周辺を気にしながら俯き、警戒を怠らないために目を開けたまま声無き声を上げて、熱い吐息を吐き出す。
カタンッ……カタンカタンッ……………
男が繰り返し手首を返す動きから指を挿入させていることが見て取れ、女性がまた熱い息を吐く。
するするとお尻の下まで下着が下げられ、再び指が挿入するシーンが映し出される。男によって手が動きやすく脚を開かれた女性の恥部が、現代の技術で極薄のボカシに留められ、その全貌がとてもリアルに提供される。
女性のヒダヒダの形までよく見えて、指の出し入れによって愛液に濡れる恥部の光沢までが生々しい。そういえば麻里と繋いだ手が、汗ばんでいることに気付く。彼女が興奮を覚えたときのように指を動かし始め、堪らなさそうにスクリーンを見詰めている。そっと手を解いて麻里のスカートの中に入れた手を、指を伸ばしてそこに触れる。
すでに湿った下着に触れた指先が敏感なところを弄り、麻里が内腿を閉じようと力が入る。
映画の内容にAV特有の派手さはなく、リアルさを求めて作られたのか、とことん地道な痴漢の指使いが続けられていく。粘着質な痴漢男は抜いた指をクリトリスに移動させると、女性が我慢できるぎりぎりまで捏ねくり回し、思い出したように抜き差しを再開させる。じっくりと執拗に女性を翻弄させ、くちゅっ…くちゅっ……っと音を出す。
隣に座る麻里も拓也の膝に片脚を乗せられ、彼の指が抜き差しする動きに呼吸を粗くさせている。
スクリーンの中では女性の手首を掴んだ男が人目を盗んでトイレに連れ込み、個室の中で少し乱暴に下着を引き下ろす場面だった。新たな展開を迎えたところで、麻里が動き出す。
拓也のパンツのチャックを下げると慣れた手つきでペニスを取り出し、スクリーンの中の女性のように頭を振り出した。もっとも作品の中の女性は男に、無理やり咥えさせられていたのだけれど。
咳き込みながらペニスを吐き出した女性は壁に手をついて立たされ、後ろに頭を跳ね上げた。
手で口を抑えた女性が悶絶しながらその身を揺らし、そう時間が経たずに甘い表情を浮かべ始める。麻里が炎を灯した瞳で拓也を見詰めると腰を前にずらし、その上に麻里が腰を下ろす………。
スビーカーからは女性の卑猥な息遣いが鳴り響き、唾液を飲み下しながら…はぁはぁ……と喘ぐそんな音声が観客たちの耳をくすぐる。
拓也の首に両手を回し、目を閉じた麻里がロディオマシンのように腰を躍動させる。生温かい膣壁がペニスに絡みつき、子宮口にコリコリと接触する。夢中になる麻里は気付いていないようだけれど、拓也はだいぶ前から異様な雰囲気に気が付いていた。
先程までは誰も座っていなかった座席に人の姿が認められ、次第に自分たちの周りに人が集まってきている。そう、自分たちの座る列にも距離を縮めて近づく者がいることも、いつの間にか斜め前に人が座っていることも……。
両サイドに2つ座席を開けて移動してきた男たちが、麻里を凝視している。艶かしく動く腰のうねりを眺め、斜め前の男もこちらを振り返り見詰めてくる。そして麻里から見て正面、拓也の背後にも人の気配を感じる。拓也は麻里のお尻を触るふりをしてスカートを持ち上げ、淫らな白いお尻を見せつける。
最低限のルールがあるらしい彼らは決して触れるような真似はせず、ただ間近まで寄って身体を屈め、近づけた顔を麻里のお尻の下の結合部を舌舐めずりをしながら見詰めている。
さすがに麻里も正面の男に気付き、身体を強張らせる。けれど危険がないと分かると、再び腰の動きを再開させる。あの日に味わった拓也との交わりの記憶が麻里の背中を押し、夜中の浴場でのあの交わりも新たな興奮の材料となる。
麻里の打ち下ろす腰の乾いた音が男たちの鼓膜に届き、スクリーンの映像の色が麻里の白いお尻を鮮やかに彩る。半分ほど見え隠れする陰茎が生々しく、男たちに新たな興奮を呼び起こす。
映像は佳境を迎え限界が近づく女性が、男に打ち込まれるペニスに膝が折れそうになっている。
麻里もその仕草、表情から限界を迎えそうなことは明らかだった。息を吸うタイミング、吐き出すタイミングがまちまちになり、膣壁が収縮を繰り返す。ヒクヒクとした動きが顕著になり、身体が硬直を始めると麻里が息を止める。そして……。
拓也に体重を預けていた麻里がゆっくり立ち上がると、白い精液が糸を伸ばして流れ落ちていく。
持っていたバンダナでそれを受け止めると、麻里の恥部をそっと拭い取る。
その場から2人が離れるのを見送るように見詰める男たちの中に、麻里のプレゼントを手にした者がいる。
やはり我慢できなくなった誰かがいて、駄目だと制止した男がいたのを麻里は知っていたのだ。
拓也にも他の男たちにも知られないように、麻里はその男にそっとショーツを渡したのだ。
ブルゾンのポケットの中で握られた麻里の下着は一部分が濡れていて、しれ〜っとトイレの個室の中で広げてみた。
男が手にした股丈が浅く白いショーツは、芳醇な女の匂いがプンプンしていた。
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