普段その駅を見ることはあっても使うのは初めてのことで、車を使う生活の拓也には新鮮だった。
巨大なターミナル駅の中を進み待ち合わせ場所に着くと、一組の夫婦らしき男女が柱の反対側で、彼らも誰かを待っている風に見えた。
夫婦らしきと思ったのは一見そう見えて、違和感を感じたからだ。何がどうと言われたら困るのだけれど、直感的に拓也にはそう感じられたのだ。
ふと顔を上げると人の流れの中に、見知った女性が笑顔で歩いてくるではないか。麻里は拓也の顔を一瞥すると柱の反対側にいる男女に向かって、「………お待たせ」……と、声を掛けてから拓也の側にやって来た。
麻里から紹介された2人のうちの女性は学生時代からの友達らしく、麻里から何やら話を聞いているらしい彼女は、意味ありげな笑顔を見せる。
隣の男性は彼女の連れらしく、ダンディな雰囲気を漂わせて……やぁ、宜しく……と、握手で挨拶をしてきた。2人の雰囲気と麻里のしたり顔からやはり夫婦ではなく、不倫の関係らしい。なるほどこの2人にとっては拓也と麻里も同類なのだから、禁断の姿を隠さなくてもいいというわけだ。
麻里に利用された感は否めないけれど、麻里も隠れ蓑にするにはこれ以上はない相手というわけである。
ホームへと歩く2人の後ろを歩きながら、どこまで話しているのかを麻里に聞くと、夜のモデルのことは内緒で、拓也は歳下の不倫相手にされているらしい。悪戯っ子のように舌を出す麻里は、まるで修学旅行にでも行くように浮き足立っていた。
1時間半ほどの移動中に電車の中で駅弁を広げ、二組の男女が食事を摂るのは妙な感じがする。
背徳感からなのか味もよく分からないまま口に箸を運ぶ自分たちなのに、麻里の友達とダンディな男性はベテランの余裕を見せている。彼は上唇の上に生やしたヒゲを、白い歯を見せながらニヤリと笑って動かし、同類の親しみを見せてくる。
複雑な気分になった………。
旅館にチェックインを済ませると、まだ時間が早いことからそれぞれが相方と連れ立って温泉街の散策に出た。情緒のある温泉街にはいわゆる昔のパチンコや射的をさせてくれるお店があり、少女のようにはしゃぐ麻里が見たこともない笑顔を見せる。普段は食べないであろう名物の温泉饅頭を食べ、あの2人と別行動になってから不意に腕を組んでくる麻里が女の顔になっていた。
真ん中に川が流れる温泉街には所々に柳が植えられ、川の両側に落ち着いた木造の背の高い旅館が立ち並ぶ。浴衣を着て歩く温泉客の中を時間を忘れ、散策する。時が止まったように明治、大正の雰囲気を色濃く残す温泉街………不意に目眩を覚えると初めて来たのにどこか懐かしさを感じ、とても不思議な気分になった。
そろそろ旅館に戻らなければならず、出で来た道とはまるで違う方向にいるからか方向感覚がおかしくなった。なのにどういうわけだか不思議と迷うことなく、曲がり角や建物の壁に見覚えがあるように思えて、真っ直ぐ帰ることが出来たのだ。まるでどこかの時代に前世で麻里と出会い、ここを訪れていたことがあるかのに…………。
部屋に戻って浴衣に着替えると下着などを持ち、浴場へと2人は向かう。幅の狭い廊下を進みながら増築を繰り返して複雑に折り曲がった壁沿いを歩き、1度上がった階段を今度は降りる。歴史あるこの建物が実は斜面に建っていることが分かるようにまた階段を下り、暖簾の掛かった場所にやっと辿り着いた。入口は男女が別になっているけれど、出た先は混浴風呂になっている………。
檜で縁取られた贅沢な造りの浴場は数十人が身体を浸かっても余裕がありそうで、家族連れや老人がそこかしこに見える。そこに湯浴み着を身に着けた麻里が現れ、2人でかけ湯をしてからゆっくり足からお湯の中に入った。
まずは下見がてら雰囲気を知るために来たので、30分ほど浸かって名残惜し気な麻里を連れ出して、部屋へと戻ることにした。あまりに人が多くてゆっくり楽しめそうになかったのだ。麻里を残して自分だけ戻ろうと思ったけれど、彼女の性格を考えると、落ち込むか不貞腐れるかのどちらかになる。就寝前にまた浸かりに行こうと麻里を誘うと、素直に頷く彼女はなぜだか色気が漂っていた。時間的に考えて大部分の人は、寝ているだろう。その事実は麻里に、何を想わせたのだろう。
食事は部屋の中に運ばれてきた心尽くしの料理を、美味しく頂いた。鹿肉の朴葉焼き、岩魚のお造り、猪鍋が絶品だった。片付けに来た仲居さんに浴場の時間を改めて聞くと、夜中にメンテナンスをするのは利用するお客様がいない時で、大抵は早朝に行われるのだと教えてくれた。受付でそこまで教えてくれなかったのは、夜中に酔っ払いがお風呂でトラブルを起こすことが多かったからだと、仲居さんはこっそり教えてくれたのだ。
あまり公にしたくない旅館側の考えは理解出来るもので、仲居さんもあぁ余計なことを喋っちゃったと、口外しないで欲しいと目で訴えて来る。
喋りませんからと約束して、こういう時のためにテッシュに包んでおいたチップを、こっそり仲居さんに手渡す。あら…若いのに、今時の人にしては分かってるわね、というような顔をして嬉しそうに、ある一言を残して下がっていった。
夜中の2時から3時は大抵、人がませんから……。
仲居さんがそんな意味深な言葉を残した理由のひとつは、チップを貰えたこともあるのだろう。けれどもうひとつは見た目にも一回りは違う男女がひとつの部屋にいるこということは、察したに違いない。長く仲居を続ける洞察力は、伊達ではないと拓也は思い知った。
軽くアルコールが入った麻里が、しなだれ掛かってきた。浴衣の合わせ目から手を入れて、優しく乳房を揉む指で乳首を捏ねくり回す。はぁん……と吐息を漏らす麻里の前を開き、交互に左右の乳首に口をつけていく。麻里の興奮を如実に表すように硬く勃起した乳首が、舌先に踊らされては身を起こす。布団に移動した2人は身体を重ね、浴衣の前を開かれたた麻里の身体に拓也の舌が這い回る。麻里の肌を摘むように唇を動かし、拓也が下へ下へと身体をずらしていく。幾度も愛され見られてきてもこの期に及んで恥ずかしいらしく、一応の抵抗を見せる麻里。
引き下げられようとするショーツのサイドを掴み、抗いながら最終的に奪い去る。股の間に拓也の顔が埋まると麻里が背中を浮かせ、両膝を立てた麻里の脚の間にいる彼の頭を掻き回す。パート先の嫌な上司の顔もだらしない夫の顔も、ママさんバレーのうるさい先輩も子供のことも、すべて忘れていく。我慢できなくて押し倒した彼を逆さに跨ぎ、ペニスを頬張る。モデルの中でも間違いなくフェラチオが上手い彼女に負けないように、拓也も目の前の恥部にむしゃぶりつく。
吸われることに弱い麻里が、くぐもった声を出す。主導権を握らないと音を上げることになり、そうなる前に拓也が仕掛ける。上下に素早く舌先を走らせ続け、パンパンに勃起したクリトリスを弾く。堪えきれなくてペニスを吐き出し、喘ぐ彼女を身体の向きを変えさせて顔の上を跨がせる。
こうすることで喘ぎ狂う麻里を見ることが可能になり、両太腿を拘束して舌を動かしていく。
上体しか動かせない麻里が身体を捩り、何度も頭を跳ね上げる。小さな急所をなぶられる麻里の肩から浴衣がずれ落ち、白い背中が露わになる。
ううんっ!……うんっ!……んぐっ……!!
反り返った背中を弾ませた麻里が、絶頂する……。
息も絶え絶えな麻里が瞳に怪しい炎を灯し、身体を下げて手で引き起こしたペニスを自分であてがい、ゆっくりと腰を沈めていく。もうどれくらい我が身に受け入れてきたのか、今日も膣の中がみっちりと埋まる感覚に吐息が漏れる。
誰の目を気にすることもなく、好きに味わっていく麻里が腰を揺らしながらゆっくりと頷くように頭を上下に振る。目を閉じてその快感を享受する身体が熱く燃え上がり、腰が激しく上下する。
拓也に突っ伏してはしばらく休み、身を起こしては前後に腰を振る。泣き出しそうな顔をしていたかと思えば、恍惚とさせて自分の世界に入る。
憑依されたように激しく感じ始めたかと思えば、唸り声を発して腰を躍動させて果ててしまう。
その麻里を仰向けにした拓也はゆっくりと味わうように、腰を前後させていく。妖艶だった麻里は恍惚に染まった顔を紅潮させて、初めて交わったあの日のように少女の清楚さを漂わせていた。
疲れて腕の中で眠ってしまった麻里に揺り起こされて、夜中の1時半を過ぎていることを知る。
このまま朝まで眠りたいけれど、期待に満ちた顔の麻里が許してくれそうにない。下着も着けずに浴衣を纏った麻里が妖艶な顔をして、狭い廊下を進んでいく。時々こちらを振り返り、暖色系のやや暗い照明の下で階段を何度か昇り降りしてようやく浴場の前の、暖簾が掛かった入口に辿り着く。
そのままでもいいと思うけれど、一応は規則を守り湯浴み着を身に着けて麻里は浴場に出た。薄暗く白い湯気が立ち込める中に拓也を見つけ、流儀としてかけ湯をしてから湯の中に入った。
目が慣れるてくるとびっくりしたことに、麻里の友達カップルが先にきていたことに気付く。考えていることは同じらしく、他にもカップルが一組と老人が数人、若い男と中年の男が3人もいた。
これでは………と、半ば諦め始めた拓也に、麻里のお友達カップルが擦り寄ってきた。
麻里の友達は彼女にヒソヒソと何かを囁やき、連れのダンディな男性は拓也の隣に来た。
やぁ、老人たちは多分もうすぐ上がって行くと思うよ………。
夜中に目が覚めて、ひとっ風呂浴びに来ただけだろうからね………。
あのカップルは俺達と同じ目的だろうし、他の男どもは野次馬なだけだから心配ないさ………。
野次馬と言った例えがいまいち理解できない顔をする拓也に、ダンディは付け加えた。
あぁここで言う野次馬ってのはね、通称ワニだっ揶揄をされる覗きを趣味とする好き物さ………。
ほらワニって水面に両目を出して、獲物を待つだろ?………だからそう例えられたんだろうな……。
あいつ等はほら、見たいからいつまでも待つんだよ………。
自分からは湯の中から絶対に出ないで、そのときが来るまでひたすら待つ………。
そんなに見たいなら俺達を、見せてやろうじゃないか………。
ダンディはニヒルな笑顔を見せて、相方の麻里の友達を連れて向こう側へと離れていった。
彼の言う通り30分ほどで老人たちは上がって行き、何となく居づらさを覚えたのか、若い男性のひとりも居なくなった。
不意にワニらしい男たちが目ざとくダンディたちの方へ移動をはじめると、縁に腰掛けた彼の姿に気付く。よく見ると股の間に麻里のお友達らしき頭が……連中が移動していった理由はそれだった。
拓也たちの他にいるカップルもダンディたちが気になるのか、凝視している。
そのカップルの視線の先にいるダンディたちは、一見して何の異変も感じられなく見える。
けれど湯気が切れたタイミングで見えた光景は、麻里のお友達の頭が揺れて、湯面に緩やかなうねりができていること。
その意味するところは、明らかだった。
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